わたし、今、
「あったま……痛っ……」
酷い頭痛に苦しみながら春は瞼を開いた。目の前に広がる白い天井を見て、ここが自分の部屋ではないことをすぐに理解させた。
顔を横に向ければ、窓から覗く景色を少し呆けて見つめた。淡い水色をした空にビルの群れが窓から見える景色だった。
深い溜息をしてから体を起こして右手を頭に置いた。酷い痛みに顔をゆがめていたら、ふと右腕の違和感に気が付いた。
点滴が刺されており、チューブを視線だけで追うと袋の方は残り少なくなっている。ここが病院であること、そして点滴をされていることに気が滅入る。
二秒ごとに襲ってくる頭痛に肩が張ってくる。首を回しながら病室を眺めてみる。病室のテレビの脇の棚に見慣れないバックが置いてあった。誰のだろうか?
きっとママが持ってきてくれたのだろう。でも、家にあんなバックあったのだろうか?
そういえばだが――。
「わたし、どうしてここにいるだっけ?」
看護師が点滴を替えに来てくれた。春が起き上がっているのを見て驚いたようで、一目散に駆けていったが、すぐに戻ってきた。患者が起きているくらいで慌ただしい人だなと感じた。
「先生の回診は九時ごろを予定しています。あと面会は午後の十四時からですから、その時にお母さんが来てくれると思います。多分お友達も」
「友達ですか? 誰が来てくれたんですか?」
「えっとお名前まではちょっとお聞きしていませんでした。えっと、確か昨日もお母さんと一緒にいらしてましたよ。同じ大学に通われているって、お母さんがお話されていましたよ」
看護師の言葉に春は首を傾げ、さらに眉間に深い皴を寄せた。
「同じ……大学?」
訂正は早めにしておくべきだ。看護師さんも毎日大変で、大勢の患者さんがいるから混乱しているのだろう。
「あの、すみません? 何を言われているのか……ちょっと分からないんですけど?」
「はい?」
頭の奥がズキンと痛んだ。何か、大事なことを思い出さなきゃいけない気がする。でも、記憶の靄がかかっているみたいに、考えがうまくまとまらない——。
でも、これは言っておかなければならない。
「あの……わたし今、中学生ですよ? 中学三年生です。今年、高校受験なんですよ」
看護師は一瞬息を呑んで、まるで冗談かのように笑おうとしたが、すぐに真顔になった。取り替えた点滴を手に持ちながら凍ってしまったかのように口をあんぐりと開けたまま固まっていた。




