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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第13章「身も蓋もないバイブルを焼き捨てる夜へ」
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第99話 「ノゥ」



挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

※※※※※※※※※※※※※※※※※※

※※※※※※



「私が皆殺しにした。660人全員ね。大変だったんだよ、本当に……気の遠くなるような日々だった」


 神父の告白は続く。

 自身の、壮絶(そうぜつ)な復讐の日々―――


「本当に気が遠くなるような日々だった。ようやく皆殺しにしたと思ったが、肝心(かんじん)の白リン弾の入手ルートだけは、まったくわからなかった。それで仕方なく、幹部メンバーを拷問(ごうもん)したんだ」


 平然と殺人歴を語るルディ。

 ドン引きの2人。


「アンタ、さっきからスゴいこと言うよね。さらっと」

「もうこっちもサラっと聞こうぜ。で、拷問してどうした?」


「どうもこうも……拷問したその幹部が言ったんだ。『ノースピーク共和国から脱北(だっぽく)した陸軍兵から、横流しされた』とね」


 淡々(たんたん)と話すルディだったが、すこし声のトーンが低くなる。

 脱北兵……というと、アイツのことに違いない。



「レインショットのことか」

 苦々(にがにが)しく吐き捨てるフォックス。


「さすがに気を失いそうになったよ……」

 こくりと(うなづ)きながら、ルディは続ける。

「それが4年前だ。探しに探し、一昨日(おととい)ついにレインショットを殺して、私たちの復讐は終わった。ようやくね」



「じゃあ、さっきの女どもがキャーキャー言ってたのって、家族の(かたき)()てたからだったのかよ」

「そ、そりゃおめでとう。スゲー話なんだけど……つーか、それをアンタひとりでやってのけたのかよ」


 なんと言っていいのかわからず、おめでとうとか言うトラ。


 だがそんな復讐を、果たしてひとりで出来るものなのか? たとえアイテムを使ったにせよ。



「もちろん私ひとりではない。支援者がいるんだ。さっきの彼女たちを含む、アルベル・スタジアム事件の被害者、そして犠牲者の遺族だよ」

「事件の関係者、18744人が支援団体を作って私を支えてくれた。『神父、どうか(かたき)()ってください』とね。それは私自身の望みでもあった」



「……それでさっき、電話が鳴りっぱなしとか、メールがメッチャ来てるとか言ってたのか。その支援者からだな? そ、そりゃそうか。祝電殺到(しゅくでんさっとう)だな」


「それじゃ昨日で……いや、おとといか。レインショットを殺して、全員の悲願を達成したってわけ?」



「そうだ……今日の吉報(きっぽう)を、みんなに聞かせてやりたかった。この12年の間に、18744人中、311人が死んだ」

「ある者は老衰(ろうすい)で、ある者は事件の後遺症で、ある者は(みずか)らの手で自らを。ある者は私とともにテログループのアジトに乗りこみ、反撃に合い……無念だよ」



 ……ほとんど狂気のストーリー。

 さすがのトラとフォックスにも茶化(ちゃか)せない。

 たまらず話題を変えた。


「そ、それはそれは……で、次に……ええと、なにを聞きゃいいんだろ?」

「シーカとアンタは、どういう関係なんだ?」



 よりによって、シーカの話。



※ ※



「関係と言われてもね。つい先日、彼がここに訪ねてきたんだ。 “ 探索(たんさく) ” というんだったか? フォックス君の籠手にもできるだろう? 「○○はどこだ」式の探し物を」

「ああ」


「彼がそれを使って、 " 穢卑面(エヒメ) " と " ()(もり) " に会いに来たんだ。その宿主(やどぬし)が、たまたま私だっただけだよ」


 やはり淡々(たんたん)と答えるルディ。


 どうやら、シーカはいまだにアイテム探しを続けているらしい。

 まあ、どうせ煙羅煙羅(えんらえんら)の指示だろうが。



   ……ちょい待ち。



 トラとフォックスの頭上に、疑問符が浮かぶ。


「ちょい待ち……エヒメ?」

「サキモリ……さっきから聞きたかったんだけど、そのアイテムか?」

 2人で首をかしげる。


「おっと、言い忘れたね。私の呪いの名前だよ。この仮面が “ 穢卑面(エヒメ) ” 。胸甲が “ ()(もり) ” だ」

 右手で仮面を、左手で胸甲を指さすルディ。

 彼が初めて見せる、ひょうきんなポーズ。



「それでわかったぜ。シーカが、俺たちの居場所を探索したんだな?」

 こほんこほんと煙を()くトラ。


「なんでアタシ達を探したんだ?」

 すぱすぱと煙を吐くフォックス。


 いつの間にか、灰皿に5本も吸い(ガラ)が出来ていた。吸いすぎだ。



「いや、別に理由はない。たまたま君たちの話になって、成り()きでだ。君たちは軍艦(ぐんかん)の上にいて―――その軍艦を穢卑面(エヒメ)見ていたら(・・・・・)、レインショットが見つかったんだ。さすがに驚いたよ」


 顛末(てんまつ)を語るルディ。

 一方、フォックスとトラの眉間にシワが寄る。


「えー……はい???」

「いま、なんて言った? 見た(・・)ってなんだよ?」



「ああそうか、それも説明しないとね。穢卑面(エヒメ)の能力は『遠視』だ」

 自らの仮面を指さすルディ。

「どんなに離れた場所でも……たとえば密閉空間だろうが地球の反対側だろうが、深海の底だろうと “ 見る ” ことができるんだ。千里眼(せんりがん)と言えばわかりやすいかな。自分のうしろ姿でも見える」



「……無敵じゃん」

「具体的に見るってのは? ……いや、今はいいや。それで?」



「テログループを皆殺しにする過程で、白リン弾の入手元(にゅうしゅもと)がレインショットだとは分かった。だが、どこにいるのかさっぱりわからなかった」

「4年間……ずっと足取りを追っても見つからなかった。それを偶然やってきたシーカくんが、たまたま君たちを探索したことで見つかったんだ。皮肉なものだよ」


 上手い話もあるものだ。

 出来すぎた話とも言えるが。


「見つけたときビックリしたろ?」

「アタシならショック死するかも」



「心臓が止まるかと思ったさ。ただちに “ 軍艦かしはら ” の着港地点の町に、飛行機の予約を取らせた。その日の便(びん)に空きがあって幸運だったよ」

「言うまでもなく、向かう飛行機の中でも " かしはら " の監視を続けていた。ところが予想もしないことが起こった。マリィ君だ。彼女が軍艦にやってきて……あとは知っての通りだよ」



挿絵(By みてみん)



「…………」


 マリィの名前が出たことで、フォックスの顔色が変わる。どこか悲し()な……オーナーの表情に気づいたトラが、あわてて続きを催促(さいそく)した。



「よ、よう。それよか、シーカが連れてたロボットは? やっぱ “ 煙羅煙羅(えんらえんら) ” か?」


 ちょっと無理のある話題の変えかただ。

 まあ、トラにしては上出来のほうだろう。



「ああ。煙羅煙羅(えんらえんら)の話は、説明が長くなるのだがね……」

 ルディは少し考えこみ……ぽつぽつと語り始めた。



※ ※



「飛行機に間に合わないと大変だからね。私は急いで空港に出かけようとしたんだ。ところがそのタイミングで、シーカ君がパニックを起こしてね。何事かと思ったら、煙羅煙羅(えんらえんら)が外れたと大騒(おおさわ)ぎさ。あれには参ったよ」


 本当に参った、と言わんばかりのルディ。

 さぞかし大変だったのだろう。たしかにシーカがテンパったら、なにを言ってるか聞き取るのは不可能に近い。



「どんな感じだったのかな」

「は、は、は、外れた、とかそんな感じじゃないスか?」

 


「おおむね、そんな感じだった。とにかく私はレインショットのことで、それどころじゃなかったんでね。ゆっくり聞いている時間もなかったので、仕方ないから一緒に連れてきたんだ。もちろん煙羅煙羅もだ」



挿絵(By みてみん)



 シーカが港に来たのは、あまりにバカげた理由だったようだ。

 いや、それよりも重要な疑問がある。

 それを尋ねたのはフォックス。


煙羅煙羅(えんらえんら)は、なんで外れたんだ?」

 

「どうやらニニコくんが、煙羅煙羅のネジを食べたそうだね。ネジがないから取れちゃったらしい」

 肩をすくめて答えるルディ。


 ため息をつく2人……予想した通りだった。


「やっぱりか。くだらね」

「んな簡単にアイテムって変形すんのかよ」


 自分たちの人生をメチャクチャにした呪い。

 それが、こんなしょうもない理由で脱着(だっちゃく)したと聞かされては、たまったもんじゃない。


 しかし、ルディの興味は別のところへ。


「さっきから気になっていたんだが、アイテム(・・・・)というのは、(よろい)のことかね? ユニークな表現だな」


 (くちびる)をとがらせるトラ。

「つっても、他になんて呼びゃいいのよ。ウェポンとか?」


 ぼりぼりと髪をかき上げ、フォックスがルディを見上げた。


「それより、そろそろ聞かせてくれ。なんでアタシ達を助けてくれたわけ? あんたの目的は? もう復讐は終わったんだろ?」 


 1秒、5秒……沈黙が続く。

 ようやくルディが答えを返した。



(よろい)……君たちの言葉を借りれば、アイテムか。13個すべてを集めたい」


「はあ?」

「はあ?」

 予想もしなかった回答。

 2人が顔を見合わせる。

 つぶやくように、フォックスが口を開いた。

「……なんで?」


「私の願いではない。この穢卑面(エヒメ)と、()(もり)の願いだ。アイテムたちは、ひとつの鎧に戻りたいそうでね」

「……だからなに? それを(かな)えてやる理由は?」 

 おだやかな口調(くちょう)のルディ。

 だんだん口調がキツくなるフォックス。


 黙って聞いているトラの表情も、(けわ)しくなってきた。

 回答を続けるルディ―――


「私が復讐をなしえたのはアイテムのおかげだ。だから今度は、私がアイテムのために生きる。それだけだ」

「アタシ達にアイテム探しを手伝えってこと?」


「平たく言えばそうだ。力を貸してほしい。君とシーカくんの “ 探索 ” があれば、たやすいことだろう?」

「……アンタの活動資金は、その支援者だかが負担してんだろ? 納得するのか?」


 金の話まで持ち出すフォックス。

 ものっすごい、気が乗りません(・・・・・・・)アピール。


 しかし―――



「もちろんだ。復讐が成った(あかつき)には、()(もり)の願いに従う。それが支援者18744人の合意だからね。もちろんアイテム探しを手伝ってくれるだろう?」

 問題ないですけど(・・・・・・・・)アピールをするルディ。


「…………」

 考えこむフォックス。

 しばらく、うーんとうつむき、そして、


「悪いけど、断るね」



 断っちゃった。



挿絵(By みてみん)



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終身刑の魔女より

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いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



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