第97話 「シスターズ」
パ――――――ン!
パ――――――ン!!
パンパ―――――ン!!
「おかえりなさいませー!」
「おめでとうございます、神父さま!!」
「お疲れ様です! イエー!」
大歓声。
待ち受けていた6人の修道女が、いっせいにクラッカーを鳴らした。
紙吹雪を浴びるルディ。
マジにひっくり返るトラとフォックス。
「ありがとう、ヤエ、アルル、ステフ、セラス。それに運転お疲れさまだったね、レオ、ケイト」
ひとりひとり名前を言いながら、ルディは車を降りる。
どうやらそのうちの2人。
レオとケイトが、トレーラーを夜通し運転していたらしい。
ていうか、外は夜だ。
もしかして、あれから24時間以上たって、次の日の夜か!?
丸一日経過しているらしい。
トレーラーが着いたのは教会。
広い庭園のなかに、レンガ造りの教会が見える。
「こっちだ。来たまえ」
先導して歩くルディが、ついて来いと教会に向かう。あとに続く6人の修道女、トラ、そしてフォックス……
ズシ、ズシ。
トラの足音だけが、やたら闇夜にやかましく響く。
「なあ、ここってアンタの教会なのか?」
「ああ。そして、今日から我々のアジトになる。君たちの部屋も用意させよう」
「ていうか、いま何日?」
「14日だ。君たち、丸1日寝ていたんだよ」
門をくぐり、立木や植木のあふれる広い中庭をすすむ9人。
やがて建物の全景が見えてきたが……これはまるで、トラが長靴に呪われた教会そっくりではないか。
「あーらら、ふるさとを思い出すぜ」
いや3か月前までいた故郷ですけどね?
懐かしがるトラ。
一方、にぎやかな神父の周囲。
『ここに戻ってくると、いつも神を身近に感じますね。ルディ神父』
「そうだな咲き銛」
" 咲き銛 " の穏やかな声が、夜の闇にひびく。
本当にルディと仲がいいらしい。
……アイテムが、人間と?
そして周りを取り巻く、若い娘たち。
「ね~神父さまぁ。レインショットの最期ってどんな感じでした?」
「思いっきり苦しめて殺してくださったんでしょ、キャー!」
「皆さんにメール送っときましたよ。もう返信がすごくて……」
「電話も鳴りっぱなしだったんですから~」
キャピキャピ言いながら、ルディを取り巻いて歩く。一様に修道服を着ているが、この軽さはどうだ。
「てゆうかシーカは? 一緒じゃないんですか?」
「アンタ、シーカ好きね。どこがいいのアイツ」
「ねー、後ろの2人見て。なんか超、陰気臭いんだけど」
後ろの2人……
あとに続く、トラとフォックス。
ズシズシズシ。
トラの足音が石畳に響く。
「ねえ、オーナー。こりゃどうなってんすかね」
ヒソヒソ。
「うーん。これはきっと、肉体オルグってやつだな」
ヒソヒソ。
「な、なんすかそれ」
ヒソヒソ。
「宗教団体とか極左団体がよくやる手だ。セックスを持ちかけて、入信をせまる勧誘方法だよ」
ヒソヒソ。
「エッ!? じゃあ俺、もしかしてあのシスターたちに……怖い」
ヒソヒソ。
「なんでうれしそうなんだ!」
ヒソヒソ。
「あ、あんなことや、こんなことに。はぁ、はぁ、はぁ……」
「……トラ?」
「あっ、あっ、あっ。はーはー、はー、はー……」
「……だめだ、妄想モードに入っちまった」
ぞっ。
「全部聞こえているんだがね!」
ムッとした声で答えるルディ。
聞こえていたらしい。
「彼女たちを侮辱することは許さん。いいかね」
めっちゃ怖い声で怒る。
対する、フォックスとトラの不真面目な態度。
「神父さん、タバコある?」
「お、俺はこのあとどんなスゴいことに……はぁ、はぁ、はぁ」
まったく話を聞いていない。
「いい加減にしたまえ! トラくん、聞いてるのかね!」
怒るルディ。
「そして、そして……ああもう、うっせぇな! 集中できやしねえ!」
現実に戻ってくるトラ。
妄想の世界から呼び戻されて、超不機嫌なようだ。
「つーか神父さんさあ。ちょっといいスか?」
トラはとつぜん眉をしかめ、女たちをかき分けてルディににじり寄る。
ズシン!
ズシンズシン!
ガン飛ばしまくり。
「ニニコどこにいんだよ? 助けてもらったことなんか、どうでもよくなってきたぜ。シーカの居場所も知ってんだろ、言えよ」
ズシン!
至近距離で睨みつける。
いっせいに修道女が非難し始めた。
「なにこいつ! ねー神父さま、コイツなんなんです!」
「いまの聞いた? 助けてもらっといてバカだべ!?」
「超なれなれしいんだけど! こっち来ないでよ!」
「なにそのヨロイ! 長靴じゃん、だっさー」
「 " 咲き銛 " 、こいつ黙らせてよ!」
「てゆーか、さっきからハァハァ言ってキモすぎ! こっち見ないでよ!」
やいのやいの言うシスターたち。
ひどく言葉が乱暴だ。
ブッチ切れるトラ……
「ブ、ブ、ブチン! てめッ、もっぺん言ってみろ! 嫁に行けない体にされてーのかゴラァ!」
ズシンズシンズシン!
「あッ、よせトラ!」
叫ぶフォックス。
だがその制止も間に合わず、トラは血走った眼で修道女に襲いかかる。まるで暴行魔……
「キャー!」
「こっち来た!」
「イヤぁ!」
『おやめなさい』
バシ――――――ン!!
咲き銛が槍を伸ばし、鞭のごとくトラの頭を張り倒した。
「ほげ―――!!」
うずくまるトラ。
ダンゴムシのように丸まった姿の小さいことよ。
「痛てええ! うおおおおおおおおおん!」
こだまする悲鳴。
女たちの歓声が上がる。
「わーい、いい気味! こいつザコすぎ。神父さまに勝てるわけないしぃ」
「いや……待って。こんな弱いヤツ、仲間にしてどうすんだ?」
「ぶっちゃけシーカくらい強いのかと思った」
「アンタ、ほんとシーカ推すね。なにがいいの?」
「え、カッコいいじゃん。マジで私、あれがタイプかも」
「わかる、超わかる! なんかアウトロ~って感じっしょ!」
メチャクチャに罵倒される。
いや罵倒どころか、もう誰もトラの話さえしていない。まだ頭を押さえて、うずくまっているというのに。
「うおおおおおおおおおおおおん、オーナー!」
悔しくて泣くトラ。
情けなさすぎて、フォックスは顔を覆う。
「アタシは情けない……」
「咲き銛! 余計なことをするな!」
『お言葉ですがルディ神父! 私は彼女たちを守ろうと……』
怒るルディ。
弁解する、咲き銛。
「君たちもだ! 言葉を慎みたまえ!」
「でも、でも、こいつがぁ」
怒るルディ。
弁解する6人の修道女。
すぐそこに見える教会にたどり着いたのは、それから40分経ってからだった。




