表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第12章「なす術もないパニックを焼き捨てる神の使いへ」
95/249

第95話 「R18」



「トラ……これから、どうしよっか」

「……さあ?」


 同日、20時。

 ここは……どこだろうか?


 ここは、どこかの会社の倉庫。

 港からもっとも近い町の、雑居ビルの地下倉庫だ。とてもホコリっぽい。


 施錠(せじょう)されていたシャッターを(ちから)ずくで押し上げ、侵入したのが30分前。やっとフォックスが目を覚ました。



挿絵(By みてみん)



 大量の機材、資材が詰めこまれた倉庫の中。

 2人のヒソヒソ声だけが、しぃんと響く。


「なあ……(カネ)、いくらある?」

 木箱に腰かけるフォックス。

 その表情は(けわ)しい。


「ん……こんだけっスね。オーナーから預かってる20万だけっスよ」

 木箱に腰かけるトラ。

 もぞもぞと長靴に指をつっこみ、中を探る。取り出した紙幣20枚を、フォックスに渡した。

「オーナーは? 籠手の中に、たしか」


「……ああ」

 神妙(しんみょう)な顔で、フォックスが籠手を逆さに振る。

 カラン、カラン。

 籠手の内側から出てきたのは、宝石が2つ。


 ダイヤモンドだ、大きい。

 さぞ値の()るものだろう。

 だが―――

「換金できそうもねえな。はは、服もねえし」



 2人はまだ着替えさえしていない。トラは包帯グルグル巻きだし、フォックスはタオルケットに(くる)まったままだ。


 てゆうか、手錠も外せていない。

 とくにフォックスの籠手には、ガソリンを満載したボトルが(くく)りつけられている。


 トラが何度も何度も、爪がはがれそうになるまで針金を外そうと(こころ)みた。だが、素手ではビクともしなかった。


 やがてここにも捜査(そうさ)の手がおよぶだろう。

 なぜなら―――


「……トラ」

「……はい?」


「指、大丈夫か?」

「あー、痛いデス」


「手錠についてる発信機って、どんくらいの精度なんだろうな?」

「さあ……さすがに地下じゃ、GPSの電波は届いてないでしょうけどね」


「……」

「……ん……」

 

 手錠には、位置情報発信機が取りつけられているのだ。警察に発見されるのは時間の問題だろう。

 


「ドクロの仮面に、(トゲ)だらけのプロテクターつけた野郎が、レインショットを殺したんすよ。ワケわかんねえけど、どう考えても俺らを助けに来た(・・・・・)って感じでしたよ。いっしょに来いとか言ってましたし」

「……2つのアイテムに呪われてやがんのか。その、トゲトゲ防具を使ってレインショットを殺したんだっけ? 槍を無数に()やすアイテムか……仮面のほうは?」


「わかんねえス。それよか、あの小っちぇえロボットですよ」

「あれ何だったんだろうな。やっぱ “ 煙羅煙羅(えんらえんら) ” か」


「たぶんそうっすよ。なんであんな姿に……アッ!」

「どうした?」


「ニニコだ……! ニニコが、煙羅煙羅のネジを食ったんすよ。もしかしてそれで……!」

「ネジが1本足りねえから、ごっそり外れちまったってか? んなアホな……いや、でもあのロボット、確かに言ってたな。ネジを返せって」


「でしょ? それならシーカが、ニニコだけ(さら)ってった理由が……ニニコ、どうなっちまったんスかね。探せ(・・)るッスか?」

「やってみる……籠手よ籠手よ、籠手さん。ニニコとシーカはどこだ?」



   ガシャ……


  『あっち』


   ビシ!

   


「2人とも一か所にいるな……何もされてなきゃいいが」

「警察、どこまで追ってきてますかね」


「わかんねえ。ごめんなトラ」

「……え?」


「結局、逃走したぶんだけ罪が重くなっただけだ。ニニコを逃がせたのは良かったけど、お前はとばっちり(・・・・・)食っただけじゃん」

「なんでオーナーが謝るんスか? いいスよ。っていうか、もう呪いを()くってのも無理ゲーっぽいスから」


「……お前は、アタシに(おど)されて行動してたんだ。ってことでいいな?」

「よくないっスよ。オーナーだけ死刑で、俺だけ短期刑ですか? 絶対イヤっすね」


強情(ごうじょう)はるな」

「やなこった」


「アタシも死刑にならずにすむ方法がある。って言ったらどうする?」

「え?」


「……」

「……」


「……」

「……えー……方法とは?」


妊娠(にんしん)する」

「すいません。よく聞こえな……」


(はら)んでたら、そのあいだは死刑になんねえんだ。産むまで執行(しっこう)を延期される」

「……産んだあとで死刑になるんじゃん」


「それまでに司法取引の材料さがすよ。ちょっとでも可能性があれば……すがりてえ」

「……」


「おかしいな。朝からずっと、死刑になってもいいや、みたいな気分だったのに。いざこんな状況になったら怖くなってきた」

「……」


「震えが止まんねえ」

「……」


「だから、トラ」

「……いやス」


「……なんで?」

「だって」


「……アタシ、(きたな)いからイヤか?」

「俺がもしそんな経緯(いきさつ)で出来たガキだったら、親を殺しますよ」


「しよ」

「そ、その目をやめて」


「もうダメ。死にたくない」

「さ、触るのをやめて……」


「怖い」

「お、俺に乗るのをやめて……」













挿絵(By みてみん)



 そこにルディ登場。

  

「ちょっといいかね」



「わぁッ!」

「わあッ!」

 ドンガラガッシャ!

 とつぜん声をかけられ、2人はひっくり返る。顔面を強打―――


 長く短かったラブコメは終わりを()げた。


「痛ててて! ぎゃあ、てめえ!」

 鼻を押さえながら、トラが叫ぶ。



 そこにいたのは、あのガイコツ仮面。

 ずぶぬれの格好で、まるで妖怪のごとく薄暗がりの中に立っている。いつのまに……ボタボタと全身から水を()らし、パチャ、パチャと近づいてくるドクロ仮面。


「言っただろうトラくん。私のことはルディと呼んでくれ。いや、まず……動かないでくれ。 “ もり ” 、彼らの手錠を切って(・・・)あげたまえ」


『はい、ルディ神父』

 胸甲 “ 咲き銛 ” の、低い低い悪魔の声。


 と!

 ドズドスドスドズドス!


 バキンバキンバキンバキンバキンバキン!!

 ジュラジャラジャラ!!

 

 胸甲から(やり)が5本、目にもとまらぬ速さで飛び出した。

 シュバシュバ!

 剣をふるうように、トラ、フォックスの拘束を千切(ちぎ)り飛ばす! 飛沫(しぶき)―――……鎖のかけらがジャラジャラと床に散らばる。



「あ――――――! (こわ)ッ!」

「ひゃあ! トゲが伸びた!」

 パニック状態。

 解放された2人がわたわたと重なり合う。変な意味じゃなく。


「な……なにしに来やがった!」 

 身構えるトラ。


「なにしに、は無いだろうトラ君。一緒に来ると言ったじゃないか」

 しゅるしゅると槍を(ちぢ)めるルディ。

「それにフォックス君。ひとまずシーカ君とニニコ君に合流したいのだが、一緒に来てくれるね?」

 やさしく語りかける。


「……」

 答えないフォックス。


「フォックスくん?」


「待って、ほんとに助けてくれんのか? なんで……!? いや、なんでアタシの名前を……じゃない、なんでこの場所が!?」

「……来たまえ、車を待たせてある」


 今度はルディがフォックスの質問を無視した。


 背を向け、パチャパチャと歩きだす。

 ぱちゃ、ぱちゃ。

 足跡(あしあと)をぽたぽたと残しながら、出口へ向かうルディ。



「……」

「……」

 あとに残されたフォックスとトラが、顔を見合わせる。


「助かる、のか?」

「助かるんですか? これ」

 顔を見合わせる。

 2秒、3秒―――


「「待って! ルディ~!!」」

 追いすがる2人。



 ビルの外―――


 地上では、トレーラーがエンジン音を響かせていた。

 木造のトレーラーハウスを牽引(けんいん)する仕様の、奇妙なトレーラーが……


   

挿絵(By みてみん)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


終身刑の魔女より

 ↑

いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ