第87話 「プリズン」
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エイプリルが、拳銃ぶっ放しショーをやらかしている同時刻。
別の海上。
駆逐艦「かしはら」から、東へ進むこと30マイル。
ドドドドド……
20メートル級の巡視艇が、海上を走る。26ノットの最高速度で、海上警察庁に向けて。
巡視艇は、4人の重大犯罪者を拘束、護送している最中だ。
トラ。
ニニコ。
レインショット。
そして、放火魔バーベキューファイア。
4人は、拘置所を思わせる檻に収監されている。とても船の設備とは思えない。おそらく海賊や密航者を護送する特別製なのだろう。
厳重な監視のなか、聞こえるのはエンジン音と、レインショットの叫び声だけだ。
「お……おい……! この女を殺せ……さもないと全員殺される! 全員焼き殺されるぞ!」
鉄柵をつかみ、ガシャガシャと鳴らし続ける。
サブマシンガンで警戒する保安隊員2人は、なにも答えない。みっともなく喚きたてるレインショットを、ただただ白い目で睨むばかりだ。
「おい! 聞いているのか!? ここから出せと言ってるんじゃない! こ、この女を殺せと言ってるんだ!」
だれも反応しない。
ひときわ甲高いレインショットの絶叫。
「わ、わ、私を見るのをやめろおおおおおおお!」
3・3メートル四方の部屋。
いや牢屋。
コンクリの床にトラは倒れている。全身に包帯を巻きつけて。
1時間ほど前に、とうとう気を失ってしまったのだ。まだ意識は戻らない。まるでミイラ男……だが、しっかりと手錠をハメられていた。
ニニコはトラに寄りそうように、じっと体育座りをしていた。彼女も、やはり手錠をかけられている。
そしてフォックスは―――立っている。
全身のヤケドに、包帯をあてられただけの半裸。
フォックスも手錠をかけられていた。
左腕と、籠手の突起を、鎖でつながれている。
その籠手には、ガソリンのたっぷり入ったペットボトルを握らされていた。離せないよう、ボトルは籠手ぐるみ、針金でぐるぐる巻きにされているではないか。
火を出した瞬間、フォックスは丸焼きになるだろう。
その状態で立っている。
レインショットのすぐ目の前に。
まばたきひとつしない。
レインショットを、ただ黙って見ている。幽鬼のように。
「見るなアアアアアアア! 向こうへ行けえええええええええ!」
レインショットの死。
レインショットの死まで、あと2時間を切った。
とてつもなく酷いレインショットの死まで、あと1時間59分、58分……




