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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第10章「恥も外聞もないトリップを焼き捨てる馬鹿者たちへ」
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第81話 「レベッカ」



挿絵(By みてみん)



「あ……フォックス……ガソリンが……」


 ニニコとフォックスの体が(かわ)いていく。

 体中を(ひた)していたガソリンが、重力を無視するように()義肢(ぎし)に集まりだした。

 肌も、髪も、衣服も、床も、ガソリンに濡れているところはもう存在しない。


 水な義肢の表面に集まっていく。

 水な義肢に、ガソリンの(まく)が出来た。


「な……な……」

 唐突(とうとつ)に起こるいろんな出来事に、きょろきょろするニニコ。



 一方、フォックスは……泣いてよろこぶマリィの顔を(なが)め、なにが起きているかを(さと)った。


「マリィ、お前……ハイドランジアを吸ってるな。いったい……今を、いつだと(・・・・)思ってる……?」

 声をしぼり出す。

 今をいつだと思ってるのか――――――まちがいない。


 マリィは、あの日の記憶と混同している。



挿絵(By みてみん)



 コレラで、村のみんなが死んだ日。

 アタシがみんなを火葬した日。

 レベッカが、憲兵隊に殺された日。


 アタシをレベッカと混同している。

 ニニコを、フゥ(アタシ)と混同している。


 

   ひどい。



   そして事態は変わる。



※ ※


   

「艦長どの!」

「少佐、ご無事で!」

「ひどいヤケドだ、すぐに医務室へ……」

「いや、医官を呼べ!」

   

 通路から絶叫が聞こえる。

 十数人の、若い男の声。


 海兵たちが駆けつけてきたらしい。

 いや、駆けつけた。


「博士!」

「な、なんだ、これは……」

 司令室になだれこむ、屈強(くっきょう)な海兵たち。


「貴様、誰だ! なにをしている!」

 兵隊たちが、めちゃくちゃになった司令室に驚きの声を上げる。

 たちまちマリィに(つか)みかかった。


「拘束しろ、拘束だ!」

「了解! 貴様、動くなよ」

 

 だが……





「わたしたち(・・)に触るなアアアアアアア!」


 ドガドガドガ……!!

 やってきた海兵たちを振り払うマリィ。振りはらう、なんてもんじゃない! 

()義肢(ぎし)の両アームを、ムチのようにメチャクチャに振りまわした。

 ドガドガドガ!!



挿絵(By みてみん)

 


「うわ!」

「うおお!」

 大男たちが宙を舞う。

 ガソリンの(しずく)が飛び散る―――



「離れろ! レベッカとフゥに触らないで!」

 ()義肢(ぎし)をひろげて威嚇(いかく)するマリィ。鬼気(きき)せまるその顔……

「レベッカ! フゥ! こっちに来なさい、はやく!」


「行くか!」

 怒鳴(どな)るレベッカ……じゃないフォックス。



「貴様!」

「よくも……ちょ、ちょっと待て。な、なんだそりゃ?」

「つ、翼……? 腕??」


 一触即発(いっしょくそくはつ)

 銃を構える海兵6名と、マリィが対峙(たいじ)する。


「わたしたち(・・)が、いつまでも憲兵を恐れると思ったら大間違いだ!」

 がなるマリィ。


 顔を見合わせる水兵たち。

「け、憲兵?」

「なに言ってるんだコイツ……おい、貴様! おとなしくしろ」

「その腕、いや……なんだかわからないものを下ろせ!」


「党の犬め! 許さない……」

 シャキン!

 左のアームが(ちぢ)む。

 ()義肢(ぎし)によるパンチの構え―――



 フォックスの叫び。

「マリィ、よせ! 全員、()せろォ!」



 だが水兵たちは、()義肢(ぎし)の動きを見て、ギョッと固まっている。無理もない、あまりにも非現実的な光景。

 水な義肢の、格好(かっこう)のエジキだ。


 

   死―――……いいや!


   いいや!!

 


   窓の外に、トラ! 



「俺じゃあアアアア! マリイイイイイ!」

 咆哮(ほうこう)

 窓からトラが、絶叫する。



挿絵(By みてみん)



「ッッッ! なによ……」

 振り返ったマリィが、トラに向けて()義肢(ぎし)を伸ばした。


 ボッ……! 

 風切り音。(やり)のごとき速さで、マジックハンドがトラに襲いかかる。

 

 ドガァ!


 直撃―――していない!

 長靴を盾にした!


「ぬえええええええあ! お、重……」


 衝突!

 水な義肢が、長靴に貼りついた―――


「うぅりああああああああああ!」

 トラが渾身(こんしん)の脚力で長靴を振り回した。

 半回転―――勢いそのまま落下する。


 じゃない、飛び降りやがった!

道連(みちづ)れじゃアアアア!!」

 


「トラ!」

「トラぁ!」 

 フォックスとニニコが叫ぶ。



 再登場して6秒で退場するトラ。

 奈落から()い上がり、ふたたび奈落へ落ちていく。長靴に、()義肢(ぎし)を貼りつけて。


 ギャリギャリギャリギャリ………!!

 窓枠に(こす)られ、すさまじい摩擦(まさつ)音をあげる水な義肢のアーム。



「うわッ!」

 引っぱられ、マリィの体が宙に浮いた。

 窓へ、いや外へ、いや、甲板へ――――――引きずられていく。

「あ……」


 ちいさな悲鳴をひとつ()らし、マリィはふたたび甲板へと落ちて行った。



挿絵(By みてみん)



 司令室に残された全員が、いっせいに叫ぶ。


「トラ! きゃあああああ!」

「マリィ……!」


「うそだろ……!」

「落ちやがったぞ!」

「下だ! 下へ……」


 悲鳴、絶叫、悲鳴、悲鳴――――――


 直後……



 ドオオオオオオオオオオオオオン!

 

 轟音が鳴り響いた。

 


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終身刑の魔女より

 ↑

いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
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