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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第10章「恥も外聞もないトリップを焼き捨てる馬鹿者たちへ」
78/249

第78話 「ライク ア スパイダー」



挿絵(By みてみん)



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


※※※※※※※※※※※※※※※※※※


※※※※※※※※





 ザアアアアアアアアアアアアア……甲板に雨が降りしきる。


 (とりで)のようにそびえる、艦橋(かんきょう)の真下……トラは、背負っていたマリィを放り捨てた。



「………~~~~~~!!」

 頭を(かか)えこむトラ。

 叫びたいのに言葉が出てこない。ハイドランジアの効果が、切れた。


「ニャハハハハ!」

 笑い転げるマリィ。

 ハイドランジアの効果が、表れた。 



挿絵(By みてみん)

 


 トラの顔面はびきびきと(ゆが)み、血管が全身に浮き出ている。

 歯を(きし)り、甲板に転がるマリィにずしんと近づく。


「は、ははは……思い出したぜ。クソアマ…… “ 濡れ手でマリィ ” だっけか。思・い・出したよゴラぁ!」

 ずぶぬれのトラの絶叫。

 雨音を打ち消すほどの声を張り上げる。ようやく、ハイドランジアの効果が切れたらしい。



 対して、マリィ―――


「ぜんぜん思い出してないじゃないですか、ニャハハハハハハ! なんでオンブしてくれないんですかあ、ニャハハハハハハ!」


 トラの背中から放り捨てられたマリィ。

 ころころと寝そべり、甲板に(ほお)ずりをしている。

 両肩から伸びる()義肢(ぎし)のアームは、雨粒(あまつぶ)が結集し、全体が大きな水の腕(・・・)と化していた。


 だが、そんなことはどうでもいい。

 マリィの様子が普通ではない。


 さっき()めたハイドランジアの効果が表れてきたらしい。わけのわからないことをくり返している。


「ここまでのあらすじが分かりません! あなた知ってますかぁ? ニャハハ」



「し、し、知ってますかって……全部覚えとるわ!」

 再度トラの絶叫。

 どうやらトリップ中の記憶があるらしい。

「あ、あんなこともこんなことも覚え……うっぷ……おええええええええ!」


 バシャバシャと胃液をぶちまける。

「はぁ、はぁ、ぎ……気持ちわりい……あたまグラグラすんぜ……」


 手のひらで口を(ぬぐ)い、()れた艦橋の(かべ)にこすりつけた。



「こんなとこでゲロっちゃダメですよ、ニャハハハ!」

 笑うマリィ。


「ハァ、ハァ、誰のせいだボケ!」

 怒るトラ。


 “ 誰のせい ” ……やはりトリップ中の記憶があるらしい。

 


「ニャハハハ! 私はレベッカ(・・・・)のところへ行くのです! あの子(・・・)は私がいないと、すぐにイジけてしまうのです。きっと今ごろ泣いているのです!」

「レベッカて誰じゃあああああああ!」

 

 けたたましく笑うマリィ。

 スーパーブチ切れ状態のトラ……



   と―――


   バシャアア!


 雨水をたっぷり(たくわ)えた()義肢(ぎし)のアームが、2階デッキに伸びた!




「うわッ!」

 水たまりを()みつけたようなしぶきが飛び散る。もろに()びたトラが、ズシンとひるんだ。

「くそっ……あれ? あっ! どこ行きやがる!」



 マリィがいない。


 上―――

 マリィが上に登っていく。


 トラなどまったく無視。


 ()義肢(ぎし)を使ったロッククライミング。

 垂直の壁の、(こま)かい凹凸(おうとつ)や部品をつかみ、デッキを駆け上がっていくではないか。

 まるで蜘蛛(クモ)―――



「ま、待ちやがれ!」

 はるか上空のマリィにがなり立てるトラ。


「待ちません! ニャハハハ!」

 がしんがしんと()義肢(ぎし)がデッキに接触するたび、大量の水が降りそそぐ。

 (とう)を駆けのぼるマリィ。



「あああああああ! ラリ女、ぶっ殺してやる!」


 ガンガンガン!

 壁に長靴を貼りつけ、トラもあとを追う。

 ガンガンガン!


 ズルッ!


「うわッ!」



挿絵(By みてみん)



 ゴォン!!


「ひぶッ! ぐええええええええええ!!」

 雨で長靴がすべった。

 鉄の壁で、頭頂部を強打するトラ。


 激痛―――そして落下。


 ゴォン!!


「ひぶッ! うおおおおん!」 


 こんどは側頭部を強打。

 まるで打楽器―――すさまじい悲鳴をあげる。だが、降りしきる雨の轟音によって、彼の声はかき消された。


 トラが甲板で死にかけていることなど、ブリッジのはるか上階にいるニニコは、知るよしもない。

 

  

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




「フォックス! フォックス! うわあああ……」


 司令室に、ニニコの泣き叫ぶ声がこだまする。


 フォックスはその体を盾にして、消火器の爆発からニニコを守った。爆風に吹っ飛ばされた細い体は、消火剤まみれだ。

 あおむけに転がるフォックスにすがりつき、ニニコは泣き続ける。


「フォックス……フォックス……!」


 目を覚まさない。

 雨のせいか、冷たい空気が割れた窓から吹きこんでくる。

 フォックスは目を覚まさない。


「しっかりして! いま心臓マッサージをするわ!」



「……せんでいい。絶対やめろ……」

 目を覚ました。



「フォックス、どうして……? あ、あんな女、燃やしちゃえばよかったのよ!」

「……できねえっつーの。でもマリィは殺さなきゃなんなかった。せめて一緒に爆死しようと思ったのに、アタシは生きてる……最悪だぜ」


「最高じゃないの!」

「……どこがだよ」


 うつろな目で答えるフォックス。

 目の焦点(しょうてん)は合わず、声もひどく弱い。



「待ってて。いま医務室のひとを呼んでくるから!」

「ま、待て……だれか……来やが…………」


 フォックスが目を向けた先に……来やがった。


「ああ……最悪だ」

 

 来やがった、ヤツが。

  

 



  「その通り、最悪だよ……」


   突然の男の声。

   この声は……




「!」

 バッと入口へ振り向くニニコ。

 

「よう……中尉」

 フォックスが、なんとか身をよじり首を向けた。



 レインショットが、来た―――



挿絵(By みてみん)



「よ、よくもやってくれたな……ふ、ふ、ふ……き、君たち2人とも、売ってやりたい(・・・・・・・)よ……」


 どこから現れたのか。

 レインショットが、ふらふらと司令室にやってきた。


 憔悴(しょうすい)しきったその表情はどうだ。

 軍服のジャケットを脱いだその姿に、昼間の精悍(せいかん)な様子はまったく感じられない。

 いやそれよりも、その手に持っているのは……ポリタンク。


 ジャプジャプと液体を満たした、ポリタンクを持っている。



 憎悪に満ちた目を向ける、ニニコとフォックス。

「しょ! 少佐……」

「よう……お疲れのようで、中尉」

 

 いや。

 フォックスの目がひどく、(おび)えに染まる。


「なに持ってんだ、中尉…………まさか、ガソリンじゃねぇだろうな」



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終身刑の魔女より

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いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
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