第76話 「フラッシュバック」
「やめ……!!」
マリィが叫んだ。
だがもう遅い!
ドン! と発射された炎弾が、加圧式消火器のバルブをぶち抜いた。超、至近距離―――マリィの足もとで、消火器は爆破された。
ドオオオオオオン!!
「はぎゃ……」
内部に満載された消火剤と炭酸ガスが一気に爆ぜ、凄まじい爆風が巻き起こった。
ガシャアアアアアアアアアアアアアアアアア!
超防弾性のはずの司令室の窓。
その1枚をブチ抜いて、マリィはブリッジの外へ吹き飛ばされた。
宙を舞うマリィ。
「だ……!!」
海に落ちる……いや、甲板の縁にぶつかる!?
「クッ!」
落下地点を海にするべく、体をひねる。水な義肢を使えば、問題なく助かる高さ。
だが甲板に叩きつけられれば命はない。いや……確実に甲板に落ちる! いや、いや、黒煙に巻きこまれた。
とてつもない熱―――
いや、いや、いや、それどころじゃない!
燃えさかる甲板に向かって落ちている!
水な義肢のアームを伸ばし、ぐるりと全身をガードする。
落下――――――
ドガッ!!!
ワンバウンド!
ドガッ!!
ジュウウウウウウウウウウウウウウ!
「あああああああああ!!」
灼けた甲板の上に転がされる。
どんな落ち方をしたのか自分でもわからない。
全身が痛い。
全身が熱い。
鉄板であぶられるエビのように、激しくマリィはのたうち回る。水な義肢を使って移動しようと、もがく。
アームを持ち上げ……られない!
「ああああああああああ!」
激痛!
鎖骨が折れている。動けない。
「は、ハイド……」
剣で刺されるような痛み。
ハイドランジアを取り出そうと、ゆっくりとポシェットを探る。痛覚をマヒさせなくては……だがポシェットの中には、プラスチックの破片と水の感触しかなかった。
全部割れている。
甲板にこぼれ、すぐさまジュワァと蒸発するハイドランジア。ズボンに広がる青とピンクの染みが、煙になって立ちのぼる。
「ア、ア……じゅる、じゅる……」
手に付着した2色の液体を舐める。
何も起こらない。
当たり前だ。
吸引と違い、消化されなければ効果は出ない。
い、いや、両手を甲板に押し付けるんです。
その蒸気を吸うんです。
や、やらねば。
手を、手を……甲板につけた。
ジュウウウウウウウウウ!
「ひぎゃあああああああああ!」
しまった……叫んでしまった。
息をするどころじゃない!
あ、だめだ。
この皮膚が焼けるにおい……村のみんなの死体を、フゥが火葬した時と同じにおい。
私が燃えています―――
「ご……ごめんなさい。神様……」
「私は悪くないとか、ウソです……」
「熱い……」
死。
死。
死ぬ。
そこへ―――――――――
「火のッ、用――――――心!!」
ズッドオオオオオン!!
トラがやってきた。
火の用心……?




