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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第10章「恥も外聞もないトリップを焼き捨てる馬鹿者たちへ」
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第72話 「ファンタジー」



「はぎゃああああああああああああ!」

 苦しみに暴れまわるフォックス。しかし宙づりにされた状態で、手足はむなしく(くう)()いた。


 やがてやわらぐ痛み。

 視界が開けてくる。 


 ……やわらぐ?


「アアアアアアア!! …………あれ?」



挿絵(By みてみん)



 痛みが無くなった。


 目は……多少、しみる程度。

 いや痛いことは痛いが、視力に問題はないらしい。左手で目をこすり、かかった液体を(ぬぐ)う。

 このにおいは、ビール……



「大丈夫か!」

  

 

 間近(まぢか)に、トラの顔が見えた。

 必死にフォックスの名を呼んでいる。

 本当に顔が近い。

 抱き寄せられている。


 ようやく現状が理解できた。

 しゃがんだトラの(ひざ)(まくら)に、寝かされている。


「しっかりしろ、痛いところはないか!」 

 トラの手には缶ビール。フォックスの顔に付着(ふちゃく)した塩酸の(きり)を、洗い流してくれたらしい。

 目がしみる。

 シュワシュワする。



「だ、だいじょうぶ……だ」

 目をしぱしぱさせながら、辺りを見た。


 ここは廊下――――――

 トラが部屋の外に運んでくれたらしい。


「ああ、よかった……!」

「わ!」


 がしっ。

 抱きしめられた。

 なに、この……なにこれ?

 いや違うだろ!


「は、はなれろ! マリィは!? ニニコは!?」

 トラの肩をつかみ、叫びたてる。


「なんともないか? 愛してるよ、フォックス」

「愛し……はあ?? ああ、そうかよ」


 こいつ、まだハイドランジアの支配下にあるらしい。聞くだけ無駄(ムダ)だ!



挿絵(By みてみん)



「どけ!」


 トラを押しのけ、部屋のドアをバンと蹴とばしたフォックス。籠手を突き出し、注意深く室内をのぞく。


 火はほとんど消えていた。代わりに、猛烈(もうれつ)(さん)のにおいが立ちこめている。


「いねえ……」

 誰もいない。

 あるのは、ブスブスと異臭(いしゅう)を放つ死体だけ……横たわる彼を見て、フォックスの胸中はぐしゃぐしゃと()きむしられた。

 

 いったい彼がなにした?

 彼がなにをしたよ!


 

「フォックス!」

 トラがドスンドスンと追ってきた。

 肩をつかまれ、ふたたび抱きよせられる。

「フォックス……教えてくれ。俺はなにをすればいい。この世界(・・・・)では、こういうときどうすればいいんだ?」

 まっすぐにフォックスの目を見すえる。


「離せ、なにすん……ああ? こ、この世界(・・・・)だァ?」

「フォックス。旅のあいだ、ずっと言えなかったことがある。君を愛してる」


「ハァ??」

「騎士団を追われた俺を、君がこの世界に召喚(しょうかん)してくれたんだ。俺は、君のためなら……命を(ささ)げてもいい」

「しょ……召喚(しょうかん)? お前、今度はなんの妄想(もうそう)……」



 どうやら次のトリップ状態に入ったらしい。

 次元を超えてやってきた騎士になっているようだ。帰れない系(・・・・・)ファンタジー(・・・・・・)の主人公……だが本人の顔は真剣そのものだ。

 フォックスに、やさしい目を向ける。



(つよ)がらなくていいんだよ。俺は、君の苦しみを知ってる」

「ふざッ……離せ! お前にアタシのなにが……」


「生まれた村の住人を焼いたんだろう? 君の両親も……君が焼いた。炎の魔法で」

「……!!」

 

「伝染病で死んだ村人の死体を、君が火葬した。燃える死体の山の、あまりの気持ち悪さを見て、君は殺人を(みずか)らに禁じた。だろう?」

「……ああ、そう。聞いたのか、それも……」


 トラの腕に抱かれたまま、フォックスは驚き、悲しみ……押し(だま)った。

 体から力が抜けていく。



「ああ。悪いと知りつつ、女神さま(・・・・)から聞いた。この剣と魔法の世界に来て、俺は初めて君の……ブヘッ!」


   バシーン!

   平手打ち!


 ビンタを見舞うフォックス。

   

 ぶっ倒れるトラ。



挿絵(By みてみん)



「フォックス、な、なにを……」

「なにをじゃねえ。気安く(さわ)んな。なにが女神さまだボケ」


 ブチ切れ。

 ブチ切れている。

 トラの腕から解放されたフォックスが、今度は逆にトラに()めよる。



「殺人を禁じたってか? いいや殺すね。殺す、本当に殺す」 

「アタシは魔法使いじゃねえ、放火魔だ。でもってお前は騎士じゃない、消防士(・・・)だ」

「アタシはマリィを探しに行く。殺してやる。おまえは食糧庫に行って火を消せ。現場の軍人の指示に従え」


 たんたんと、冷たくフォックスは語る。

 ぶったたかれた(ほお)に手をあてながら、だまって聞いているトラ。


「聞いてんのか!」


「はいオーナー! 行ってきます!!」

 ドンと立ち上がり、トラはズッシンズッシンと走り去っていった。

 やがて見えなくなる。


 フォックスはそれを見届けると、ガシャンと籠手を持ち上げた。



「マリィはどこだ?」


  『上……』


 ビシ。

 天井……いや、上階を指さす籠手(こて)



挿絵(By みてみん)



鉄火場(てっかば)だぜ。アタシの右手」


 かつんかつんと床を鳴らし、無言でフォックスはその場をあとにした。



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終身刑の魔女より

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いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
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