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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第9章「あられもないハプニングを焼き捨てる再会へ」
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第70話 「ヘスティア」




「博士! 来てください。妹さんが……口から血を……」


 下士官がフォックスに叫ぶ。

 そして、それが彼の最後の言葉になった。



挿絵(By みてみん)



 グシャッ!!


 マリィの右肩…… " ()義肢(ぎし) " がギュンと伸び、彼の顔面をぶっ飛ばした。


 突き飛ばされるように、部屋の壁にたたきつけられた彼の体。いや、頭。飛び散る血痕(けっこん)……


 死。

 つんと広がる血のにおい。死―――


「あっ、しまった」

 マリィの呑気(のんき)な声。


「マリィ……なんで殺した……?」

 信じがたい光景に、フォックスが言葉を震わせる。



「いえ、違うんです。捕まえようとしたんですよ。ホラ、困るでしょう? 避難しろとか……あの、ちょっと()ってしまったようです。手元が狂いました。どうしましょう、彼」

「……な、なに言ってんの? なあ……」

 


   と―――



「……ただいま。お姉さま」

 ニニコの、かわいい声が聞こえた。

 小さく笑みを浮かべ、部屋に入ってくる。

「パパ、ママ。ごめんなさい。お庭で遊んでいたら、遅くなっちゃったの」



挿絵(By みてみん)



 ……お庭?

 ニニコはなにを言っているのか。


 フォックスが凍りつく。

「ニニコ、血……」


 その小さな口も、白いドレスも、血まみれだ。いやニニコの血ではないらしい。レインショットの部屋の死体の……人口呼吸―――


 ニニコの様子は明らかにおかしい。

 いま彼女の足元には、下士官の死体が転がっている。なのに見向きもしないではないか。


 にっこりと笑うマリィ。

「ニニコちゃん」


 ズシンと立ち上がって、振り向くトラ。

「ニニコ」



「パパ、ママ」 

 うれしそうに2人に駆け寄るニニコ。

 立ち尽くすフォックスの前を素通(すどお)りし、マリィに抱きついた。



「ニニコちゃん。口元(くちもと)が血だらけですよ。()いてあげましょう」

「うん、ママ」


 マリィは、ベッドわきのウェットティッシュを1枚抜き、ニニコの口をやさしく(ぬぐ)ってあげる。きれいになった。


「ニニコちゃん。お外でなにしてきたの?」

「あのね。お医者様と遊んできたの。灰色のバラから、クッキー! 抽出(ちゅうしゅつ)したとされるキャッシュカードの表面から、クッキー! リボン模様のバクテリアを、クッキー! 旅行かばんに()めこんだの。でも何度キスしても、お医者様は目を覚ましませんでした。おわり」

 

 終わりらしい。

 マリィの胸に、顔をうずめるニニコ。



挿絵(By みてみん)



「パパ、ママ……毒ガスで死んだりしないよね?」

「ふふ……あなたに使った(・・・)のは、毒なんかじゃありませんよ。ね、パパ」

「わんわん」

 

「ね、フゥ」

「わんわん、わ……」



 ―――狂気に満ちあふれた会話は、トラの絶句(ぜっく)で終わった。



   室温が上がる。



「お、お姉さま。怒ってるの……?」

 おびえるニニコ。

 ぶるぶると震えながら、マリィにしがみついている。


 ふるえ、おののく。

 室温が上がる。


「怒らないで、お姉さま……も、もう遅く帰ったりしないから……」


 室温が上がる。



「フ……フゥ。ど、どうしました? なにを怒っているのですか?」

 マリィが、怪訝(けげん)な顔でたずねる。

 まったくわけがわからない、という表情で。

「なぜ、炎を出すのですか。フゥ」


 

 ボッ!

 ボオオオオ! 

 ティッシュ、カレンダー、メモ用紙……部屋の中の紙製品が、次々と発火する。


 フォックスの籠手の人差し指から、炎が吹き上がる。

 いや、ピンポン玉ほどの球形に収束した。

 いったい何百℃あるのか……


 明るい、なんてものじゃない。

 目がくらむ白熱。

 熱い、なんてものじゃない。

 肌が焼かれているような炎熱。


 ボォォォォオオオオオオ!


「マリィイイイイイイイイイイイ……!」

 炎の化身のような形相……フォックスがすさまじい声で叫ぶ。


「マァリィィィィイイイイイイイイイ!!」 

 指鉄砲のように人差し指を構えた。



挿絵(By みてみん)



 マリィの表情がこわばる。

 自分に、火球の照準が向けられている。


「フゥ。な、なにを……なにをするんです! 何をしているのか、わかっているんですか……や、やめて!!」

 ニニコをかばうマリィ。


「お姉さまやめて! パパ、ママ……」

 ママ(・・)にしがみつきながら、お姉さま(・・・・)に許しを()うニニコ。


「まあ、まあ、落ち着けよキミ。ね、ね……?」

 トラがなだめようとしている。

 情けないパパ……



「マリイイィイイイイイイイイイイイ!」

 フォックスの叫びとともに、放たれる火炎弾。


 ボッ……!



 超高熱の火球が、マリィに直撃した。



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終身刑の魔女より

 ↑

いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
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