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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第9章「あられもないハプニングを焼き捨てる再会へ」
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第68話 「パンデミック」




挿絵(By みてみん)



「……」

「……」

 沈黙。

 もう2人とも笑っていない。


 フォックスは完全に固まっている。

 マリィのしたことは……信じがたい犯罪だ。



「そ……そりゃ、ひでえことしたな。ちょっと……いや……」

軽蔑(けいべつ)しますか?」


 悲しそうに目を向けるマリィ。

 思わずフォックスは顔を()せた。


「いや……でも、ちょっと引いたぜ。それで、どうなった?」


「指名手配の身で国外逃亡などできません。そのときです。レインショットに再会しました。ていうか、私の窮状(きゅうじょう)をどこかで知って、接触してきやがったんです。『偶然アイテムが手に入ったが買わないか。ただし全財産と引き換えだ』と」



挿絵(By みてみん)



「レインショットがどういう経緯(いきさつ)で、この “ ()義肢(ぎし) ” を手に入れたのかは知りません。鉄のコンテナに、前の持ち主のミイラ(・・・・・・・・・)と一緒に封印された状態でした。おそらく入手したはいいけど、持て(あま)したんでしょう」


「アイツのやりそうなこった。マリィ、よくそんな話に乗ったな」



「それだけ追いつめられていたのですよ。でも怖くはありませんでした。フゥと同じ運命なら、受け入れることは恐ろしくありませんでした」


「……」

 黙るフゥ、いや、フォックス。

 返事をしない。


「どうしましたフゥ?」


「……ん……べつに……」


 

 さっきまでの楽しい雰囲気(ふんいき)はない。

 フォックスは、マリィの犯罪行為を聞いてすごく……複雑な気分だった。


 もしこれが(・・・・・)マリィで(・・・・)なければ(・・・・)、死ぬほど不愉快ふゆかいな気分になっていただろう。


 だが、マリィだからなにも言えない。

 マリィも、フォックスの表情からそれがわかったのだろう。



「フゥ。私は、自分が犯した罪を(つぐな)う気なんかありません。ちっともです。私が悪いなんてこれっぽっちも思ってないのですよ。でも……フゥに告白するのは勇気がいりました。最低のクズだと、フゥに思われるのが怖かった」


「……アタシもマリィのことを言えたモンじゃねえ……国際指名手配中だ。いろんな(うら)みを買ってる。全部、生まれた国と呪いのせいだと思って生きてきた。私は悪くねえと、自分に言い聞かせて生きてきたんだ」


 くしゃっ、と缶がへこむ。


 

「……あの地獄を覚えていますか。ノースピークにいたころの地獄を」

「忘れっこねえ。忘れるわけがねえよ」


 悲痛。

 沈黙。


「あの国では、自分のものと言えるのは家族だけでしたよね」

「ああ……そうだったな」


 また沈黙。


「私の両親も、あなたの両親も、村のみんなもコレラの流行で死にましたね……あの火葬(かそう)の日を覚えてますか」

「覚えてるさ、覚えてる。忘れるわけがねえ……アタシが火葬したんだからな」


「あなたのせいじゃありません。アホの区長、党の衛生局を恐れて埋葬(まいそう)許可を出しませんでしたもの」


「……レベッカ、ずっと泣いてたな」

「ええ、あの子は……やさしい子でしたから」


 沈黙。



挿絵(By みてみん)

 


「……私はもう一度、家族が欲しかった。失ったものを取り戻したかったんです。子供も欲しかった。今度は私が、母になりたかった。あの優しかった母に……でも、もう駄目です。もう産めない」

「……」


 沈黙。


「こんな話をしてごめんなさい、フゥ。話題を変えましょう」

「…………いいさ。じゃあ話題を変えるぜ。マリィさあ、一個わかんねえんだけど」


 表情が崩れるのを(おさ)えて、フォックスが話題を変えた。


「なんですか。フゥ」 


 気まずい沈黙が終わった。

 マリィの表情も(ゆる)む。



この船を沈めろ(・・・・・・・)って依頼は、誰から? まさかレインショットなわけねえよな?」


「いえ、レインショットですよ?」

「え!? んなアホな」

 ビックリ。



「な、なんで? 何のために?」

「ええ。それがレインショットは、この艦の医者を3人、射殺してしまったそうなんです」

「ハァ!?」


 超ビックリ。

 クスクス笑うマリィ。


「本当にバカですよね。それでどうしようもなくなって、この艦ごと証拠隠滅(しょうこいんめつ)をしたくて、私を呼んだんですよ。おかしいでしょう?」

「ぜんぜん笑えねえよ! え、なに? マジの話?」


 立ち上がるフォックス。

 真剣に耳を(うたが)う。



「マジです。さっきレインショットの部屋に行ってきました。死体が3つ、転がってましたよ。あ、そうそう。そのときにちょっと面白いものを見まして……」

「いや、そんなんどうでもいいから! なんでレインショットは、その医者を殺したわけ?」


「なんでも、ハイドランジアを密輸したのがバレたらしいですよ。それで口封(くちふう)じをしたみたいです」

「な……!」


 言葉を失うフォックス。

 素のマリィ。



「じつは私も、ハイドランジアの市場に目をつけてましてね。魅力的なビジネスになると思うんです。この仕事の報酬(ほうしゅう)も、ハイドランジアでもらう約束になってるんですよ。そうだ、フゥにも見せましょう」


 ベッドに投げ出してあった金属箱のフタを開けるマリィ。中から抜き出したのは、スプレー缶……


「これです」

「なに? それ……」

 不審なスプレーを、フォックスが注視する。

 ラベルも何もない、のっぺらぼうのスプレー缶。


「新型のハイドランジアの試作品です。耳から浸透(しんとう)注入するのではなく、顔に吹きかけることで、同様の効果を得られる。さっき試したのですが(・・・・・・・・・・)、効果絶大のようです」

「……え? 試したって?」


 にっこり笑うマリィ。

 一歩、距離をとるフォックス。



「じつは……ごめんなさい!」

 ぱん、と両手を合わせるマリィ。

 ごめんなさいのポーズで頭を下げる。()義肢(ぎし)のアームも、ガシンと頭上で合掌(がっしょう)した。


「フゥのパートナーとは知らずに、トラ君にスプレーしてしまったんです。その……急に襲われたもので……許してください」

 申し訳なさそうに、謝る。



「な、な……!」

 三度(みたび)、絶句のフォックス。 

 話についていけない。


 なにを……マリィは、なにを言っているのか?

 落ちつけ、深呼吸。 

 深呼吸してマリィに向き直る。

「会ったのか? トラに……なんでトラの名前を知ってんの? 襲われたって?」



「出合い(がしら)に、ちょっとトラブルになりまして。いえ、トラ君からかかって(・・・・)きたんですよ? だから、その、身を守るために彼にスプレーを……ね?」    

 てへ、とごまかし笑いのマリィ。

「怒らないでください。そんなわけで、トリップ状態になった彼からいろいろと聞いちゃいました」

 


「で……トラは? いま、どこにいるわけ?」

 嫌な予感がよぎる。


「呼びましょう。あなた!」

 マリィがドアにむかって声をかける。

 

 あなた(・・・)―――?



   すると……



「アイランド―――!!」


 奇怪(きっかい)な叫びとともに、トラが入ってきた。

 ズシンと室内が揺れる。

 壁にかかった時計が床に落ち、フォックスが床にずっこけた。


「7つの海の底を()けめぐり、いざ登場! オレ!」


 なにが楽しいのか、トラは見たこともないハッチャケようだ。

 甲板で、マリィに吹きかけられたスプレー……新型ハイドランジアの効果、か?


「月がきれいですね! なーんちゃって、かんちゃって」

 超ハッピーのトラ。

 こいつ、この状態でずっと部屋の外でスタンバってたのだろうか。



 ほほ笑むマリィ。

 混乱するフォックス。


 トラは……どうでもいいや。



挿絵(By みてみん)



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終身刑の魔女より

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いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
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