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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第9章「あられもないハプニングを焼き捨てる再会へ」
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第67話 「HPVS」




挿絵(By みてみん)



 再会。

 マリィとフォックスは、ベッドに並んで腰かけた。


 フォックスがクーラーボックスから缶ビールを2本取り出し、1本をマリィに渡した。


「いただきます。ふふ、再会を(しゅく)して」

「かーんぱい」

 プシ、プシと炭酸の音がはじける。アルミ缶を軽く打ち合い、2人とも半分ほどを(ノド)に流しこんだ。



挿絵(By みてみん)



「くは……ああ、おいしい。10年ぶりですか。ノースピークから一緒に脱北(だっぽく)して以来ですね。また会えてうれしいですよ、フゥ。いまはフォックスでしたっけ」

「ふひ……フゥって呼んでよ。昔みたいにさあ」

 

 フゥ。

 フゥ・ヴォルペ。それがフォックスの本名らしい。


「フゥ。あなたがバーベキューファイアだったのですね。どうして気づかなかったんでしょう」

「こっちだってな。『沈没屋サルガッソ』がマリィとはね……あれ? ってことは、この船を沈める感じなの?」


「ええ、まあ。でもフゥが乗ってるんならやめます。この仕事はキャンセルしましょう」

「え~、いい加減だなぁ」


 キャッキャと盛り上がる。

 どうやらマリィも、闇の世界ではそうとう名前の売れた仕事屋らしい。


 沈没屋サルガッソ。

 放火魔バーベキューファイア。

 互いに存在は知っていても、正体は知らなかったようだ。話がはずむ。


 缶がカラになる。

 2本目―――プシ、プシッ。


「でも驚きましたよ。フゥがまだ呪われてたなんて。119軒の放火なんて簡単でしょう。私はとっくに解放されていると思っていましたよ」

「解放されたんだよ。ところが色々あって、また呪われてさぁ」


「たしかノルマだけじゃなくて、 “ ハードル ” があるんですよね」

「うん。3階建て以上で、()べ床面積500平方メートル以上の建物じゃなきゃ、ノルマに入らねえ。まあ、そんなもんいくらでもあるけどね。マリィの…… “ ()義肢(ぎし) ” だっけ? ノルマは?」


()義肢(ぎし)のノルマは、4242隻の船を沈めることです。沈没屋を始めたのはまあ、そういう事情なんですよ」

「水を操るアイテムか……ずいぶん殺したんじゃねえ? ハードルは無いの? そんなんで駆逐艦なんか沈められるわけ?」



 ベッドに垂れ下がるマリィのアイテムに、ちらりと目を向けたフォックス。

 

 殺し。

 それはフォックスが自身に禁じていること。だが、マリィを非難(ひなん)する気にはならなかった。


 

「いえ、このアイテムにはハードルはありません。()義肢(ぎし)を使おうが、爆弾を使おうが、要は私が沈没させればOKです」

「だったらまだアリかな。あ、ゴメン。119のノルマが、4242に言えた義理じゃねえか」


「ふふ、それは仕方がありません。知ってますか? アイテムは全部で13個、そのすべてが1600年前に作られたそうですよ」

 ぎし、と身を乗り出すマリィ。


「ああ。もともと、ひとつの鎧だったらしいな」

  


「1600年前の基準で言えば、船なんて木造の小舟が当たり前。それこそ戦艦なんてありません。4242隻のノルマも、大したものじゃなかったんでしょう」

「む……」

 じゅる、とビールをすすった。


「逆に、フゥの…… “ ()籠手(ごて) ” でしたっけ? 3階建て以上、のべ床面積500平方メートルの建物なんて、当時はお城か(とりで)くらいじゃありませんか? 燃やす以前に、119軒も探すこと自体、大変だったと思いますよ」

「なるほど、言われてみれば。ノルマの難易度に差があるとは思ってたけど、時代のせいか……ところでさ」

 

「? どうしました?」

「このアイテム、どうしたわけ? ……って聞いてもいいのかなって」


 切り出しにくそうに(たず)ねるフォックス。

 一方、マリィは口元を(ゆる)めた。


「なんだそんなことですか。話すと長いのですが、5年前に購入しました」

「購入!?」

 

「はい。外の世界で生きていくのに、力が必要でしたので」

「え? でも……マリィが生活に困るってどういうこと? だってマリィの血は……」

 困惑するフォックス。


「ええ。私の血液型は、誰にでも輸血できる特別製(・・・)です。脱北したあとも、金に困ることはありませんでした」


 ぽつぽつと語る。





 通常、異なる血液型を輸血された場合、はげしい拒絶反応が起こる。だが200万人に1人の割合で、誰にでも輸血できる血液型の持ち主がいる。


 マリィはそのひとりだ。





「医療機関や研究機関に、1日500ccの血を売るだけで、私は生活に困りませんでした。毎日、豪遊(ごうゆう)できる金を(かせ)げたんです。あのころは幸せでした……私が “ HPVS ” に感染していると発覚するまでは」


「え、エイチ……!」

 フォックスの顔がこわばる。



「フゥ。私はHPVSウィルス(・・・・・・・・)に感染しているのです。知ってるでしょう? 感染した場合、卵巣腫瘍らんそうしゅようや卵巣ガンを発症させる変異性のウィルスです。私自身も数年前に、卵巣を摘出するハメになりました」

「……そ……」


 自身の腹をそっと(さす)るマリィ。 


「ちょ……ちょっとまってマリィ。HPVSって確か、輸血とかセックスで感染するんじゃ……」

「ええ……私の血を輸血された数千人の女が、HPVSに感染しました。薬害事件に発展したのですよ」


 絶句するフォックス。



挿絵(By みてみん)



「で、でもよ! それはマリィのせいじゃ……」

「いえ。私は病気の発覚後も、(カネ)目当てに血を売りつづけました。第一級傷害罪が確定すれば、私は間違いなく死刑。なので裁判の前に逃亡しました。全財産を持って」


「……」

「……」

 沈黙。

 もう2人とも笑っていない。


 とんでもねえ話になってきた。



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終身刑の魔女より

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いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
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