表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第9章「あられもないハプニングを焼き捨てる再会へ」
63/249

第63話 「アップ アンド ダウン」




「離しやがれ、マリィ……」


 トラが低い声をもらす。

 じろり、と2人の水兵を(にら)みつけた。

「レインショットは、手下を……必ず近くに置いてる……お前らがそうか?」

 声を振りしぼる。

「どうなって……なんのマネだ? 俺ぁ、レインショットの客だぞ……それを……」

 仰向(あおむ)けに倒れたまま、首を起こすトラ。



 その恐ろしい形相に、アイラがたじろぐ。

「レイン……! なんでテメエが知って……そ、そうか。バーベキューファイアに聞いたな。言葉に気をつけろ、ジョンソン少佐だ!」


 対して、ベックスのへらへらとした顔。


「悪いなぁ学生。ちょいと状況が変わってよ。ひひ。ジョンソン少佐の命令で、全員殺すことになっちまったんだ。ひひひ」

 とてつもなく楽しそうに話す、クズのベックス。

「どうしたマリィ。早くしてくれ、ほかのやつに見つかる」

 


 女―――以下、マリィと記載する。


 マリィの肩シールドは、がっしりとトラの長靴をつかんでいる。なんとか持ち上げようとしているが……だめだ。


「こ、こいつ重すぎます。なんですかこれは」

 ちっとも動かない。

「だめです。仕方ありません、こいつはほっときましょう。アイラ、ベックス、さきに死んでください」


 ドサ!

 肩シールドが、トラを離す。

「ガン! 痛え!」

 また甲板で頭を打った。



 ちょい待ち。

 マリィはさっき、なんと言った?


 死んでくださいの言葉に、アイラとベックスが固まる。

 は? 

 いまなんて?


「は?」

「いまなんて……うお!」


 左右のアームが、ベックスとアイラの首を(つか)んだ。

 ガシ、ガシン!

「ぐ……え」

「な……な、に、を……」


 2人の足が甲板から離れた。宙づり―――成人2名と巨大なアイテムを支える、とてつもないマリィの脚力はどうだ。女の筋肉ではない!


 足をばたつかせ、泡をふくベックス。

 目を見ひらき、酸素を求めてぱくぱくと口を動かすアイラ。


 マリィは冷たく言い放つ。

「全員殺すことになっちまった、のです。さようなら」


 ブンと大きくアームを振りまわし、彼らを海に放り投げた。絶叫を上げて、暗い海へと真っ逆さまに落ちていくクズ2名―――



「ぎゃあああ!」

「あああああああ!」


 ドバン、ドバァン。

 数秒後に2つの水音……水面までの乾舷(かんげん)高は約7メートル。死んだかもしれん。





「どうした!」

「何事だ! な、なんだ……?」

「な、だ、誰だ!」

「おい貴様なにを……なにしてる!」


 人が集まってきた。

 3人、4人……だれもが女を見て、ぞっと強張(こわば)る。

 

 (ツル)が翼を広げるように、腕みたいななにか(・・・・・・・・)を左右いっぱいに広げている。まるで「さあ、おいで」と言わんばかりに。

「ふふ」

 マリィが初めて笑った……ように見えた。薄い(くちびる)をすこしだけ上げて、小さく微笑(ほほえ)む。


「ようこそ、私の沈没船へ――――――」

 


  「ぐわ!」

  「ひ……」

  「うお……!」

  「あああああ!」

 

 海に放りこむ。

 マジックハンドが水兵たちを、次々と捕まえては海に放りこんでいく。



 ドガァ!

 床を踏み鳴らして、がばりと起き上がるトラ。

「てめゴラアアアアアアアア!」

 大絶叫。

 

「うわ!?」

 身構えるマリィ!


 だが……


「ぬおおおおおおおおおお! 待ってろ、いま行くぞぉおおおおお!」

 トラは甲板から飛び降りた。

 いや、飛び降りたのではない。


 ガンガンガン!


 船体を、長靴を踏み鳴らして駆け下りていく。2本の足で船壁をだ。こいつも化け物……そのまま、ざぶんと海に突入した。



挿絵(By みてみん)



「……え?」

 目を丸くするマリィ。

 ガシャ、と力が抜けたように肩シールドが垂れ下がる。


 なんだったんでしょう、いまの男は。

 あんな体重の男が存在するものなんでしょうか。

 と思ったら、飛び降り自殺してしまいました。

 私にかかってくるのかと思いきや、とんだイカレ者です。

 いいです、仕事にかかりましょう。


 カン、カンと甲板を踏み鳴らし、速射砲に向かう。



「な、なんだ? おい止まれ!」

「侵入者……うわああああ!」

「あああああ!」

「ぎゃあ!」

「おあああ!」


 途中、10何人かを海に放りこんだ。

 他愛(たあい)もない。



 そびえ立つ巨大な砲―――



「ほぉ……いままで見た中で、一番大きいですね」

 速射砲の大きさに感心するマリィ。

 まるで小山のよう、高さ3メートルはある。


 ハンドルを回し、窓ほどの大きさのハッチを開く。窮屈(きゅうくつ)な入口から、左のアームをスルリと内部に侵入させた。


 ゴソゴソ。

 天井を探ると、すぐにブツは見つかった。

 天井に貼りつけられた金属の箱……だが2つある。


 ひとつは警報器。

 そのとなりに、まったく同じ大きさの箱。 

 警報器の付属物のように偽装(ぎそう)してある。安上がりな密輸手段だ。フェイクのほうを強引に引きちぎる。



挿絵(By みてみん)



 ジリリリリリリリリリリリ!!

 ウィンウィンウィンウィンウィン!!

 ビビビビビビビビ!!!



「うわっ! やってしまいました」


 すさまじい警報が、艦中に鳴り響く。

 間違えたらしい。

 警報器のほうをちぎってしまった。


「しまった。どうしましょう」

 あわててもうひとつを引きちぎり、しゅるしゅると外に出した。

 救急箱ほどの大きさの、金属の箱。

 手に取り、(わき)にかかえる。


 まもなく警報を聞きつけた連中が、大挙(たいきょ)してここに来るでしょう。

 おあいにくさま、どんどん海に放りこんであげましょう。

 私のノルマのために……



 待つ。

 1分、2分……来ない。

「……来ませんねえ」


 誰も来ない。

 おかしいではないか。


「どうなってるんでしょう。しかたがありません。沈没作業にかかりましょうか」



   と――――――


   ドガァ!!


  「ああああああああ!!」


   トラが戻ってきた。



 ガンガンと船壁を垂直にのぼり、ふたたび甲板に戻ってきた。

 全身、ずぶぬれになって。


「ハァ、ハァ。て、てんめえ……ついに助けらんなかったじゃねえか! はあ、はあ……」


 なんと、海面下まで落下者を助けに行っていたらしい。

 だが、誰も助けられなかった。


 ガン、ガン!

 憤怒(ふんぬ)の形相で、女に歩み寄る。一歩ごとに、びちゃびちゃと甲板に水たまりができた。

「そのアイテム……ゲホッ! はぁ、はぁ、名前はなんだ……? なんだって聞いてんだよゴラぁ!」

 絶叫(ぜっきょう)!!



 マリィはひるまない。

 だが表情が変わった。驚愕(きょうがく)―――


「いま、なんと言いましたかお前。アイテム(・・・・)?」



 アイテム。

 その言葉に、マリィの目の色が変わった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


終身刑の魔女より

 ↑

いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ