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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第8章「しょうもないミッションを焼き捨てる北狐へ」
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第60話 「ソーリー プロフェッサー」



挿絵(By みてみん)



 顔を見合わせるフォックスと水兵。

「なにごとでしょう。いまのは、博士の助手の声では……」

「さ、さあ……わかりませんわ」


 通路からは、いまだにトラの泣き声がおんおんと聞こえてくる。

 その通路から、さらにべつの水兵がやって来た。


「はあ、はあ。おい、誰かいないか! おう貴様、ちょっとついて来い」

 あわただしく()けこんできたのは、ヒゲの軍人だ。


 若い水兵が、ザッと敬礼を返す。

曹長(そうちょう)どの!」

 

「敬礼なんかいいから来てくれ……おお、博士もおられましたか!」

 ヒゲの曹長が、フォックスの姿をあらためる。

「ちょうどよかった。博士の助手の彼なんですがね、ノートパソコンをうっかり()みつぶしてしまったらしいんで……大騒ぎしているんです。ちょっと来てくれますか?」


「はあ、あの……トラくんが、ですか?」

「ええ。泣いて泣いて、手がつけられんのですよ」

   


 ……

 …………


「ウオオオオン、博士えええ!」


 …………

 ……



「ほら、ね」

 あきれたように顔をしかめる曹長。


 困り果てるフォックス。

「ええ……ご迷惑をかけます。わかりました。すぐ参りますわ」


「助かります。はやくお願いしますよ。デッキ中に聞こえる声で泣かれて、艦長がカンカンなんです。ああ貴様はもういい。警備を続行しろ」

 曹長はフォックスと新兵に指示するや、大慌(おおあわ)てで行ってしまった。


 

 残される新兵……と、フォックス。


「ああ、弱ったわ……」

 若い水兵にすり寄った。

「あの、すいません。一緒に来ていただけませんか?」


「えっ。し、しかし自分は現在地の歩哨(ほしょう)中でありますから……」


 現在地、すなわち食糧庫の警備任務である。まさか放っぽりだすわけにはいかない。

 た、たとえインテリ美女にお願いされたとしてもだ。

 

「ねえ、お願いします。艦のなかは不案内で……それに私の助手はその……パニックを起こすと、私の手に負えませんの」

「手に負えない、とは?」


「泣きさけび、ポケットの物をなんでも食べようとするのです。携帯、硬貨、ボールペン、家のカギ……」

奇病(きびょう)だ」


 恐ろしい病気に(おか)されていることにされるトラ。

 震えあがる若い水兵。


「ね……お願い。助けてくださいませんか?」


 彼の厚い胸板に、フォックスは(はだ)が触れあうくらいまで近づく。うるんだ(ひとみ)


 気圧(けお)される。

 男として頼られている。

 しかし、警備任務を放っぽりだすわけには断じていかない。


「おまかせください。自分が一緒に参りましょう」

 快諾(かいだく)する水兵。

 いや、アカンて。


 ぱっ、とフォックスの表情が明るくなる。

「ああ……ありがとうございます。やっぱり海軍のかたは頼もしくて素敵ですわ」


「いやあははは! さ、行きましょうか博士」

「はぁい」

 はりきって先頭に立ち、食糧庫を出る水兵。



 スキあり。

 あとに続くフォックスが一瞬振り返り、ギプスをした右腕を木箱に向けた。



挿絵(By みてみん)



 ポッ!

 ビー玉ほどの小さな火。


 包帯を巻いた人差し指から、ひゅんと飛んでいき木箱に付着する。とたんに、ぶすぶすと黒煙を上げはじめた。

 見届けたフォックスが、ニヤと笑う。


 完了――――――



「博士! どうしました?」

 すでに廊下に出た水兵が、フォックスをせかす。


「いいえ、なんでも」

 包帯の先端が、やや()げてしまった。

 フォックスはその部分をちぎり床に捨てると、足早(あしばや)に水兵のあとを追った。

 

 誰もいなくなった食糧庫で、火の手は大きくなっていく。

 まもなく火災警報が鳴り響き、ボヤさわぎ寸前(すんぜん)で消火(ざい)が天井から降りそそぐはずだった。

 


 レインショットによって、火災報知機のケーブルが切断されていなければ。


 ……炎がどんどん大きくなってゆく。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「おおおおん! 博士、ごめんなさいぃぃ」

「よしよし、トラくん。泣かなくてもいいんだよ」


 ここは艦内の通路―――


 トラは博士のパソコンを、うっかり踏んづけて壊してしまったらしい……号泣。床にへたりこんで、子供のように泣いている。足元には、バラバラになったパソコンが無残な姿で散らばっていた。

 フォックス博士は彼の失態(しったい)を許し、聖母のように助手を抱き寄せた。よしよし、いいんだよと(なぐさ)めている。


 師弟愛―――の芝居。


 対して、周囲をとりかこむ軍人たちのシラけきった目。

 なに、これ?


「おおおおおん! 博士、ごめんなさいぃぃ」

「よしよし」

 まるで演技(えんぎ)のごとく、同じセリフをくり返す博士と助手。いや演技なんだけどね。


 (さわ)ぎを聞いて集まった全員が、アホらしい行こうぜ、とぞろぞろ去っていく。



 かわいそうなのは、フォックスにどうしてもと頼まれて、いっしょに来てあげた彼。

「は、博士。では自分はこれで……」


「おおおおおん! 博士、ごめんなさいぃぃ」

「よしよし……まるで九官鳥(きゅうかんちょう)だな。あ、どうも。ありがとうございました」

 じつにそっけない。


「では……」

 彼は発達した背筋を、しょぼんと丸めてその場をあとにした。



 残されるトラとフォックス。


「おおおおおおん!」

「いつまでやってる! 終わったぞ」

 急に態度を変えて、立ちあがる。

 フォックスを抱きしめようとしたトラの両腕が、むなしくカラ()りした。 


「じきにスプリンクラーが動くぞ。あのムキムキの彼には、悪いことしたな。責任問題になるだろうけど……勘弁(かんべん)してもらうか」


 さみしそうにつぶやくフォックスを見て、トラが目を丸くした。

 オーナーが、利用した他人のことを気にかけるとは……悪い女じゃないんだよね、決して。

 もちろん(くち)に出しては言わない。そんなこと言ったら、なにされるかわからん。


 なんか気まずい沈黙が流れる。 



「あ~……オーナー。俺、タバコ吸ってきます……」

 ズシンズシン。

 トラはそそくさとその場を離れた。



 ―――倉庫では、炎がどんどん大きくなっているはずだ。



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終身刑の魔女より

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いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
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