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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第8章「しょうもないミッションを焼き捨てる北狐へ」
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第56話 「ミーティング」



 昼間の大さわぎから5時間が経過した。

 現在、午後4時―――


 ここは艦の一室。

 フォックスとニニコの客室として用意された、6畳ほどの部屋だ。


 作戦会議のためにトラを含めた3人が集合しているが、みな表情が暗い。

 ってゆうか、全員がブスッとしている。


 憮然(ぶぜん)とした顔のフォックスは、壁に貼られた大きな地図を(にら)んだまま、2人を見ようともしない。むずかしい考えごとをしているらしい。駆逐艦(くちくかん)の航路をなんども確かめながら、ブツブツとつぶやいている。



 一方、ベッドに腰かけるニニコとトラ。

 となりあって座る2人だったが、互いに目を合わさない。どうやら昼間のことで、まだケンカしているらしい。ムスッとしたまま、静かに時間は過ぎていく。


 と―――


 重い重い沈黙(ちんもく)を破ったのは、フォックスだった。

「よっしゃ……これでいくか。はい注目。ミーティング始めるぞ」


「……」

「……」

 答えない2人。

 フォックスの声が大きくなる。


「ちゅ・う・も・く! ミーティング始めんぞ!」


「はい、お姉さま」

「はい、博士」

 ムスッと答えるニニコ。

 ムスッと答えるトラ。

 たちまちフォックスの(まゆ)()りあがる。


「博士の芝居(しばい)はもういいから! お前ら、いいかげん仲直りしろ」

 呆れたように2人を見下ろす。

 

「はい、フォックス」

「はい、オーナー」

 2人の反応は……いまひとつだ。目を合わせない。


 フォックスのギプスが赤く光る。

 ジリジリジリジリ……!

 イラだつフォックスの籠手は猛烈(もうれつ)な熱気を発し、室内の温度が急上昇した。


「仲直りしろ……」

 ブッ殺さんばかりの威圧感。


 トラとニニコは、ひいいと悲鳴をあげて身を寄せ合った。和解―――



 気を取り直し、しゅるしゅると包帯をほどくフォックス。姿を現した “ ()籠手(ごて) ” に尋ねる。


「籠手よ籠手よ、籠手さん。 “ アモロ ” はどこだ」



  『ここ……』

   ビシ!


 焼き籠手が、壁の世界地図の一点を指さす。

 そこは、この艦の行き先―――


『キスカンダス王国……王都アルデリオン……』



挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)



「うん……このままだと予定通り、明日の昼に着くな。トラ、アモロ(・・・)ってのに会えば呪いは解けるんだな?」

「 “ ()() ” はそう言ってたんスよ。確かに聞きました」


「よし……じゃあ、キスカンダスに着くまでの作戦だ。この駆逐艦の倉庫を燃やす」 


「「エッ!」」

 思わずハモるトラとニニコ。

 突然なにを言い出すのか、フォックスは。


「オーナー、どういうことッスか? ちとヤバすぎんじゃありません?」


 トラの言う通り、ヤバすぎる。

 というか意味が分からない。


 フォックスが髪をかき上げる。

「んー。さっきの “ 脳みそブッ飛び野郎 ” だけどな。ありゃ薬物(ヤク)だ」

「い!?」

 思いもかけない言葉……いや、たしかにあの軍人は、とても正常とは思えなかったが。


「 “ ハイドランジア ” って知らねえか? いま、アタシたちが向かってるキスカンダスで流行してる麻薬だ。あいつ、青とピンクのピアスしてたろ? 青が覚醒(アップ)、ピンクが酩酊(ダウン)。両耳につけると、交互にそれをくり返すって超ハイ(・・・)なやつだ」


 

「どうして、そんなのがここにあるの? もしかして……ジョンソン少佐? 船の倉庫を燃やすのも、彼の依頼(いらい)?」

 ニニコの表情が(くも)る。

 (まゆ)をひそめ、じっとフォックスを見すえた。


 フォックスの、やれやれと言わんばかりの顔。

 鋭いな、このガキ。

「ああ……まあな」

 答えにくそうに、つぶやく。



 数秒の沈黙のあと、トラが手を上げながら発言した。


「いいスか? ずっと気になってたんですけど、ジョンソン少佐は何者なんです? 昼間は “ レインショット中尉 ” っつってませんでしたっけ。マジに謎すぎるんですけど」



「……」

 (ひたい)をかくフォックス。

 しばらく悩んだ表情を浮かべ……レインショットについて語る。

「まず…… “ ノースピーク ” は知ってるか? ニュースとかじゃ “ 北 ” って呼ばれてる国だ。アタシと、レインショットの祖国だよ」


「!!えっ」

「オーナー、 “ 北 ” ……いや、ノースピークの出身だったんスか!?」

 ニニコもトラも、驚きの表情を隠せない。





 ノースピーク人民共和国。


 北半球で唯一の共産主義国である。

 前世紀からつづく軍事政権の独裁は、世界中の知るところだ。


 表現の自由、

 結社の自由、

 参政の自由、

 移動の自由、そんなものはノースピークには存在しない。

 97%の国民を、3%の支配層が管理する社会。個人の自由などまったく存在しない国だ。

 国家ぐるみの犯罪も多く、つい最近も国際紙幣の偽造工場の存在が、夜のニュースを(さわ)がせたばかりだ。





(ヤツ)は、もともとノースピーク海軍の雑兵(ぞうひょう)だった。レインショット……この名前も偽名(ぎめい)だ。本名はアタシも知らねえ」


「ノースピークじゃ、労働者はどんなに出世しても軍曹(ぐんそう)がいいとこでな」


「あいつは、麻薬、銃、希少動物、女、機密文書……とにかく何でもかんでも密輸で(かせ)いで、党本部に献金(けんきん)してた。それで中尉までのし上がった野郎さ。まあ、お上品に言ってもマフィアだな」



挿絵(By みてみん)



「で、12年前だ。国連軍が秘密裏(ひみつり)に、ノースピークの貴重な人材を亡命させるって作戦を立てた」


「核物理学者、超レアな血液型の持ち主、スポーツ選手、そのコーチ、凄腕(すごうで)のスナイパー……全部で130人くらいいたのかな」


「アタシもその130人の中にいた。亡命のメンバーに選ばれたのは、この籠手のおかげだけどな」 

 

 カチャ、と右腕を持ち上げる。



「レインショットもそのときに亡命したのさ。アタシが野郎に会ったのは、それが初めてだ」


「野郎は国連軍に取り入ろうとして、ノースピークの兵器庫から、最新型の “ 白燐弾はくリンだん ” を持ち出しやがった」


「知らねえか? 戦闘ヘリとかから四方八方にバラ()いて、煙幕を張るやつだ。シーカのアイテムの……煙羅煙羅(えんらえんら)だっけ? あれの火薬(ばん)って感じだ」


「ところが野郎はその白燐弾を、偽名を使って、とあるテロ組織(・・・・・・・)にも横流ししやがった。その偽名が、よりによって “ 雨雲弾(レインショット) ” だぜ? ふざけてるだろ」


「本来は殺人に使うような代物(シロモノ)じゃねえんだがな。そのテロ組織、密閉(みっぺい)した野球のスタジアムで発破したもんで大勢が死んだ。パニック起こした数万人の観衆が、押し合いへし合いになってな……アルベル・スタジアム事件って知らねえか?」


「それからのレインショットは全然知らねえ。12年ぶりに会って、さすがに驚いたぜ。どんな手を使ったのか、ジョンソンって名前で海軍少佐にまで登りつめてやがった」


「昔のツテでそれが分かったんでな。ちょいと脅して、今度の仕事を引き受けさせたわけさ。まさか、いまだに密輸で稼いでるとは思わなかったけどよ」


「で、レインショット……じゃない。ジョンソン少佐は、いま真っ(さお)だ。こいつが明るみに出たら一巻の終わり。事故を(よそお)って、ヤクを船倉ごと燃やしてくれとよ」


「フルーツの缶詰100個に偽装してあるらしい。チョロい仕事だ……どうしたニニコ、なに泣いてる?」




 ニニコが泣いている。

 唇をかんで、顔をくしゃくしゃにして泣いている。


「……なんなの、それ……」



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終身刑の魔女より

 ↑

いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
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