第53話 「デストロイヤ」
場面は、大きく変わる。
とある海上―――
とある海上を南下する、ミサイル駆逐艦がある。そこにトラ、フォックス、ニニコの3人はいた。
せわしく船員たちが行き来する甲板に、ガン、ガンと長靴の音が響く。
紙の束を手に、トラがやってきた。
「オーナー……あ、じゃない。博士、データをまとめました」
「ご苦労、トラくん。君はじつに優秀だな」
手すりにもたれるフォックスが振り返る。
フォックスのスタイルはまるで……博士みたいだ。
長かった髪をバッサリ短くし、黒縁のメガネをかけている。科学者っぽい白衣がばさばさと海風にあおられ、ショート丈のチューブトップ、短いスカートから、まぶしく肌がのぞく。
一方、右腕にはギプス。
籠手が見えなくなるまで包帯を巻きつけ、首から布を吊っている。アイテムを隠すための偽装だろうか。
「うむ、痛てて。潮風が骨折にしみるなぁ」
誰も聞いていないのに、ケガの具合を訴えるフォックス。これっぽっちも痛そうな顔をせず、右腕をさする。
そこへニニコが、カンコンと艦橋の階段を下りてきた。
「フォックス……じゃない、お姉さま。少佐が呼んでますわ」
白いサマードレスがひらひらと、青い海によく映える。ポニーテールに結った髪に、スカーフのリボンが可愛い。
……お姉さまって誰だよ。
フォックスのことか?
「ニニコちゃん。少佐さんとお呼びしなさい、うふふ」
「ごめんなさい、お姉さま。うふふ」
仲のいい姉妹……を装うフォックスとニニコ。
微笑ましく、2人を見る助手……を装うトラ。
…………こいつら一体なにしてやがる?
しかも軍艦の上で。
なんでこんな「お芝居」をしているのだろうか。
「ふぅ……」
トラがやれやれといった顔で、ボリボリと髪をかき上げる。
彼の髪も変わってしまった。濃いオレンジがかった金髪だったはずだが、そこに黒のシマ模様が入って、なんか本当の虎っぽくなった。バカっぽくなったとも言えるが。
そのうえ天然パーマみたく、バッサバサのチリッチリだ。
前髪をいじりながら、トラがぶつぶつと文句をこぼす。どうもシーカに燃やされてから、髪色も髪質もすこし変わってしまったらしい。
「燃えたから毛質が変わるなんてこと、あんのかなあ。でも現にこんな……まいったな」
ブツブツ。
あいかわらず独り言が多いトラ。
そのかわり、顔のヤケドはすっかり完治した。ちょっと痕が残っている程度である。
そこに―――
「やあ、ここにいたのかね。博士」
真っ白な軍服を着た人物が現れた。
50代くらいの、かなり高官と思われる、背の高い軍人。将校のようだ。
軍人の登場に、ニニコが気づく。
「あ、お姉さま。少佐さんが来られましたわ」
「すまないね、ニニコちゃん。ついでがあったので降りてきてしまったよ。いやあ、今日はいい天気だね」
ほほえむ軍人。
フォックスの前まで歩み寄ると……ニヤニヤと笑みを浮かべた。
「ちょっといいかな、バーベキューファイア博士」
完全にフォックスをあざ笑うような目。
ほかの誰にも聞こえないような小声で、あろうことかバーベキューファイアの名で彼女を呼んだ。
「ええ、よろしくてよ。それにしてもご出世なさいましたね、レインショット中尉」
フォックスの表情は……笑顔。
とてつもなく嫌悪感に満ちあふれた笑顔。おそろしく冷たく、とても小さな声で、彼の名を呼んだ。
レインショット――――――中尉?
少佐じゃなくて?
「博士、ついてきてくれ。私の部屋で話そう」
「ええ。じゃあトラくん、ニニコちゃん。行儀よくしてるのよ?」
2人に、にっこりと笑いかけるフォックス。
歩き出した軍人。
ジョンソンなのか、レインショットなのか……とにかく彼のあとについて、フォックスも艦内へ向かった。
甲板に残されたトラとニニコ。
これは……なにがどうなっているのか?




