第52話 「オゥ マイ フリーキング ゴッド」
槍!
槍の雨!!
胸甲 “ 咲き銛 ” が、槍を何十本も伸ばす!
コートが八つ裂き状に千切れ飛ぶ。そして、隠れていた咲き銛の姿が露わになった。
前面から背面から、トゲが四方八方めちゃくちゃに伸びる。ルディの周囲にある、ありとあらゆる物に、槍が突き刺さった。
無事なのは祭壇だけ……シーカが腰かける長椅子も、機関銃で撃たれたかのように穴だらけにされた。
シーカは?
ガキン……!!
「お、お、お……」
無事だ。
顔面に向かって伸びてきた槍を、朽ち灯の掌を広げて、ガキン! と防いだ。
「ギリ、ギリ、ギリ……」
歯を軋り、ガイコツ面を睨む。
こうなったら、シーカは怖い。
「こ、こ、こ……」
朽ち灯の掌が、ボゥと光る。臨戦態勢―――
しかし、ルディの様子がおかしい。
「お、お、お、いまこの少佐を、この少佐の名を……いや、中尉の名を……」
シーカの形相などまったく気にせず……いや、気づいていない。
ガクガクと全身を震わせている。
少佐―――……中尉?
「お、お、お、おおお……い、いま、フォックスは、な……なんと言った……? この軍人を、なんと呼んだのだ……? 穢卑面……」
『はじめはジョンソン少佐と言った。次に、レインショット中尉と言ったな。この男が、お前の探していたレインショットか? おい……おいルディ、大丈夫か?』
「あ、ああ……大丈夫だ……」
大丈夫だと答えているが、ルディの様子は尋常ではない。ぶるぶると手足が痙攣しているではないか。
※ ※
がしゃン、とシーカが構えを解いた。
「あ……お?」
(どうやら、槍はもう飛んでこないみたいだな)
(フォックスがなにか言ったらしいな……って、このガイコツ男、まだ震えてるぞ。)
(れいんしょっと……? 何のこっちゃ)
(少佐? 中尉? どっちなんだ)
しばらく怪訝な顔でルディを睨んでいたが、もう危害はないと見たのか、シーカはまた無表情に戻った。
と――――――
「シーカくん!!」
バッ!!
突然、ルディが振り向いた。ふたたびアップで迫ってくるドクロ仮面。
「う、おっ!」
ビビるシーカ。
「取り乱してすまない、シーカ君。申し訳ないのだが、私たちは出かける」
「え……ど、ど、どこへ?」
「空港だ。いますぐ航空券を予約せねば……君はここで、私が帰るのを待っていてくれたまえ」
「あえ、おえ?」
「トラ君たちは、私が連れてこよう。ここは好きに使ってかまわない」
「で、で、で……」
「それから、若い修道女たちが君にキャイキャイ言ってたようだが、妙なちょっかいを出さないように。絶対に出さないように。わかったね? では行ってくる」
「ほ、ほ、ほ……」
「おっと言い忘れた。祭壇には触らないこと。では行ってくる」
「ね、ね、ね……」
「ああ、それから……修道女にちょっかいを出さないこと。いいね。では行ってくる」
「け、け、け……」
まったく会話になっていない。
何度も修道女のことで念を押して、ルディは背を向けた。
「ほ、ほんとに、行く、行くの、か? お、お、お……」
引きとめるシーカに一瞥もくれない。
ルディは、すでに出かける気満々。
煙羅煙羅も怒る。
『ちょっと待て、貴様どこに行くつもりだ! おい、咲き銛! どこに行く気だ!』
咲き銛の回答。
『申し訳ありません、煙羅煙羅。ルディ神父の人生に関わることなのです。レインショットを殺してきます。足枷、焼き籠手、真っ白闇は、必ず連れてきましょう。しばし、さらば……』
『待て、レインショットとはなんだ!? おい!』
煙羅煙羅の叫びにも全く反応しない。
かつ、かつかつ……バタン!
勢いよくドアを開けて、ルディ神父は出て行ってしまった。
シーカは?
置き去り―――
ボッロボロの礼拝堂に、蝋燭の明かりが揺れる。
わけもわからず、取り残されるシーカ。
本当になにも教えてくれないまま、ルディは行っちまった。
「ちょ、ちょ、ちょ……あ、え、えん、煙羅、え……」
困った様子で、煙羅煙羅に助けを求める。
『ふぅむ』
煙羅煙羅はしばらく考えこみ……
『まあ、ヤツらに任せようか』
安易な結論を出した。
※ ※
真っ暗な廊下を歩くルディ。
かつかつと早歩きをしながら、息を荒げている。
「シスター・レオ! いないのかね!? 車を出してくれたまえ、空港に向かう!」
「シスター・ケイト! ケヴィン議員に連絡をとってくれ、ケイト!」
大声をあげる。
「シスター・レオ! シスター・ケイト! どこにいるのですか!?」
廊下の奥から、「はーい神父様」と、若い女が返事をする声が聞こえた。ぱたぱたと、スリッパの音が近づいてくる。
…
……
…………
『ルディ神父、ようやく見つけましたね……神よ、感謝いたします……』
咲き銛の声が響く。
「そうだな、咲き銛。殺してやろう。殺してやろう。咲き銛。殺してやろう」
およそ、神父とは思えないセリフを繰りかえすルディ。
「神よ……感謝いたします。ようやく会えるな、 “ レインショット ” ……会ったこともないお前を、なんど夢に見たことか……」
「おぼえたぞ、貴様の顔……殺してやる……」
「穢卑面よ。このままヤツを捕捉してくれ。逃がすなよ、絶対に逃がすなよ……」
『いいともルディ。フン、お前がこんなに笑うのは初めて見たな』
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同じころ、先ほどの礼拝堂では。
煙羅煙羅がパニックになっていた。
おそろしい事態。
死ぬよりも恐ろしいトラブルが煙羅煙羅を襲う。
パキ……
パキパキン!!
『あ……あ……』
悲鳴。
パキン!!
パキン!
パキ……!
『わ、我の、体が……』
煙羅煙羅の頑強な装甲に、スキマが―――パキパキ、パキ!!
「ままま、かかか、こっこ、……!!」
シーカもパニックになっていた。
煙羅煙羅がなんかおかしい!
必死に訴え……られていないが、とにかく必死にうろたえる。
「ル、ル、ル、ル、ルディ~!」
神父を探すため、大さわぎしながら礼拝堂を飛び出したシーカ。その左肩では煙羅煙羅が……恐ろしい姿に変わりつつあった。
恐ろしい姿に。




