第50話 「スピア」
『プランその②だ。14個目のパーツを作る』
『どんな人間でも装着できる靴』
『どこにでも到着できる靴』
『何にでも吸着できる靴』
『着靴と呼ぶのがふさわしい』
壮大かつ、馬鹿げたプランを提唱する煙羅煙羅。
しばらくの沈黙のあと、ふたたび穢卑面との会話が始まった。
『……それでどうする。そのために何をすればいい』
興味をそそられたのか、あるいは呆れているのか。抑揚のない声で、穢卑面は聞き返す。
しかし、煙羅煙羅の答えは……
『さあ? わからん』
『わからんだと!?』
『魔王様なら知っているのではないか? あるいはアモロなら出来んかな?』
『……確かか?』
『さあ? とりあえず、トラを捕まえよう』
『杜撰すぎるぞ』
『かまわん、我々には時間がたっぷりある。試して損のない話だろう、穢卑面……』
『……』
しゃべらなくなる穢卑面。
「…………」
「…………」
人間2人も、何もしゃべらない。
『お前はどう思う? 咲き銛よ』
煙羅煙羅が、今度は咲き銛に意見を求める。
少しだけ、口調がおちついたようだ。
……は?
サキモリ?
静寂を破るように、もうひとつ「別のアイテム」が言葉を発した。
※ ※
『お話はわかりました、穢卑面。しかしそうなると、だれが鎧を着るのですか?』
ルディの黒いコートの下からのぞく、ゴツゴツとした……胸全体を覆い隠すアイテム。
地の底から唸るような声。
それでいて丁重な言葉。
ルディはアイテムを、ふたつ纏っているらしい。
ちょい待ち。
ふたつ??
ってことは、いまこの場には4つのアイテムがあるってこと?
「お、お、俺が、着る」
シーカが口を開いた。
ぎし、と足を組み直し、笑顔を向ける。
「あ、あ、あんたも、セ、セットで、の、呪われ、てるのか?」
口元を引きつらせながら、いきなりルディに対し、馴れなれしく話す。どういうわけかコイツの場合、初対面の相手にほどフレンドリーに話しかける癖がある。
トラもフォックスもそれで怒らせちゃったんですけどね。
「き、気づかなか、なかった。2つ目、め、が、あること、に、に……」
シーカが2つ目、と言った瞬間!
神父が叫んだ。
「よせ! 咲き銛!」
ズドン!
ズドン、ズドンッッ!!
槍!
シーカの脇腹をかすめ、長椅子の背もたれに槍が突き刺さった。
それも3本!
目にも止まらぬ速さで飛んできた。
いや、伸びてきた!
シーカが悲鳴をあげる。
「ひゃあ」
……悲鳴をあげる。
槍。
とてもとても長い槍。
いったいどこから……
ルディのコートの袖から伸びる、3メートルを超える長い槍。カク、カクと途中の2か所を、関節のように動かしている。
まるで昆虫の脚のよう……
『2つ目ではありません。私が彼の1つ目です』
コートの下で、アイテムが唸る。
『それに、鎧を着るのは私の宿主、ルディ神父です。殺しますよ青年……』
一方、声を荒げるルディ。
「やめろ! 槍を引っこめろ! すまない、シーカ君……」
ふたたびアイテムの非礼を詫びる、ルディ神父。
シーカはなにも答えない。
ただ、にっこりと「気にしてませんよ」的な微笑みを返す。
“ 槍のアイテム ” を戒めるルディ。
「槍を引っこめろといったんだ。それに私は、鎧など着る気はない。彼に謝罪しなさい、 “ 咲き銛 ” 」
1秒。
5秒。
アイテムは押し黙ったあと、ようやく謝罪の言葉を口にした。
『……失礼しました、青年。失礼しました、ルディ神父』
ズボッ、ズボズボッ。
椅子から槍が抜かれる。
『神よ……短絡なる私めをお許しください……』
しゅる、しゅる、しゅる。
槍が縮んでいく。
しゅるしゅる、しゅる……みるみる短くなり、しゅるんとルディの袖に3本とも仕舞われた。
『天に存します、我らの神よ……』
アイテムが祈る声が、礼拝堂に響く。




