第49話 「チャッカ」
「穢卑面、彼に謝罪しろ」
『やかましいルディ! 口を挟むな』
「話を聞いているのか? 彼に謝罪しろと言ったんだ」
『言葉に気をつけろ、ルディ。人間の出る幕ではないわ』
口論を始める穢卑面と、それを被る男。
以下、男をルディと記載する。
ルディの、白い髪がサラサラと揺れる。
『話は我がする! 貴様はだまって祈っていろ』
「死ねと言ったことを、彼に謝罪しろと言ったんだ」
『説教がましい奴め。これだからお前と話す気になれんのだ』
「6年ぶりにしゃべったかと思えば、それか? 私の祈りも、馬の耳に念仏だったようだな」
言い争いが激しくなってきた。
……何度も記載するが、上の会話は、仮面とそれを被る男のケンカである。はた目には、ひとりで二役を演じているようにしか見えないが。
※ ※
『やかましいぞ。いいから聞いてくれ』
うんざりした口調で、煙羅煙羅が割って入った。
シーカの肩で、うんざりとしゃべる。
『ここに来る途中、 " 足枷 " 、 " 焼き籠手 " 、 " 真っ白闇 " に会った。じつに笑えるぞ。すでに別々の人間に憑依している上に、いずれも眠っておった』
『なに……なんだと!?』
食いついた穢卑面だったが、すぐに声色が変わる。
足枷、と聞いて。
『お前、それを放ってきたのか!? い、いや “ 足枷 ” だと? あいつも人間に憑依しているのか』
『そのうえ驚くなよ。その人間……トラとかいったかな。足枷を履いて歩いておった』
『な……!』
言葉を詰まらせる穢卑面。
どうやら、あの長靴を履いて歩いた人間がいることが、信じられないらしい。
『そこでだ。我らが、再びひとつの鎧となるうえで、プランが2つある』
うきうきと話す煙羅煙羅。
『プラン、だと?』
不審がる穢卑面。
『その①、トラに鎧を着せる』
『ふざけるな!』
『ふざけてなどいない。我はずっとずっと、1領の鎧に戻ったあとのことを考えていたのだ。我らは防具。にもかかわらず、一度も戦場に出たことがない。それはなぜだ?』
『聞くまでもない……足枷のせいだ』
『そうだ。足枷の重さのあまり、人間は誰ひとりとして鎧を扱うことが出来なかった。そのために我らは、13に分けられてしまった』
『……』
『だが、いたのだ! 足枷を動かせる人間が! 再びひとつの鎧に結集のときは、トラに鎧を纏わせる。そして我らは、初陣を飾るのだ。世界中の戦争に赴くのだ……』
煙羅煙羅が、とんでもない野望を語る。
静まり返る礼拝堂。
『…………』
なにも答えない穢卑面。
さらに煙羅煙羅は続ける。
『反応が良くないな、穢卑面。では、プランその②だ。14個目のパーツを作る』
『はあ???』
素っ頓狂な声を出す穢卑面。
「な……?」
黙って聞いていたルディも、思わず声を上げた。
『早い話、足枷はもう要らん。ほかの脚甲を作ろう。もっと軽いやつをな』
ひどいこと言う煙羅煙羅。
『足枷をいちど壊し、それを材料にして新規足枷を作る。いや “ 足枷 ” はおかしいか』
『どんな人間でも装着できる靴』
『どこにでも到着できる靴』
『何にでも吸着できる靴』
『着靴 と呼ぶのがふさわしい』




