第48話 「チャーチ」
研究所での大騒動から2か月。
ここは……どこだろうか。
現在の時刻は20時15分。
ここは教会の礼拝堂のようだが、とても薄暗い。
ステンドグラスの窓から月明かりが差しこむ。カラフルな光が、祭壇、長椅子、カーテンを照らした。
祭壇には10本の蝋燭が供えられている。鎮魂のために用いられる、故人の名前が彫られた蝋燭。
その明かりが、礼拝堂にいる2人の影をゆらゆらと揺らした。
2人の人間……
ひとりは、シーカ。
ずらりと並んだ長椅子の最前列に腰かけている。左頬には、痛々しく傷を縫い合わせた痕がある。
そしてもう1人、祭壇の前に立つ男。
長い白髪に、真っ黒な神父服をまとっている。だが、その顔は仮面に覆われているではないか。
ドクロのような、仮面のアイテムだ。
アイテムの名を “ 穢卑面 ” という。
『突然やってきて驚いたぞ。1332年ぶりか……久しいな “ 朽ち灯 ” 。それに “ 煙羅煙羅 ” 』
再会を喜んでいるらしい、仮面のアイテム。
しかし―――
『おい、朽ち灯! 聞いているのか!』
仮面のアイテム。
以下、「穢卑面」と記載する。
問いかける穢卑面に、朽ち灯はなにも答えない。
『……朽ち灯? おい、朽ち灯……眠っているのか?』
代わりに、シーカの左肩で煙羅煙羅が答えた。
『そうなのだ穢卑面よ。傑作な事情でな』
※ ※
……なんという、異様な会合だろう。
シーカもドクロ仮面も、一切しゃべらない。
シーカはいつもの無表情で、ドクロ仮面を眺めるばかりだ。
ドクロ仮面もシーカを見おろしてはいるが、実際にその表情をうかがうことはできない。代わりに、アイテムの喋ること、喋ること……
仮面の穢卑面が本題を切り出す。
『では早速、その……シーカだったか? 死ね』
『そして朽ち灯、煙羅煙羅よ。 “ ルディ ” に憑依せよ』
『再びひとつに……』
恐ろしいことを言い出した。
「ムス……」
ムッとするシーカ。
死ねと言われて、さすがのこいつもカチンときたらしい。
と―――
「ふざけるな穢卑面。すまないシーカ君、気を悪くしないでくれ」
穢卑面をかぶる男が、初めて口を開いた。落ち着いた口調……中年をすぎたくらいの、高齢の男の声だ。
「あ、あ、ふ、ふ」
シーカは、にっこりと笑顔を向けた。
「き、き、気に、して、な、な、ない」
左頬の縫いあとが、ぐにゃりと曲がる。
……アイテムも含めて、コイツがいちばん人間味がない。
困ったもんだよ。




