第44話 「ロケットブースター」
ガラス壁をブチ破り、ホールにトレーラーが飛びこんできた。
散乱する破片、破片、破片―――
ガラス!
コンクリート!
配管!
断熱材!
ガレキを撒き散らしながら、ギュルギュルと反転してトレーラーは停車した。
「あああ、クソッたれ! 退避っつったろ、乗れ!」
フォックスだ。
運転席の窓から身を乗り出したフォックスが、怒鳴りまくる。
「モタモタすんじゃねえ……ぎゃあ! 左手野郎、アイテム増えてんじゃねぇか! もう知るか!」
ひととおり叫んでアクセルをふかす。もう逃げる体勢だ。
ドウン!
エンジンの音が響く。
ギュルギュルギュル!!
ドドドドォ……
トレーラーはさらに反転し、ふたたび外に向かって走り出す。この女、ぜんぜんトラとニニコを待ってあげない。
「お、お、お待ちを……ニニコ、来い!」
「きゃあ!」
慌てて追いかけるトラ。ニニコをかついで、ドタドタとトレーラーに駆け出す。
「とぉッ!」
ジャンプ!
ガゴッ!!
最後尾のコンテナに、長靴を貼りつけた。間に合った―――
ほ―――ッ! 大きくため息をつくトラ。
ひ―――ッ! トラにしがみつくニニコ。
トレーラーが轟音をあげる。
180度回転!
入ってきたときの穴から出ればいいものを、新たにガラスを粉砕して外に出た。
ドオオオオオオン!
ドガシャ―――――――――ン!
「ぎゃー!」
「わ―――!!」
コンテナにひっつく2人に、ガラスが降りそそぐ。
「痛てててて!」
ドドドドドドドドド……
脱出。
すでに研究所は数十メートル後方―――シーカの姿は豆ツブほどに小さくなってしまった。
※ ※
「あ、あ、あ……」
すでに50メートルも彼方を走るトレーラーを、目を細めて眺めるシーカ。
焦る様子もなく、ジッと立ちつくしている。
あ、いや……
「あ、あ、あ」
左拳を引いた。
構える。
この距離から、パンチ……?
しゅう、しゅう……
しゅ、しゅ……しゅ、しゅ。
しゅっしゅっしゅっしゅっしゅっしゅっ。
“ 煙羅煙羅 ” からふき出す煙の勢いが増した。肘部分の突起……いやノズルから吹きあがる、膨大な煙―――
『圧よし、撃てるぞ』
「あ、う」
ズドオオオオオオオオオオン!!
ノズルが大量の蒸気を吐き出した。
その勢いで、シーカは前方に加速した。
いや、飛んでいく!
トレーラーに……
キ――――ン……!!
トレーラーに追いついた。
ドガァァ!!!!
「ぬお!」
「キャー!」
ミサイル弾のような直線雲を描き、超高速鉄拳がコンテナに叩きこまれた。
ドオオオオオオオオン!
シーカのパンチで、トレーラーがちょっと加速した。10トントレーラーを押すほどの衝撃!!
※ ※
「うわ! ゴチン。ブ、ブブー!」
運転席のフォックスが、ハンドルで頭を打った。クラクションが2回鳴る。
「痛え! な、なんだぁ?」
※ ※
トレーラー後部、そこでは―――
「落ちるわ、落ちるわ!」
足をバタつかせるニニコ。
コンテナの天板に必死でしがみついている。スカートから、真っ赤に染まった触手がヒュルヒュルと風に舞っている。落ちる、落ちる!
「ひい、ひい!」
なんとか天井に這い上がった。
『娘はどこだ! 血をぜんぶ飲んでやるぞ!! どこだ!』
煙羅煙羅の絶叫。
シーカの左腕が、コンテナに深々と突き刺さっている。煙羅煙羅の吐き出す煙が、たなびいて後方に流れた。
それよりシーカは必死。
「ぬ、ぬ、抜けない」
煙羅煙羅の飛翔力のあまり、左腕がコンテナの扉を貫いてしまった。なんとか腕を引っぱりだそうとするが……ビクともしない。抜けない。
いや抜けてはいけない。
いまスッポ抜けたら、走るトレーラーから落っこちる。でもそれどころじゃない。
「タ、タ、タイム……」
目の前には……
「ようこそ。よくも手ぶらでおいでくださいました」
水平に立つトラ。
コンテナに長靴を貼りつけ、2本の足で水平に立っている。もはや上下もへったくれもない!
バキン!
身動きできないシーカに歩み寄る。
「早速ですが、お引き取りを。この世からな……」




