第43話 「クリムゾン」
「と、トラ……なにを……」
「うるせーんだよ、クソガキ」
突然、ニニコを突きとばしたトラ。
心配するどころか、尻もちをついて固まる彼女に……信じられない言葉を言い放った。
「さっさと失せろ、厄病神が。いいや、疫病神か?」
「なにを……なにを言うの? トラ……」
「気安く呼ぶな! 消、え、やがれ。オラ消えろ!! 一緒にいるだけで災難がうつりそうだぜ」
「あ……あ……」
耳を疑うニニコ。
「チッ。もういいや、勝手に死んじまえ」
トラの舌打ち。
ニニコに背を向け、視線はシーカへ。いや、彼の左肩を覆う “ 煙羅煙羅 ” へ。
「お前もそう思うだろ、炊飯器炊飯器?」
『別に思わんな、グロッキーグロッキー。ネジを返せ』
しゅう、しゅう。
「イヤなこった。おいシーカ、交換だ。お前がパクったパーツ2枚とな」
ネジを見せつけるトラ。
しかしシーカは、ネジなんかに目もくれない。
「だ、だ、だ……だまれ」
刺し殺さんばかりの視線を向けくる。
怒って、いる?
「ニ、ニ、ニニコに、よ、よ、よくも」
「朝までかかりそうか?」
再度、挑発するトラ。
「し、し、し、死ね……」
「いきなり口が達者になったな、男前。ンなこた聞いてねぇよボケ!」
叫びたてるその後ろから、ニニコが近づく。
「トラ……」
とうとう、トラの怒りが絶頂に達する。
「失せろってんだろ! 小汚ねぇガキめ、洗濯槽に放りこむぞ!」
天井が割れるほどの大絶叫に、少女は……怯まない。
ひるまない。
「私を逃がすために必死なのね、トラ」
ビクリ!
今度はトラがたじろぐ。
「!!! な、なに言ってんだ! そんなわけあるか! ちゃうわ!」
図星。
冷静に見透かす、大人なニニコ。
一方、テンパる大馬鹿野郎。
「ちがうぞ! 本当にお前が邪魔なんだぞ! なぜなら……」
取り乱す。
ニニコはそれを無視し、トラに歩み寄ると……
「あぐ」
パク。
トラの手を掴むや、ネジを指ごと咥えてしまった。
「い! ニニ……なにしやがッ」
「ん……くぷふ」
小さく息を洩らして、ニニコの口はようやく指から離れた。
トラの指に、ネジが……
無い。
「かちゃかちゃ、むぐむぐ。ンー、ン……ごく。ネ、ネ、ネジ、うまいぃ……」
……喰いやがった、このバカ娘。
なぜか朽ち灯のマネをしている。
「ア――――――ッ! このバカ!!」
「!」
『な……』
トラが叫ぶ。
シーカが目を見開く。
煙羅煙羅の驚いた声……
「ひ……あ……!」
急に顔をしかめ、お腹を押さえてニニコが震えはじめた。
パニックになる大人の男2人。
「おいおいおい! どうした、腹が痛いのか!?」
「ま、ま、ま、ま! か、か、か、か……」
トラとシーカが駆け寄ろうとした、瞬間!
ぶわああ!!
スカートからかたびらがぶわり、目一杯に伸びた。
「みゃ」
小さな口をいっぱいに広げて、天井を仰ぐニニコ。
「みゃああ!」
ズズズズ……
かたびらが赤く、血のように赤く染まっていく。
“ 真っ白闇 ” の、6色目……
「あ……赤だわ、すごい」
はあ、はあと息を切らす。
「パパ、ママ……」
真っ赤な触手が、ユラユラとなびく。
「すごい……」
「こっちがすごいと言いたいわ! びっくりすんじゃねえかよ!」
「あ、は、あああは、はは、は、は、は……」
怒るトラ。
笑うシーカ。
しゅう、しゅう、しゅぴ―――ッ!
煙羅煙羅が、ヤカンのごとく大量の煙を吐き出した。
『シーカ……娘を取り押さえろ。こ、この娘を……』
煙羅煙羅も困っているのか、呂律が回っていない。
だがニニコは、正真のバカだった。
「もっと食わせろ、シーカ~」
まだモノマネを続けている……
「正真のバカかお前は!」
「おかわり」
「あ、あは、はははは、ははは……!」
怒るトラ。
徹底的にふざけるニニコ。
けたたましく笑うシーカ。
そこへ――――――
ドォオオオオオオオオオオオオン!!
「今度はなに……ゲッ!」
「わあ!」
ガラス壁をブチ破り、トレーラーが飛びこんできた。
散乱する破片、破片、破片――――――




