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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第5章「見る影もないラボを焼き捨てる涙へ」
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第38話 「クリメイション」





 ボゥオオッ!!



挿絵(By みてみん)



 扉の大穴から火球が飛び出した。

 通路の壁に当たって爆散する。


 たちまちコンクリートの壁が炎を巻きあげた。熱気に包まれるニニコとトラ。


 

 ゴォォォオオオオオ……


 火の粉が降りそそぐ。

 ボーゼンと天井を見上げるトラ。

 その胸に乗っかるニニコの泣き声が、くすん、ぐすん、と小さく響く。


「ニニコ……いま、中はどうなってんだ? 地獄みたいだなんて言わねえよな?」

「みんなの骨、燃えちゃった。お花も……地獄みたい。本物の地獄みたい」


 トラの腹に顔をうずめて(ふる)える、小さな体。


「オーナー……フォックスは? 燃えちまったなんて言わねえよな」

「地獄みたい、地獄みたい……」


「あ゛ー……んん! 痛てて……」

 がば!

 ニニコを胸に乗せたまま、上体を起こすトラ。


 顔を上げるニニコ。

 (ひとみ)が、涙で真っ赤に(にじ)んでいる。(にじ)んでいる。

「トラ……」



「逃げなニニコ。いつかきっと「()っさら(やみ)」の呪いも解けるさ……待てよ、真っ白闇(・・・・)だっけ?」

「グスン、もう死にたい。あの日、死ねばよかったんだわ。パパとママと、みんなと一緒に死ねばよかった」


「よせよ、アホな考えだ。いや、俺もガキのころにハマったけどさ……」

 ズシン!

 起き上がる。


 そして―――


「さ、行きな」

 ニニコを立たせ、トラはふらふらと穴へ向かった。


 その(あと)についてくるニニコ。

 いや、なんでやねん。



「ついてくんなって!」

 シッシッ。

 追い払おうとするトラ。


「イヤよ! グスグス、シーカに文句言ってやるんだから!」

 グスン。

 (そで)で涙をぬぐう。グスン。


「……どうなっても知らねーぞ」

 やれやれと穴から上半身をくぐらせ、中をのぞきこみ―――絶句(ぜっく)した。

「おいおいおい、なんだよこりゃ」


「地獄、か?」



※ ※



   ゴォォォォオオオオオオオオ…… 


   火の海。

   火の海ではないか。


   オーナーは?

   シーカは? 



 両手を交差して(たて)にするが、熱波はまったく防ぐことができない。顔に熱気が当たり、汗が()き出す。


 ぎょろぎょろとあたりを見まわすが、2人はいない―――


 って!


「どけ、バカ!」


 炎をかき分け、フォックスがこっちに向かってきた。助走たっぷり、トラの顔に()()りを見舞う。 

 ズドォ!



挿絵(By みてみん)



「グベッ!」 

 また仰向あおむけにぶっ倒されるトラ!


「全員退避!」

 炎を巻きあげる研究室内から飛び出すフォックス。振り返ることさえせず、そのまま廊下を走り去った。

 鬼か、この女。

 フォックスの姿は、あっという間に見えなくなってしまった。

 


「待ってフォックス!! トラ、起きて! うーん、重いぃ……!」

 ニニコは必死にトラを起こそうとしているが、もちろん動かせない。

 お、重すぎる。


「あ、あ、あのアマ……げッ!!」

 真っ赤に()れた鼻を押さえながら、体を起こすトラ。よろよろと扉の穴から研究所をのぞき……


 凍りついた。


 燃えさかる室内。

 その中央、水槽の前に立つシーカ。


 いや、それどころじゃない。 

 

 水槽が、割れている。



挿絵(By みてみん)


 

 ジャバジャバ。

 ザバザバザバ……


 水槽には大きく穴が開き、内部に満たされていた液体が流れ出している。床に、ジャバジャバと水たまりが広がっている。


 そして。



 シーカの周りに浮かぶ、50を超える数のブロックの群れ。

 ふわりふわりと、シーカの周りを舞っている。


 ごうごうと燃える室内に煙が立ちこめた。

 骨の山はいずれも炎にまかれ、パチパチと破裂音を響かせている。


 けたたましい火炎の中で、朽ち灯の声が響いた。


(ひさ)しいな、煙羅煙羅(えんらえんら)





『ああ、久しいな。朽ち灯よ―――』

 ガチャ、ガチャン。

 ふわ、ふわ……


 浮かぶブロックが、それに答える。

 (ちゅう)でぶつかりあうブロックたち。

 ふわふわ。

 ガチャガチャ。  

  

   ガチャ。


『待て、ほかにもいるな。そこにいるのは……「足枷(あしかせ)」か! なつかしい』

 カシャン。

『おや、「()白闇(しろやみ)」もいるのか。久しいな、久しい……』


 カシャン、カシャン……

 カシャン―――




 シーカが(まゆ)をしかめる。


(なに言ってんだ、このブロックの群れは?)

足枷(あしかせ)? ()白闇(しろやみ)? なにを言って…………って、おいおいおい!)


 振り向いたシーカが見たものは……トラとニニコの姿だった。

 ため息をつくシーカ。


(なにしに来やがったんだ、ホント……付き合いきれないよ)





「シーカ! みんなの骨をどうしてくれるの! 謝ってちょうだい、みんなに謝って!」

 ワーワー!


「触手ひっこめろ! 離せボケッ!!」

 ワーワーワー!


 スカートから触手(かたびら)を伸ばすニニコ。

 そして、そのかたびらに縛られるトラ。


「私たちが相手になってやるわ! ワーワー!」

「私たちってお前と誰だ! 押すんじゃねえ―――!」



挿絵(By みてみん)



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終身刑の魔女より

 ↑

いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



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