第36話 「ソゥ ベリー バッド」
『なにがおかしい、シーカ……』
ガヂャ……!
朽ち灯が高く持ち上がり、シーカの頭をがっしりと掴んだ。
『今度はどの部位を壊してやろうか』
「う……あ!」
笑いが止まる。
引きつった彼の口元が、そのままの形で固まった。
『言語中枢を半分残しておいてやったのは、失敗だったな。身の程も覚えておれん頭なら、もう必要あるまい』
おそろしい声。
『いっそ前頭葉を消し去ってやろうか? 美味かったぞ、お前の脳は……』
「わ、わ、わか……」
シーカの表情は恐怖に満ちている。
脳……?
喋りかたが急に変わったのは、朽ち灯に脳機能を食われた結果……なのか?
声の変化からも、彼の怯えがトラにもはっきり理解できた。
ガチャ、ン。
シーカの回答を最後まで待たず、朽ち灯はゆっくりと頭から離れた。
『よろしい……まずは「真っ白闇」を食う。次は「煙羅煙羅」を喰う』
『ニニコも食う。「焼き籠手」の女も食う。この男は撲殺せよ』
『その次は「独楽」を喰いに行く。その次は……』
素直になったシーカを見て、ようやく落ち着いたらしい。
朽ち灯が、先々の計画を語りだした。
だが……
「なぁシーカ。お前のノルマは? ナンボだ?」
話の流れをまったく無視して、シーカと会話を試みるトラ。
……なぜコイツはいちいち、朽ち灯の神経を逆なでするのか。
『おい……いや、よかろう。でしゃばるなよシーカ。我は主人で、お前は騎馬だ。馬はしゃべらない。分かっているな……』
「シーカってばよ。お前のノルマは?」
朽ち灯を無視するトラ。
シーカは……
無視。
じっと睨むトラに、シーカはなにも答えない。代わりに、朽ち灯のしゃべること、しゃべること。
『フン。冥途の土産に教えてやろう。我が呪いは、1億2345万6789回、意味のない破壊を行うことだ』
「その喋りかたも、朽ち灯にやられたのか? シーカ」
朽ち灯を無視し続けるトラ。
朽ち灯も、無視されていることを無視している。
『脳の「ブローカ野」を破壊してやった、と言ってもわかるまいな。言語を中枢する……』
「シーカ。お前の、ノルマはなんだ?」
だんだん声が大きくなる。
だが、シーカは何も答えない。
ってか、朽ち灯がさっきノルマ言ったじゃん。
その朽ち灯を恐れているのか、シーカの表情は変わらない。
無表情―――彼の顔からは、なにも読みとれない。
なにを考えているのか……
「あああああ! はよ言え! 俺のガマンがいつまで保つと思ってやがんだ!」
絶叫。
「……」
だが、やはりシーカは答えない。
トラの目をじっと見て……ふるふる、と首を横にふった。
『いい子だ、シーカ』
満足げな声をもらす朽ち灯。
ブチ切れるトラ―――
「悪い子だ、シーカァアア! メチャクチャにしてやる! ソープにも行けねえ体にしてやる!」
すげえことを言いだした。
……メチャクチャである。
めちゃくちゃ、である。




