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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第27章「立つ瀬もないブーツを焼き捨てる魔王へ」
248/249

第248話 「マックラヤミ」

 


 マオちゃんとの面談は続く。

 ニニコにとって、つらいつらい時間だった。


「あとはイバラだね。緑色のノルマで、完全に真っ白闇から解放されるよ」

「う、うん」


 また!

 また、ニニコの意見など聞かずに決めている。いよいよ真っ白闇のもう片方も取り上げる気だ。


「ツクシイバラっていう、日本のクマモトって地方の固有種なんだけど、いま手に入れるのに交渉中なんだよね」

「交渉……?」


「そのイバラって、いま絶滅危惧種になってんの。地元の保存会に頼んで、分けてもらえないか交渉してんの。まあいまはシーズンじゃないらしくて、そもそも手に入んないんだけどね」

「どうして?」


「はい?」

「なんで真っ白闇のノルマがわかるの? そんな簡単に……いつのまにそんな分析とかしたの?」


「分析なんかしなくても、そんなもん見ればわかるよ。私、魔王だもん」

「あ、そう……」


 答えになってない。

 なのにこの説得力はなんなんだ。



挿絵(By みてみん)



「半年以内には日本から輸入できるんじゃないかな。イバラ食べたら、左足の真っ白闇も脱げるよ。よかったね」

「……うん」


「あ、脱げたほうの真っ白闇は私が預かるから。(まぎ)らわしいからさ、なんか識別番号つけよっか。私の持ってるほうが「ライト」。ニニコちゃんがまだ呪われてるのを「レフト」にしよっか」

「え、べつにどうでも……」


「じゃあ決まり。あ、あとニニコちゃんはもともと黒髪でしょ?」

「は? な、なにそれ?」


「いまの灰色の髪って、真っ白闇にメラニンを吸われて色素が薄くなってるからだよ。それが片方外れたから、髪も半分だけ黒に戻ると思うよ」

「あ、そう……」



 やがて髪色が、半分だけ黒に戻るそうだ。


 言われてニニコは思い出した。 

 そういや、私の髪って黒だったっけ。真っ白闇に呪われて10年、ずっとグレーっぽい色だったから忘れてた。

 べつにどうでもいい。



「さて……と」

 真っ白闇ライトを手に、立ち上がるマオちゃん。

「じゃあね」


「あ……ま、待って!」

 あわててニニコは引き止める。

「待って、まだ聞きたいことがいっぱい……」


「……なに?」

 はじめてマオちゃんの顔から笑みが消えた。素の表情で見下ろしてくる。少しだけ、カブトの炎が小さくなっているような気がした。


 怖い。

 だが意を決してニニコは聞く。



「今って、なにがどうなってるの? みんなは今どうしてるの?」

 ギュ。

 怖くて(こぶし)を握りしめる。

「ジェニファーはホントに無事なの? ハムハムとシーカも……フォックスやトラは、いまどうしてるの? 生きてるのよね?」


「……はあ、生きてるけど?」

 マオちゃん。

 怖い。

「そんなこともう教えてあげたじゃん。なに言ってんの?」


「だって、だって」

 声が震える。

「だって本当のことだかわかんない……」


「私がダマしてるって言ってんの?」

「そ、そうじゃないけど……」


「ふむ……」

 ため息。


 マオちゃんは腕組みして少し考えこむ。ニニコをにらんでみると、さっと目を()らしてしまった。

 何秒か考えて、マオちゃんはスマホを取り出した。

 電話をかける―――


 PLLLL。

 PLLLL。

 PLL……


 ピッ。



「あ、もしもし? いま大丈夫?」

 マオちゃんは笑う。

 ニニコに向けていた冷たい笑みとはまるでちがう、おだやかな笑顔で電話をかける。

「うん、その話はまたあとで詰めようよ。ちょっとニニコちゃんに代わるね。あ、ていうかビデオにするからこのまま話して」


 スッ。

 マオちゃんがスマホを向ける。


「見て。画面」

「……」


「見てったら」

「……う、うん」


 おそるおそる、ニニコは画面をのぞく。

 そこに映っているのは……



「ジェニファー! ガンッ! 痛い!」

 飛び上がる。

 その拍子に、テーブルで足を打った。よりによって右のふとももを強打―――いままで真っ白闇に守られていたので油断した。

「痛い痛い!」


「あっ、大丈夫?」

《あっ、大丈夫?》

 心配するマオちゃんとジェニファー。


「だ、大丈夫……ジェ、ジェニファーこそ大丈夫なの?」

 画面に食い入るニニコ。

「だ、大丈夫なわけ……ないわよね」


 ジェニファーは病院らしきベッドに、うつ伏せで寝かされている。スマホの小さなディスプレイではよくわからないが、どうやら全身に包帯を巻かれているらしい。



《いや、けっこう平気よ。あはは……背中に植皮したから、ぴりぴりするけどね》

 笑顔。

 満身創痍(まんしんそうい)ながら、ニニコに笑いかけてくれる。

《死ななくてよかったわ。あと一週間くらいで退院できるのよ》


「ジェニファー、ご、ごめんなさい。私……」

 ぽろぽろ。

 涙。

「わ、私とシーカのせいで……」


《あえ? いや、なんでそうなんの? 私が魔王様を救出するのに、自分で車から飛び降りたんだけど》

 困惑。

《むしろニニコちゃんとシーカさんを見捨てて逃げたんだけどね?》



「ほら、謝られてもジェニファーくん困るって言ったじゃん」

 (あき)れ顔でつぶやくマオちゃん。


「うう、だって。だって私たちがマオちゃんを誘拐するのに、ジェニファーまで巻きこんだから……」

 ぽろぽろ。

「ご、ごめんなさい。うう……」


《泣かないで。こんなケガくらい、魔王軍に就職したときに覚悟してるから》

「うう、うう」


《それよりニニコちゃんも魔王軍に入ったんでしょ? なら私の後輩ってことになるのね》

「わ、私、怖かった。ジェニファーを死なせちゃったんじゃないかと……」


《死んでないから》

「う、うう」

 

 優しいジェニファー。

 涙をこぼすニニコ。



「そのスマホ貸したげるよ。私もう行くから、あとで返してねー」

 マオちゃんは笑う。

 真っ白闇(ライト)を持って、立ち上がった。


 黒服のひとりが、マオちゃんのためにドアを開く。そのとき黒服は、たしかにマオちゃんのつぶやきを聞いた。

「世話焼かせてくれる」 

 ぼそっ。


 と―――



「マオちゃん!」

《魔王様》


 ニニコとジェニファーが、同時に呼び止めた。

 うんざりと振り返るマオちゃん。


「……なーにー?」



「あ、ありがとう」

《ありがとうございます、魔王様》


「……べつに。いいよ」



 マオちゃんは出ていった。


 そのあともニニコは、スマートホンを握りしめて泣いていた。もう真っ白闇のことなんかどうでもいい。

 ジェニファーが生きていてよかった。

 マオちゃんの話が、ウソじゃなくてよかった。



《シーカさんはどうしてるの? なにか聞いてる?》

「ぐす。無事だってことしか聞いてないわ。あれから誰にも会ってないの。ジェニファーはなにか知らない?」


《私もくわしいことは聞いてないわ。休職中だし、作戦の内容まで聞くわけにいかないのよ》

「ぐすんぐすん! でもよかった……」


《よかったって?》

「わ、私、マオちゃんが嘘をついてるんだと思ってたの。ホントはみんな死んじゃってるんじゃないかと思って、すごく、すごく不安で……」


《それなら大丈夫よ。被呪者はだれも死んでないって聞いたから》

「よ、よかった。よかった……」


《魔王様を誘拐しようって連中が、そうそう死にゃしないわよ》

「うう、ううう」


《安心した?》

「うん。ね、ねえ。フォックスやトラがどうなったか聞いてない?」


《ごめん、それは知らない。でも魔王軍の管理下に置かれてるはずよ》

「うう、もう生きててくれただけでもよかった……」



 ニニコは嬉しかった。

 すこしだけ、すこしだけマオちゃんに対して印象が変わった。もしかしたら、自分をいじめて楽しんでいるのかと思っていた。

 ちがった。

 どうやら違うらしい。


 魔王はもしかして、自分たちの救いの女神になってくれるのかもしれない―――そんな期待が、ニニコの胸中に生まれつつあった。



《あれ、ニニコちゃん。髪どうしたの?》

「ぐすんぐすん。え、髪? 私の髪? なにが?」


《なんか……カメラがおかしいのかな。ニニコちゃんの髪、右側だけ黒っぽくない?》

「ぐすん。ぐすん」


 ニニコの右の髪だけが、どんどん黒くなっている。

 グラデーションではなく、左右でくっきり分かれるように黒と灰色の2色になってしまった。



挿絵(By みてみん)



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終身刑の魔女より

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いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



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