表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第27章「立つ瀬もないブーツを焼き捨てる魔王へ」
246/249

第246話 「ウキチ ≒ トラ?」

 


挿絵(By みてみん)




「へっへっへ。へっへっへ」

「もう疲れた。なんなのこの男、情けない……」


「へっへっへ。まあこの様子でして。ほかにも射創(しゃそう)剥離(はくり)骨折、単純骨折が複数個所ありましたが、こっちは大したことないですね。一部はサントラクタで治療を受けたようで、後遺症のアレとかはございません」

「……そりゃよかった。さっきも聞いたけど、トラくんの右手は治る見込みあんの?」


「いまはなんとも言えません。さっきも申しましたように今後のリハビリ次第ですが……へっへ、この男にそこまで根性があるかどうか」

「ぶっちゃけ、彼も井氷鹿(イヒカ)の被呪候補に考えてるんだけどさ。どう思う? 医師として」


「へ……へ……」


 ダンドルが急にへらへら笑うのをやめた。

 いや、まだ笑っているが、とつぜん口調が変わる。真面目な雰囲気で話しはじめた。


「おすすめしませんね。彼の異常な脚力についてがっちり原因を調べるんなら、年単位の検査が必要ですね。その状態で井氷鹿(イヒカ)の運用までやらせるのは、スケジュールが過密すぎると思いますね」

「……」


「あっと、右手の話で忘れてましたがトラブリック。両足の大腿部にも直径20ミリの貫通創(かんつうそう)があり、しばらく歩行は無理ですね。まあこっちは1カ月もなしに完治するでしょう。へへ、後遺症も残らんでしょうし、今後も足枷の運用には支障ないはずです」



「ふむう……バクン!」

 チーズバーガーの残りを口に放りこむマオちゃん。(まゆ)をしかめつつ、頭のカブトをかりかりと()いた。

「もぐもぐ。例の件も調べてくれたんだよね? どうだった?」


「こちらをご覧ください」

 パッ……

 ダンドルの操作で、また別の画面が現れた。よくわからない表だが、細かい字でびっしりと書かれている。どうやらトラの血液検査の項目が並んでいるらしい。


「へっへ。β-MIOの項目をご覧ください。5日間のベータ・ミオスタチオン値の平均は65877。その他の魔力系数も軒並(のきな)み420前後ですね」

「もぐもぐ、平凡だねえ」


「はい。アスカの子孫に特有の、ベータ・ミオスタチオン欠乏の特徴は一切ございませんでした」

 へっへっへとダンドルは笑う。



 ※ベータ・ミオスタチオン。


 通称、魔力。

 少なければ少ないほど(・・・・・・・・・・)筋力が強くなる酵素。



 ※アスカの子孫。


 400年前のマオちゃん(男)とアスカ(女)の子孫。

 ベータ・ミオスタチオンが生まれつき低い欠乏症。

 だから一族全員、怪力かつ巨大な鎧に呪われない。



「ふむ。もぐもぐ」

「あれだけ大きな鎧……足枷(あしかせ)に呪われてるってことは、ベータ・ミオスタチオンの欠乏症ではない。つまり、アスカの子孫じゃないってことになりますね」


「もぐ……じゃ、なんであんな脚力なの? ふつうに考えてあの怪力は、魔力が少ないからしか考えられないでしょ」

「へっへ。ところが魔力……おっとベータ・ミオスタチオンが関係ないのだけは確かですね」


「ていうかさ、トラくんはその……私とアスカの子孫じゃないの? 私の子孫って、いままで日本人だけだと思ってたんだけど。彼、可能性とかない? 白人だけどさ」

「白人ですねえ、どうみても」



「真ん中あたりに書いてある祖先肯定率(・・・・・)ってのが、アスカの子孫の可能性ってこと? 8%しかないけど」

 マオちゃんがポテトでディスプレイを指す。


 青い文字で記された数字は、8%。

 アスカとの祖先肯定率、と書いてある。


「へへへ。私が考えた言葉です。わかりやすくていいでしょう、祖先かどうかの肯定率」

「そのまんまじゃん。まあいいけど。8%は子孫ってことなの? 子孫じゃないってことなの?」


「わかりません。8%の可能性は、血縁のアテになりませんね。いっそゼロならよかったんですが」

「? どゆこと?」


「ホントに子孫だったとしても、祖先肯定率(・・・・・)はせいぜい12%くらいなもんなんですよ。へへ……なにしろ10世代以上も前の先祖とのDNA検査ともなりますと、世代をまたぎ(・・・)すぎてて……」

「どちらとも言えないって感じ?」


「一致率8%ってのは、赤の他人でもおかしくない数値なんですよ。偶然このくらい一致することはあり得る話です。へへ、逆に本当に奥方様(・・・)の子孫だったとしても、8%になる可能性もあります」

「ようするに?」


「どちらとも断定できません。へへ、はたして彼はアスカの子孫なのかどうか……謎ってやつで」

「頼りにならないなあ」


「へへっへ……すいません。ただ、私が見た感じトラブリックは、魔王様と奥方様(・・・)の子孫じゃないと思いますよ」

「なんでそう思うの?」


「カンです」

「カンかいな!」


 どこまでもテキトーなダンドル。

 ずっこけるマオちゃん。



「まあ真面目な見識を申しますとですね。トラブリックのベータ・ミオスタチオンの値はあくまで常人レベルですからね。欠乏症じゃないこと自体が、すでにアスカの子孫っぽくありません」

「……」


「話が重複しますが、アスカの子孫なら、あんな巨大な鎧に呪われたりしないわけで。必要魔力量がぜんぜん足りませんからね……へへへへへへ。ご存じのとおり、体積の大きい鎧に呪われるためには、ある程度の魔力が必要です」

「……」


「そこにいくと、足枷はけっこう大きい(ヨロイ)ですしね。あれだけの体積のパーツに呪われてること自体が、アスカの子孫じゃないって証拠みたいなもので」

「……私も話が重複するけどさ。じゃあなんで彼、あんなスゴい脚力なわけ?」


「へへ。彼の異常な脚力はおそらく、なんらかの特異体質だと考えます。ベータ・ミオスタチオンとはまったく別の理由だと思われますね」

「うーん」


 机に突っ()してしまうマオちゃん。

 真剣に考えごとをしているのか、カブトの炎がチロチロと揺らめいている。




挿絵(By みてみん)




「へへ……なにかお気がかりで? なにか感じるものとかあります? ああ、こいつ子孫だなあみたいな」

「いや、そういうのは無いんだけどさ……」


「いかがされましたか」

「……トラくんは、この城にいるんだよね?」


「へ? ええ、そりゃもう。呪われた人間をよその病院になんて入れられませんから。いまは地下の一室を改造して、そこに監禁中です」

「……」


「いやいや、ちゃんと医療設備もそろえて治療は継続中ですよ。ご安心を」

「……」


「なんでしたら、いまからお会いになりますか? すぐにご案内いたしますが……へへ、いかがでしょう」

「……いや、いい。大丈夫。ただ……」



 腕組みをしたまま、ディスプレイを眺めるマオちゃん。そこにはまだ、トラの血液検査の結果が映ったままだ。


 アスカとの祖先肯定率は8%。

 トラがアスカの子孫である可能性は、わずか8%。可能性はきわめて低いようだが、否定もしきれないそうだ。



「ただ、なんとなくさあ……」

 ため息。

 ハンバーガーの包みを丸め、からっぽのフライドポテトの容器に押しこむ。

「なんとなく彼、アスカと私の子に似てるんだよね」


「おや、そんなお話はじめて聞きました。魔王さま似で? 奥方さま似で?」

茶化(ちゃか)さないでよ。私だって、はじめて彼に会ったときは、ぜんぜんそんなこと思わなかったんだけどさ。ただ、ほんのちょ―――っとだけ、話しかたとか似てるときがあるってだけ」


「ほほう」

「そのうえ、あのスーパー脚力でしょ? 私とアスカの末裔(まつえい)のひとりかなって、念のために疑ってみただけだよ」


「へっへっへ。ご子息に似ておられる?」

「たまーに、そういうときがあるってだけね。怒ったときとかにさ。あ、そうか。怒るまでそんな雰囲気なかったから、初対面だと感じなかったのかな」



挿絵(By みてみん)



「へへっへ、それはそれは。じつに科学的で」

「まあ、トラくんのことはもういいや。あとはニニコちゃん? 彼女はここにいるんだよね?」


「はい。おそらく今日あたり「解放」だと思われますが……いかがします? いまから向かわれますか?」

「そうだね。食事も終わったし会いに行くよ。行こうかジュウゾウ、ケイシー、コイル」


 はっ。

 かしこまりました。

 無言で控えていたボディーガードたちが返答する。と、ダンドル医師は、立とうするマオちゃんを引き止めた。


「おっと、最後に魔王様。医者としてひとつだけ」

「なに?」


「お食事はちゃんとした料理をお召し上がりください。とくに会議中だ移動中だのついでに食事なさるのは、お体に(さわ)ります。お忙しいとはいえ、ファストフードばかりじゃお体に毒ですよ。へへ」

「……気をつけるよ」


 ガタっ。

 口をナプキンで()きつつ、マオちゃんは立ち上がる。



 本日のメインイベントだ。

 ついにニニコが “ ()白闇(しろやみ) ” から解放される。


 黒服のボディーガードらに先導され、マオちゃんは地下の監獄へ向かった。

 ニニコ専用の監獄へ。



 今日、ニニコは真っ白闇から解放される。

 半分だけね。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


終身刑の魔女より

 ↑

いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ