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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第27章「立つ瀬もないブーツを焼き捨てる魔王へ」
243/249

第243話 「キテレツ エンサイクロペディア」




挿絵(By みてみん)



「……」

『……』

 ロドニーはなにも言わない。椅子に座ったまま、彫刻のように固まっている。ぽかんと口を開けたまま、なにも言わない。

 皮肉屋の独楽(ドグラ)さえ、なにも言わない。


 ロドニーはいま自宅にいる。

 まず第18章、19章は覚えておられるだろうか?


 バスター・ロドニー博士は在宅起訴されている。すでに裁判は始まっているが、魔王軍が用意してくれた弁護団のおかげで、いまは保釈中の身だ。

 

 そんな彼のもとに、さっきメールが送られてきた。

 緊急のメールは、マオちゃんからの要請だった。もちろんロドニーはただちにメールを確認し、添付のデータを開いた。

 ファイルは全部で64個。

 最重要のタイトルを開けると、いきなりさっきの漫才が再生された。ふざけてるとかいう次元を超えている。



「相変わらずふざけているな、魔王……なんだったんだ、いまのは」

 頭を抱えるロドニー。

 

『我はなかなか楽しめたがな。メールの文面を見よ、バスター。さっきの娘らは、卒業後に漫才の道へ進むことを志望しているらしい。さすがは魔王様の同輩である』

 やっとしゃべった独楽(ドグラ)


 ロドニーの背中で、がしゃんと巨大な姿を誇っている。どこに目があるのかわからないが、巨大なハサミ状のアームをディスプレイに向けている。ふむふむと、メールの文面を読んでいるらしい。


『まあ、漫才よりその内容のほうが面白かったがな。ははは、フルカワとはまた懐かしい名が出たものよ』


「追放された鎧があるとはな……独楽(ドグラ)、そんな大切なことをなぜ黙っていた」

『聞かれなかったからだ』


 相変(あいか)わらず、ロドニーと独楽(ドグラ)は関係はよくわからない。悪友どうしとでもいうべきだろうか。



「まずにも鎧のエネルギーとやらが心配だ。このまま枯渇(こかつ)したらお前はどうなる?」

『動けなくなるに決まっている。当り前のことを聞くな』


「ガス欠とは情けない話だ。もし動けなくなったとして、回復する方法は?」

『知らん。かつて機能停止したことなどないのでな。まあ貴様ら人間でいうところの、死と考えるべきだろう』


「……お前、自分のことだろう。そんなに簡単に言うな」

『すでに井氷鹿(イヒカ)は魔王様の手中にあるのだろう? ならば適当に誰でもいいから呪わせればいい。なんの心配もいらん』

 

「……楽観的だな」

『それよりバスター。魔王様はお前になんのご用だ』


 カタカタ。

 難しい顔をして、ロドニーは画面をスクロールする。すちゃ、とメガネを上げてモニターをにらむ。



「ほかのメールに書いてあるな……なんでも鎧を封印するための施設を設計しろとのことだ」

『封印?』


「かなり巨大な物が必要らしい。中型トラックをまるまる沈められる規模のものを設計しろとさ」

『はて? 裁判が終わるまでお前は出国できまいが。(シン)にまで作りになど行けんだろう』


()なんて国はもうない。いま何世紀だと思ってるんだ」

『おっと、つい昔の呼びかたをしてしまった。まあどうでもいい。どうする気だ』


「あくまで設計するだけだ。実際の建造は現地の会社にさせるんだと書いてある」

『ふむ』


「私の仕事は図面を考えるだけのイージーな仕事だ。あとの添付データは建造予定地の地質や測量図だな。いまから確認するさ」

『せいぜい(はげ)むことだ。お前の取り柄は機械いじりだけなのだからな』



挿絵(By みてみん)



 ロドニーの書斎は、とても小ざっぱりしている。

 工学博士の家なら謎のマシーンが所狭(ところせま)しというのをイメージしがちだが……パソコンが5台もあるのが目立つくらいで、まったくふつうの書斎だ。整頓された本棚も、神経質な彼の性格があらわれている。

 

 ロドニーは、左から2番目のパソコンを立ち上げた。

 魔王軍から届いた26通のメールのうち、さっきの漫才とは別のファイルを開く。そこにはすべての鎧の所有者と、現在の保管状態がリスト化されている。

 パスワードを入力して解凍した。


 ファイルすべて選択。

 片面印刷。


 ガガッ!

 プリンターが作動をはじめた。


『うるさいプリンターだ。いい加減買い替えろ』

「自分で修理できるものを誰がわざわざ買うか。そのうち(なお)すから我慢しろ」


『我にも資料を見せろ。ふむ、トラというのか。足枷(あしかせ)を履いて歩ける人間がいるとはたまげたな』

「私はそれより、バーべキューファイアに驚いた。本当にあのバーベキューファイアか?」


『何者だ?』

「有名人だよ、国際指名手配中の放火犯だ。私とはモノがちがう犯罪者だよ」


『ほほう、頼もしいものだな』

「……」


『クク、ニニコとシーカが気になるか?』

「べつに。どうでもいい」


『ははッ! ではどうする気だ?』

「封印とやらの設計をするさ。ドラゴンテイルの仕様書もソフトウェアも送ったし、裁判まですることもないしな」


『ドラゴンテイル? なんだそれは』

「あれだよ、私が魔王のために作った発明だ。それに正式な名前がついてな。おっと私のセンスじゃないぞ、名付けたのは魔王だ」


『ああ、あの板切れか。あんなゴミでも作ってみるものだな。おかげでお前は、魔王軍から腕利きの弁護団をつけてもらえるのだからな』

「ぬかせ。あれは私の作った新しき鎧(・・・・)だ。魔王も太鼓判(たいこばん)を押してくれるだろう」


『ぬかせ。あんなものを鎧に加えられてたまるものか』

「そのうちお前にも搭載してやる。覚悟しておけ」



挿絵(By みてみん)



 ガガッ!

 プリンターはようやく40枚の印刷を終えたらしい。ロドニーはすべてクリアファイルに放りこむと、またべつのファイルを印刷しはじめた。

 ガガガ。

 ふたたびプリンターが音を立てる。



『バスターよ。ひとつ聞きたいのだが』

「なんだ? クイズなら今度にしろ」

 

『クイズではない。追放者について聞きたい』

「……なんのことだ?」


『バスター、仮にお前がウソをついたとする。そのことが原因で、コミュニティを追放されたとしよう』

「おちょくってるのか! 仮にもなにも、いまの私そのものじゃないか!」


『そう言われたらそうだな。たしかにお前は詐欺をはたらいて大学を追放されたんだったな。フハハハ!』

「ふざけおって! それがどうした!」


 笑う独楽(ドグラ)

 怒るロドニー。



『で、大学側が戻ってきてほしいと言ってきたとしよう。もちろん万に一つもないだろうが、仮にだ』

「ふん、戻れるものなら願ったりだ。戻るに決まってるだろう……と言いたいところだが」


『なんだ?』

「戻らないだろうな……いまさらどのツラ下げて戻れるというのだ、こんなザマに落ちぶれて戻れるわけがない」


 ガガッ!

 プリンターが止まった。印刷が終わったらしい。

 ガガッ!

 ちがった、また動き出した。



『フルカワは嘘をついたために鎧を追放された。人体を再生する能力があると言ってな』

「な、なに!? できるのか、そ……そんなことが?」


『いや出来んかった。魔導士チャッカの右目を再生できると言い張って、結局できなかった。とんだ嘘つきだった。だから追放された』

「なんだそれは」


『だが魔王様は、寛大にも戻ることをお許しになった。そればかりか、こちらから迎えを出そうとまでされておられる』

「必要になったから呼び戻そうとしてるだけだろう。ちょっと待て、さっきの話はフルカワが戻りたがるかどうかという意味か? 鎧の考えなど私にわかるか」


『……』

「まあ、あんまり下手(したて)に出ても、フルカワとやらがつけあがる(・・・・・)んじゃないのか? あくまで和解するという態度で迎えにいくのがいいと思うぞ」



『……では質問を変える。お前はウソをついていない。それなのにコミュニティを追放された、としたらどうだ?』

「なんだって?」


『17世紀、とある男に会った。その男は当時禁断とされていた地動説を唱えて、異端審問にかけられた。そして職を失うハメになった』

「……それはまさか、ガリレオ・ガリレイじゃないだろうな」


『なんだ、知っておるのか』

「当たり前だ。ちょっと待て、会ったことがあるのかホントに」


『ある。話を戻すぞ、お前はウソをついていないのに、誰も信じてくれずに追放された。さあ、あとから戻ってきてほしいと言われてコミュニティに戻るか?』

「誰が戻るか。ふざけるな」


『そうだな、戻るわけがあるまいて。ガリレオも言っていたぞ。あとで真実に気づいても、誰が許してやるものかとな』

「ふん。ガリレオ・ガリレイとおなじ意見とは光栄だ。待て、さっきからなんの話をしている」



『……我には、フルカワが嘘をついているとはどうしても思えなかった。もしかして本当に人体の再生能力があったのではと、なんとなくな』

「……」


『ハハハ、だとしたらフルカワめ。追放した我らを、さぞ(うら)んでいような。ハッハッハ』

「……私はちっとも面白くないぞ」



挿絵(By みてみん)




 PLLLL!


 PLLLLL!

 PLLLL!



『電話だぞ、バスター』

「見ればわかる。黙ってろ」


 スマホを見て、ロドニーはチッと舌打ちした。

 ディスプレイに、母と表示されている。


「チッ。参ったな」

 顔をゆがめ、受話アイコンを押した。

 ピッ……

「あーもしもし。すまないがいま忙し………………ああ。いや、いま忙しいからかけなお…………いや、大丈夫。なんか用か?」


『ハハハ!』



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終身刑の魔女より

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いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
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