第240話 「デザート」
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「第8議題! ゴースト神父とその仲間をどうする!」
「キゥイフルーツと白餡をはさんだドラ焼きでございます」
いよいよデザート、ウェイトレスの最後の配膳だ。最後の最後に、見たことも聞いたこともないものを持って来やがった。
「なんだって? キゥイをはさんだ……ドラヤキ?」
「最後に正体不明の料理が来たな。これケーキか?」
「なんかアフガンで見た埋設地雷にそっくりだな」
「なんか白いものが挟んでありマース。気味が悪い食いものデースね」
おのおの、ドラヤキなる謎の食いものを口にする。ふんわり……白餡の甘さ、キゥイフルーツの酸味が合わさる。
なるほど、悪くない。
「さて、そろそろ会議を終わりまショウか」
「バカぬかせ、終わられてたまるか」
「え、神父の関係者が来てるの? なんでだよ、うっとうしい」
「さっき出てきた……なんだっけホレ。ニニコって娘が、メールで神父の死を知らせたらしいぞ。ご丁寧に魔王軍のことまで詳細にな」
「アイヤー、うっとうしい。そいつら一体なにしに来てるんだ?」
「ひとつに神父の死体の引き渡しを要求しているな」
「ぜんぜんOKデース。というか持って帰ってくれるなら助かりマース」
「めでたしめでたし」
「ゴホ」
「ふたつに、レインショットと魔王軍の関係について教えろと言うとる」
「……?」
「……へ?」
「……レインショット? 誰だそれ?」
ドラ焼き、もぐもぐ。
「いや……さあ?」
首をかしげるアル老人。
「レインショット? 誰それ?」
マオちゃん、もうドラ焼き2つめ。
もぐもぐ。
「あれ、誰も知らないの? しょうがないな、会議の前に調べといてくんなきゃ困るよ」
「待ってくだサーイ。レインショット……どこかで聞いたような気がしマース」
首をかしげるベルダン。
「うーん、思い出せまセーン。聞いたことあるような気がするんデースが」
「レインショット。2017年6月11日、シュマル湾の海上交易路が封鎖されたときに使った密輸業者の元締めです!」
ウェイトレス。
いきなりウェイトレス・リリーが割って入ってきた。
「今年の5月27日、レインショットは偽名で「軍艦かしはら」に偽装勤務していました。その後、たまたま同行していたバーベキューファイアとともにレインショットは逮捕されました」
たんたん。
無表情でたんたんと解説するリリー。
「ただし逮捕は失敗。ハルスタン海上警察の基地にて、レインショットは殺害されました。ちなみに殺害したのが、問題のルドルフ・ゴースト神父です」
「お茶をお持ちしました」
叫ばない。
ふつうに喋れるんじゃないか、リリー。
しかもレインショットのデータを説明してみせた。きっと会議でピックアップされそうな情報を、すべて暗記してきたのだろう。
優秀……焙じたての番茶をみんなに淹れて回る。
「なんなんだよ、お前は」
アル老人のあきれ顔。
「はい、お茶」
ドン!
祖父にだけ乱暴に茶を置く孫。そしてまた勝手に帰ってしまう。
「失礼いたします」
「もう、ここにいてもらったらどうだ? なかなか優秀じゃないか、お前の孫」
「本当にうちの部下と見合いをしまセーンか。気に入りマーシた」
「あげるから連れて帰ってくれ」
「よし決まりだ、ゴホ。安心してレインショットの話に戻れるな」
本人のいないところで、リリーの見合いの話が進む。
いや、じゃなくてレインショット!
「さっきシュマル湾の海上封鎖とか言わなかったか?」
「ってことはダド将軍がクーデター起こしたときか。あれのせいで原油高騰して大変だったな」
「いや待てよ、あの戦争と魔王軍とどういう関係あんの?」
「思い出しマーシた。私が民兵組織に武器を貸与したんデース、そのとき使った密輸業者の顔役が、たしかレインショットとかいう名前デーシた」
お茶、ズズズ。
香ばしい。
「え、密輸業者なんか使ったのか?」
「そうしないと間に合いまセーンでした。もちろん魔王様の承諾を得マーシたよ、ちなみに魔王様はそのとき小学生デーシたね」
「あのときは私も子供だった……Aカップしかなかった」
もぐもぐ。
ドラ焼き3個目のマオちゃん。
「いまはBカップ」
「なにもいまそんな話、ゴホ」
「え? じゃあそのレインショットは、いまも魔王軍の下請け?」
「とんでもナーイ。用済みの非合法組織なんかいつまでも抱えておけまセーン。ときどき非正規の活動に出資だけさせて、勝手に内ゲバ消滅するまで放置デース」
「アイヤー、放置したのかよ。ICPOによこしてくれればいいのに」
「それはいけまセーン。あの海域はマフィアだらけデーシたからね。トップ業者を逮捕しても、べつの業者が密輸事業に参入してくるだけデース」
「そりゃ困る。巨大シンジケート化されたら手に負えんしな」
「毒をもって毒を制すで、戦国化を防いだわけか……いや待て、ゴホゴホ。じゃあレインショットがいなくなったら、その海域の治安はどう変わるんだ?」
「するんじゃないの、戦国時代化」
「まあいいよ。とにかくそのレインショットは、ゴースト神父が殺したわけだ。なんかその……なんか知らないけど、殺したかったんだろうね」
ドラ焼き5個目のマオちゃん。
もぐもぐ。
「で、なに? その、神父の関係者たちはもしかして、魔王軍がレインショットの元締めみたいな勘違いしてるのかな」
「迷惑な、どうかしてる」
「ひょっとして、ゴースト神父の死まで我々のせいだと誤解されてるんじゃアーリませんか?」
「ゴッホ、それはないはずだ。神父がビルから転落死したとき、修道女のひとりがいっしょにいたそうだからな」
「そいつを聞いて安心した。無関係の神父殺害など疑われたらつまらんしな」
「ならその神父のお友達連中とかいうの、放っといてもいいんじゃないか?」
「いやマズいんだよ。なんか向こうの人数、1万人くらいいるらしい」
「3個師団じゃないんだぞ、しかも鎧のことも知ってる連中なんだろ?」
「適当にあしらうわけいかないな。かといって口封じするには多すぎる」
「どうしたもんか……」
「うーむ」
「うーむ……」
「とりあえずひとつめの要求は飲もう。ゴースト神父の死体を丁重に渡してやれば、そうそう敵意を持たれることはないだろう」
「ゴホ、レインショットのことも誤解だと納得してもらおう。実際、誤解なんだしな」
「OK、平和的なのがいちばんだ」
「ほかに条件とか出してやがんの?」
「みっつ、咲き銛を返還すること」
「ゴホァ! ふ、ふざけるな!」
「アホかと言いたいデース」
「なんだ返還って。ずうずうしい、鎧はすべてマオニャンのだぞ」
「むこうはそう思っとらん。むしろ自分たちの仲間だという認識らしい。仲間を返せと言ってきてる」
「ふざけすぎだろ」
「ふざけすぎデース」
「ふざけすぎだ。アイヤイヤ」
さすがの四天王も文句たらたら。
と!
と、ここでマオちゃんに天才的ひらめきが舞い降りた。
「うーん……そうだ、いいこと考えた。 “ 咲き銛 ” 自身に、どうしたいか決めさせよう」
マオちゃんの頭の火が揺らめく。
グッドアイディア!
……と言わんばかりに輝く炎。ピカー。
「我ながらいい考えだ。咲き銛が魔王軍にいたいと言うなら、魔王軍入り。ルディ神父の仲間と一緒にいたいと言うなら、彼らにあげちゃう。どうかな?」
「マオさん、いったいなに言ってんの」
「マオニャン、バカこくんじゃないよ」
「軍曹、ダメに決まってるでしょう」
「もう魔王様、黙っててくだサーイ」
否決。
1対4で否決。
だがマオちゃんは魔王様。ゆずらない。
「心配いらないよ、彼らの精神的支柱はゴースト神父だったんだろ? 神父が死んだいま、ましてやレインショット殺害の目的を果たした今や、彼らにそこまでの結束力はもうないんじゃないかな」
ゆずらない。
ドラ焼きはもう10個目。
「さらに言えば、咲き銛のノルマは666人の殺害だ。こんなのぜったい持て余すに決まってる。どうせ数年もしたら、私たちに返しに来るハメになるって」
自信満々のマオちゃん。
うしろにドンと置かれたドリンクバーに手を伸ばし、メロンソーダを湯呑にそそぐ。ジャブジャブ、シュワー。
「もしも咲き銛が行方不明になっちゃっても、焼き籠手と朽ち灯があれば探索は可能だし」
ゴクゴク。
プハー。
「それに正直、咲き銛いらないもん」




