第239話 「ハシアライ」
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「第7議題! じゃあ井氷鹿をどうする!」
「箸洗いのフカヒレスープでございます」
ウェイトレス。
はいはい、ウェイトレス。
去っていく彼女を、みんなは目で追う。
「待て。いまブロリーちゃん、なんて言ったんだ? 井氷鹿をどうするってなんだ?」
「ぶ、ブロリーだぁ?」
「リリーだ、ぜんぜんちがう」
「そう言えば井氷鹿は今どこにあるの? なんかコンビニのトラックの荷台に封印されてるんだろ」
「これ報告読んだとき目眩がしたぞ。いっしょに “ 穢卑面 ” と “ 咲き銛 ” と “ 勇者 ” も封印されてるんだってな」
「ゴホ。まるで詰め合わせじゃないか」
「パンドラの箱だな、ほんとに」
ディスプレイに映し出される、あの配送車。
トラとフォックスが封印に使った、あのコンビニの配送車が映し出された。
映像は続く。
配送車は大型の輸送ヘリに吊られ、空に舞い上がっている。大がかりだが、たしかに川から引き上げようにも、あの山中ではクレーンすら入れまい。
※ 第226話 「ロデオ」 参照。
「ゴホ。ちなみにだが、この輸送費用で8億ナラーかかった」
「ブー!」
コーラ吹きだすマオちゃん。
お金の話になったとたん、すごい反応だ。
「ゲッホ! は、は、8億!? そんなかかるの!?」
「言っときますが、まだまだこんなもんじゃないですよ」
「いまこのトラックって、どこにあんの?」
「第47魔王城の駐車場に置いてあるよ。しょうがないだろ、いちばん近い施設はあそこだけなんだ」
第47魔王城。
トラたちが大暴れして、いまは半壊中の魔王城だ。あ、いまモニターに写真が出た。なるほど、ボロボロになった魔王城の駐車場に、あの配送車が安置されている。
「あんなとこ置いてんのかよ、ゴホ」
「なんとかアレ、井氷鹿だけ取り出せない? ようするにその……トラックの荷台からイヒカだけ出す方法」
「ないだろ、そんなもん」
「いや、考えがある。こんなのどう?」
マオちゃんが身を乗り出し、ふたたびテーブルに手をつく。さっきまで描かれていたフルカワの図はいつのまに消えており、今度はまた別の図面が書き出された。
ズラズラズラ……
そこに書かれたのは、トラックの絵。
「トラックがあるじゃん。これをさらにスッポリさ、巨大なプールに沈めるわけよ」
なんか生き生きと説明するマオちゃん。
図面はさらに書き足される。
トラックの絵を、さらに大きな四角がぐるりと囲む。これがプールだろうか。
「巨大な封印のプールを作って、そこにトラックを沈めちゃうの。で、配送車の荷台を開く。当然、咲き銛や穢卑面、勇者も外に解放されるけど、ドッコイそこはまだ封印のなかだ」
「ふむ」
「アイヤ……アイヤ」
「なるほど。トラックをA封印、それを沈めるプールをB封印とすると……」
「A封印からB封印に鎧を取り出し、B封印のなかから井氷鹿を拾い集めると」
「そういうこと。巨大プールに泳ぎ出すパーツの中から、イヒカだけ拾い出すってことね」
えへん!
マオちゃんが胸をはる。
「もちろん巨大プールには、井氷鹿ブロックだけ正確に回収できる工夫をしておく。なんかこう……ロボットアームみたいなので1枚1枚集めるとか無理かな?」
「……待って、これいくらかかんの?」
「いくらもなにも、こんな巨大な封印は作れるもんなのか?」
「秘密裏にこんなの建造すんの、10億じゃきかないぞ」
「その前にどこに作るのコレ」
ざわざわ。
あまりにも非現実すぎる魔王案に、四天王の反応はニブい。
「なにこの反応……テンション低すぎない?」
ムカつくマオちゃん。
「400年前にアスカにプロポーズしたときもこうだった。無視されるんならまだいい……私と結婚した場合のデメリットを、グチグチグチグチ1時間も……うう、うううう!」
目に涙を浮かべるマオちゃん。
嗚咽……いったいなんの話だ。
「なんの話ですか軍曹、泣かないでください」
「待って、整理しよう。①巨大封印施設を作る」
「②そこにトラックを沈めて、イヒカを取り出す」
「③取り出した井氷鹿を誰かに憑依させる」
「④憑依させたらイヒカで鎧のエネルギーを作らせる……ゴホン!」
「もう私、祈りマース。神様……」
「⑤その間、シーカにフルカワ(アモロ本体)を探させる。完全体になれば、アモロの機能も元に戻るだろう」
「戻るんだろうね、マオさん」
「炎よ! 邪悪を打ち砕け!」
ゴオオオオオオオ!
マオちゃんの右手に、そして左手に、炎がうずまく。逆回転する2つの炎が合流し、竜巻きとなって4老人を撃ち抜いた。
「プロペラバーニング・スクリュー!」
ドリルのごとき火炎砲に飲みこまれた四天王。
ゴオオオオオオオオ!!
もちろん、誰もカスリ傷ひとつ負っていない。また話をゴマかすギャグ……だが、あまりのしつこさに、4老はとうとう怒った。
「やめてくれっての、マオニャン!」
「エネルギーを無駄遣いしないでくだサーイ!」
「ゴッホ! どっちが邪悪だ、ゴホゴホ!」
「もういい、もういい……病気になりそうだ!」
「……しゅん」
完全にスベったことを察し、座りなおすマオちゃん。ズズズ……すっかり冷めたフカヒレスープをすする。
「……ズーズ、ズズー」
ちょっとベソをかいている。
マオちゃん、魔王なのにかわいそう。
対して、大人の四天王。
「ゴホ、とにかくひとつずつ進展させるしかあるまい」
「神様、お助けくだサーイ」
「神様で思い出した。井氷鹿やら穢卑面やら勇者やらといっしょにトラックに封印されてるとかいう……ルドルフ・ゴースト神父だったか」
「なんか、そいつの関係者ってのが来てるぞ。50人くらい」
意外な事実も明かされる。
どうやらルディの教会の人間たちも、魔王軍に接触してきてるらしい。
……え?
ええ……
シスターたち、来てるの?
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