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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第26章「余命いくばくもないソルジャーを焼き捨てる戦記へ」
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第238話 「ハッスン」




挿絵(By みてみん)




挿絵(By みてみん)




挿絵(By みてみん)




「第6議題! どうしてイヒカを使わないのか! イヒカで氷を作り続ければ、エネルギーを作れるのに!」

 ウェイトレスが戻ってきた。 

 ドリンクバーを持ってきてから、2分も経っていない。


「八寸でございます。トマトにモッツァレラチーズを乗せて焼きました。手前はスパゲティボロネーゼでございます」

 いいにおい。

 八寸(はっすん)とは、文字どおり24センチ×24センチの、すなわち大きさ8(すん)の盆に盛られた料理だ。


「なんでイヒカ使わないんです? エネルギーは井氷鹿(イヒカ)があれば無限に作れるんだから、減った以上に増やせばいいんですよ」

 ウェイトレス無双。

 しゃべるしゃべる。



「下がらんかリリー! バカモン!」

 アル老が怒鳴(どな)る。怒りの絶頂から一転、顔を青くしてガタンとテーブルに手をつく。

「ウッ、血圧が……」


「……失礼しまーす」 

 祖父に怒られた(リリー)が、ふてくされたように帰っていく。おじいちゃんの心配もせずに身勝手なものだ。

 

 静まり返るホール。

 八寸に盛られた料理のいいにおいだけが際立(きわだ)つ。


「アイヤー」

「すまん、ウチの孫が……うう!」

「いやいいよ、何回言うんだ。血圧大丈夫か?」

「急に話に入ってきて驚いたデース。しかし私の言いたいことをぜんぶ言ってくれマーシた」


「ああ、いい視点だ。よくわかってるじゃないか」

「そうなんだよ、ゴホ。井氷鹿(イヒカ)がいればエネルギーの枯渇(こかつ)問題は回避できるぞ」



 活気づく昼食会。

 なるほど、井氷鹿(イヒカ)の能力は結晶化だ。もっと詳細に言えば、物体の熱エネルギーを奪い凍結する能力。そのとき吸収した熱力こそ鎧を動かすエネルギーであり、すなわち井氷鹿(イヒカ)は鎧のガソリンを作る器官と言っていい。


 たしかに魔王(カブト)が炎を垂れ流そうと、井氷鹿(イヒカ)が氷を作り続ければエネルギーを足しつづけることが出来る。

 出来るが―――



「問題は井氷鹿(イヒカ)の憑依先が決まってないんだよね」

 ズルズル。

 スパゲティをすするマオちゃん。


「魔王様、はしたないデースよ! 音を立ててパスタをすするんじゃありまセーン!」

「なんでアジアンって麺を静かに食えないんだ?」

「アイヤー、一緒にするな。日本人だけだ」

「待てよ、なんの話だ。井氷鹿(イヒカ)の候補者の話しようぜ」


 ディスプレイが切り替わる。

 リモコンを操作したのは明林(メイリン)老だ。


 ……画面に3人の人間が映る。



  ①ハムハム・クックポンポン


  ②ニニコ・スプリングチケット


  ③トラブリック・オールデイズ



「ハムハム……なんだこの名前は。まあいい、このハムハム君しかないだろ」

「賛成だ。もともと井氷鹿(イヒカ)に呪われていたのは彼だしな」


「いまはウチの系列の病院で治療中だ。集中治療室(I C U)にいるが、命に別状はない」

「なら彼がいいと思いマース。正直ここまで魔王軍の内情を知られた以上、もう彼を家に帰すわけにもいきまセーン」


井氷鹿(イヒカ)を押し付けるには最適だな、ゴホ」

「ただ問題が……井氷鹿(イヒカ)がアレだ。バネみたく変形してるそうだぞ」

「これもアレだろ。マオニャンみたいに、鎧がバージョンアップしたんだろ。穢卑面(エヒメ)のせいで」


 じろり。

 じろり。

 みんなの視線が、マオちゃんに……いや、マオちゃんの魔王(カブト)に集まる。


「ズルズル、おいしいパスタだね」

 すすりまくるマオちゃん。

「ズルズルズル!」



「このハムハムに井氷鹿(イヒカ)を呪わせるとして、問題点とかあるか?」

「ゴホ。彼が井氷鹿(イヒカ)に呪われるとなると、当たり前だが2回目の憑依になるわけだよな」

「焼き籠手みたく、2回呪われることで “ 探 索 ” できるようになったりしないかな?」

「発動するのが探索ならいいが、メチャクチャ異常な能力が発動したりしてな」

 不安。

 みんな食事どころじゃない。


「マオさん、どう思うかね?」

「ごめん、マジで想像もつかない。ズルズル」


「……オーケー。第二候補と第三候補いこう」

「トラブリック」

「ニニコ」

「この2人のどっちかに井氷鹿(イヒカ)を呪わせるのもアリだよな。問題はこいつら、別の呪いにかかってるんだよ」


「アイヤー」

「アイヤーやめろ」


「とりあえずニニコ。彼女の呪いは “ ()白闇(しろやみ) ” だろう。さっさとノルマを完了させて、呪いを解いちまおうよ」

「ゴホ、そうだな。真っ白闇と井氷鹿(イヒカ)の両方に呪われさせるのはさすがに怖いぞ」

「たしか12種類のなんじゃかんじゃ(・・・・・・・・)を吸収するのがノルマだっけ?」

「資料によれば、あとふたつデーシたよね、魔王様」


「うん。()白闇(しろやみ)の呪いを解くのに、あと足りないのは2色だね。(ミドリ)(むらさき)だったかな。緑がイバラで、紫がイソジンだよ」



挿絵(By みてみん)




「なんだ、簡単じゃないか。はやく()白闇(しろやみ)の呪いを解かせよう」

「そうデース。そのあとすぐに、彼女に井氷鹿(イヒカ)を憑依させまショウ」

 

 ニニコ案に、イブラハムとベルダンの2票が入る。

 だが。



「待ってくれ、俺はトラブリックに井氷鹿(イヒカ)を呪わせるのがベストだと思ってんだが」

 明林(メイリン)

 明林はトラに1票を入れる。

「考えてもみてくれ。トラブリックは足枷に呪われてる。たとえ井氷鹿(イヒカ)に呪われても、逃がす恐れは皆無だろう」


「なるほど」

「まあたしかに……これ以上、行方不明の鎧が増えたら困るしな」

「うーん、(なや)ましいな」



挿絵(By みてみん)



 うーん……

 

  うーん…… 


   会議が煮詰(につ)まる。


 

「どいつもこいつも一長一短だね」

井氷鹿(イヒカ)に関してはまだ考える時間はある。憑依先については、じっくり検討しよう」

「いちばん魔王軍に協力的なやつは誰か、面接しようよ」



 ……勝手な連中―――


 本人らの意思すら確認せずにイヒカ計画を進めていく。


 なにが憑依先を「検討する」だ。

 もはやハムハム、トラ、ニニコの中から選ぶことは決定しているではないか。


 それよりも。



 それよりも、()白闇(しろやみ)の残るノルマ。


 緑がイバラ。

 ムラサキが、イソジン。


 簡単に答えを明かしてしまう。

 ニニコが半生をかけて探求する謎を、いとも簡単にタネ明かしするマオちゃん。そもそも知っているのなら、最初からニニコに教えてあげればよかったものを。

 

 彼女のこういうところが、本当に魔王だ。



 と、ベルダンが手を()げる。


「あー……ちなみにデースが」

「なに?」

「どうした?」


「このなかに、井氷鹿(イヒカ)に呪われてもいいという人はいまセンか? 念のため」

「……」

「……ウチの孫でよければ」

「マオニャン、どう?」



「ぜったいヤダ!」

 叫ぶ!

「あんなんに呪われたら(おもて)歩けないじゃん、カッコ悪い……ハッ! いやそうじゃなくて」


「……」

「……」

「ゴホ」

「……」

 みんなのシラけた目。


「いや、ちがう。ちゃうちゃう」

 あわてて弁解するマオちゃん。

「ホラ。私のいまの体って、アスカの子孫なわけじゃん? 私の総魔力量、1200ミオしかないしさ。いますでに魔王とアモロに呪われて、MPカッツカツだし。井氷鹿(イヒカ)とか体積たぶん50リットルくらいあるじゃん? 魔力5000ミオ以上の人間じゃなきゃ無理だし?」


 ペラペラ。

 ふにゃふにゃふにゃ。

 ペラペラ。


 マオちゃんによる、「残念ながら(・・・・・)イヒカに呪われることが出来ない弁明」は10分も続いた。



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終身刑の魔女より

 ↑

いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



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