第236話 「ニモノ」
「第4議題、アモロ本体について!」
「煮物椀でございます。マッシュルームと茄子のホワイトソース煮です」
まーたあのウェイトレス。
叫びつつ配膳をするが、アル老人……つまり祖父の料理を出したとき、彼の前でぽつりと言った。
「次に冗談でも死ぬとか言ったら、おばあちゃんに言うからね」
すごい目で祖父をにらむや、孫娘はまた会議室から出て行った。
なにか言い返したげなアル老人だったが、ほかの3老がニヤニヤと見ているのに気づき、なんとも気恥ずかしそうにモジモジしている。
80歳くらいになって孫に怒られるとは情けない。
「なんとも……いや、ああいう孫でな。連れてきたのは失敗だった」
もじもじ。
「恥ずかしがるなよ、照れることないだろう」
「なかなか面白い子デースね。どうデースか、うちの部下と見合いさせまセーンか?」
「ちょっともう一回呼べよ、ていうかもうここに座らせとけ」
ジジイをからかうジジイ3人。
その様子を見たマオちゃんが怒る。
「みんな真面目にやってよ! 会議中なのわかってる!?」
怒る。
いつのまにか泣き止んでる……
やれやれとあきれた表情を並べる老人たち。
「感情の起伏がすごすぎるよ、マオニャン」
「昔からそういうとこあったが、女の子になってから一段とひどい」
「なつかしいな、マオさんとの付き合いももう50年になるのか」
「私はいまでもその時のノリで軍曹と呼んでしまう。治らんもんだな、クセというのは」
「私がこの体に憑依してから、まだ9年だしね。あれ、もうそんなになるんだっけ! 早いなあ」
しみじみ。
「このナスの煮物おいしい。隠し味にクルミが入ってるね」
「うむ、これはなかなか……って違うでショーウ」
ノリツッコミのベルダン老。
「あなたとアモロ本体について話すのはこれが初めてデース。くわしく教えてくだサーイ」
「詳しくって言われてもねえ、フルカワについて……なにから話せばいいのか。うーん……」
困った顔のマオちゃん。
「いやね? フルカワのやつ、能力はすごいのよ。欠損した肉体を再生する機能があるらしいの」
「ウソつけ」
「ウソデース」
「ウソだな」
「ウソですね」
「どんだけ私、信用無いんだ!」
怒るマオちゃん。
コーラを一気飲み、グビィ!
「ゲーップ!」
「はしたないな、ゴホ。信用とかそういう話じゃないよ、マオさん」
「本当にそんなことできるなら、もっと早くにフルカワを探してるはずだ」
「いや、そもそもフルカワって名前はなに? アモロ本体じゃだめなの?」
「言われてみれば変デースね。わざわざ別称を使う意味がわかりまセーン」
やいのやいの。
「そんなこと私にもわかんないよ。私たちを作った「魔導士チャッカ」がそう呼んでたんだから」
コーラをグビッ。
ゲップ。
「魔導士チャッカが呼んでたんだよ、アモロの本体を「フルカワ」って。ちなみにこんな感じ」
凹んだテーブルに手をつくマオちゃん。
すると……
ズズズ!
テーブルにアモロの図面が現われた。魔王の能力『 念写 』だ。
黒線がズラズラと走り、アモロの全体像が書き出される。図に注釈されるように、能力やノルマも文字で書き足された。
「ほう、これがフルカワか」
「漢字で書くと……なるほど。腐る皮ね」
浮き出た図面には、おなじみ3本指のアモロ。これが付属品であり、そのアモロ3本を束ねるキーホルダーみたいな部品。
これがフルカワのようだ。
「なんかふつうだな、ゴホ」
「こんな小さいの探すの無理デース」
「待て待て。マオニャン、さっきなんか妙なこと言わなかった?」
「機能があるらしいとか。らしいってなんですか軍曹」
「見たことないんだよ、実際にフルカワが人体の再生をしてるとこ」
グビグビ。
「フルカワ本人は出来ると言い張ってたけど、実際にやってみせてくれたことがなかった。怒った魔導士チャッカが、永久に追放しちゃったんだ」
「ほ、本人?」
「フルカワは本当におしゃべりだったなー。あいつが追放されたときは正直ホッとしたよ、マジでウザかったし」
「アイヤーアイヤー」
「なんで2回言う」
「……要するに、なに? そのフルカワには再生能力はあるの? 無いの?」
「だからわかんないって! やってるの見たことないんだもん。もしかしたら出来ると言ってるだけで、そんな能力なかったのかもしれない」
ゲップ。
「アイヤー、もう最悪デース」
「アイヤー。ゴホ、頭が痛くなってきた」
「アイヤー……追放というか廃棄じゃない?」
「俺のマネすんな、バカにしてんのか!」
「57年前はほんっと偶然再会したもんでさ……ちょっと、アイヤアイヤうるさいな、いいから聞いてよ!」
怒るマオちゃん。
コーラぜんぶゴクゴク一気飲み。
「どこまで話したっけ? あ、57年前はほんっと偶然再会したもんで、不意打ちで私殺されちゃったし。1600年前に追放したこと根に持ってたのかなアイツ」
「持つでしょうね、軍曹」
「持つだろうな、ゴホ」
「持つに決まってマース」
「だとしたらマオニャン、フルカワに会うの気まずくないかい?」
「めっちゃ気まずい。だけど探さないわけにいかないしなー」
ゲップ。
ゲーップ。
「アモロが機能停止してしまったいま、フルカワを探し出してアモロと合体させるしかない。完全体に戻すしかない。そしたらアモロは機能回復するはずだ」
「……完全体ね」
「それってなんて呼べばいいんだ。アモロか? フルカワか?」
「フルカワアモロでいいんじゃない?」
「しかし探すって……マオさん、手はあるのか?」
「ある、まさに手が。ひとつは朽ち灯、ひとつは焼き籠手。フルカワを探すにはもうこれしかない」
マオちゃんはどこから出したのか、マウスを握っている。スイスイと操作するや、ディスプレイの画面が切り替わった。
「見てくれ、この2人だ」
画面に映し出される男女。
シーカ。
そしてフォックス。
もうイヤな予感しかしない。
“ 探索 ” させる気満々―――




