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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第26章「余命いくばくもないソルジャーを焼き捨てる戦記へ」
235/249

第235話 「ヤキモノ」





挿絵(By みてみん)




「第3議題! 機能停止した鎧!」

 またさっきのウェイトレスだ。

 なんのアピールなのか叫ぶこと叫ぶこと。

「ハモの照り焼きでございます。マツタケの網焼きを()えました」


 叫びながら料理を並べるウェイトレス。忍者のごとく音もなく現れ、なにごともなかったかのように帰って行った。(かみなり)みたいな女だ。


「頼むから叫ぶのやめてくれまセーンかね。心臓が止まるかと思いマーシた」

「すまん、ウチの孫がすまん」

「なんの話か忘れそうになる。機能停止した鎧は3つでいいんだよな?」

「ああ。煙羅煙羅、水な義肢、アモロの3つだ。図にしてみたぞ、みんなテレビを見てくれ」


 明林(メイリン)老がリモコンを操作すると、うしろのモニターが切り替わった。超大型のディスプレイを「テレビ」と呼ぶところなんかさすがジジイだ。

 

 画面に3つの鎧が映し出された。


 そして、それぞれから矢印が伸びる。




□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ 


 パーツ欠損した鎧がフリーズしたんよ!


 「鎧の名称」→「欠損したパーツの所在」

  


 ①煙羅煙羅 → ニニコ・スプリングチケット


 ②水な義肢 → バーベキューファイア

 ②水な義肢 → トラブリック・オールデイズ


 ③アモロ  → 行方不明


□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ 






挿絵(By みてみん)




「ゴホ。この3つに共通してることはわかるな、すべてパーツが欠損している鎧だ」

「①の煙羅煙羅(えんらえんら)からいきまショウ。とりあえず本体はあそこで転がってマースけど」

「デカすぎる、どうなってんだ。なんでサイズまで変わるんだよ」


 ホールの端っこに、デーンと鎮座する煙羅煙羅(えんらえんら)。とりあえず煙羅玉(えんらだま)とでも呼ぼうか。

 直径1メートルの煙羅玉……不気味でたまらない。

 

「アモロは大きさ変わってないよ。ほらほら」

 魔王(カブト)の後頭部からはみ出す三本指(アモロ)をみんなに見せるマオちゃん。


「ほらほらじゃないよ、マオニャン。アモロがフリーズしたのがいちばんヤバいんだから」

「いいから続けよう。なんか矢印引っぱってるのはアレか? それぞれの欠損したパーツの所在と書いてあるな」


「まず煙羅煙羅……あそこの丸いのね。欠損したのは、ネジみたいなパーツだそうだ」

「そのネジをこの娘が食ったらしい。なんでも “ ()白闇(しろやみ) ” の被呪者らしいな」


「ゴホ!? く、食ったって?」

「そのままの意味デース。ふつうに食べて、いまは真っ白闇に取りこまれてるそうデース」

「……持病が悪化しそうだ」

「次行こう。なんだっけ」


 頭を抱える4人。

 ディスプレイは②の「水な義肢」にズームする。


「次は “ 水な義肢 ” だな」

「マオニャンの椅子ね。アイヤー、放火魔バーベキューファイアときたか」

 

 画面に映し出される放火魔(フォックス)とトラ。ふたりとも人相の悪いこと悪いこと……


「この2人が穢卑面(エヒメ)を倒したそうだな。そんなに強いのか、こいつら」

「穢卑面だけじゃない。勇者、()(もり)井氷鹿(イヒカ)をまとめて封印したのもこいつらだ」


「だがいい知らせもありマース。ニニコ、トラブリック、バーベキューファイアの3名は、いまウチの城で確保していマース」

「よく捕まえれたな、ゴホ。ならさっさと本題に入ろう」

「つぎ③番。アモロ」

「矢印の意味あるのか? 行方不明って」

 

 すっかりハモとマツタケを平らげた老人たちが、わいのわいのとディスプレイを指さし(しゃべ)りはじめた。


「アモロの機能停止は……痛いなあ」

「こんなことになるんならもっと前から探すべきだったよなあ、アモロの本体」

「はあ……」

「アイヤー……」


 

「なによ! みんな当てつけがましい!」

 怒るマオちゃん。

 ワーワー!

「しょうがないじゃん! 57年前に封印し損なったときは、私死んじゃったんだよ? あれっきりどこ行ったかわかんなくなっちゃったし」


「スネないでくださいよ、軍曹」

「議題の順番がおかしかったな。アモロの話からすべきだった」

「マオさん、本当にアモロは使えない感じですか。それは……ヤバいですな」


「……うん」

 マオちゃんの表情が(くも)る。視線をみんなから()らしはしないが、ひどく憂鬱そうな顔だ。

「ごめん本当に。本当にアモロ使えないんだ。だからみんなの病気の進行を止めれなくなっちゃった」


 

「なんてことでショウか……」

「いま、アモロの医療ケアを受けている者は何人いるんだっけ?」

「数万人くらいいるだろ」

「じゃあ私たちを入れて、数万と4人か」

 ボヤくジジイたち。


「65万6081人。忘れるわけない、65万6081人だよ」

 記憶力のいいマオちゃん。


「魔王様……私の白血病の進行も、もう抑えてもらえまセーンか」

 ベルダンは微笑(ほほえ)む。

 ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ困った顔を浮かべながら尋ねた。


「ごめん、いまのままじゃ無理」

 謝るマオちゃん。

「ごめんよ。みんなにかけたアモロの病気停止パワー(・・・・・・・)って、あとどんくらいで切れるんだっけ?」



「ゴホ、俺はあと半年ってとこかな。前に肺ガンの進行を止めてもらったのが3月の始めだった気がする」

「俺も3月だったっけな。まあ30年も寿命が延びたんだ、そろそろ年貢(ねんぐ)の納めどきかもな」

「まったくデース、むしろ私たちは長生きしすぎマーシたよ」

「これが最後の仕事になるだろうな。65万6千……何人のためにも、アモロの本体を探さねば」


 達観。

 もう死を受け入れている四天王。







挿絵(By みてみん)





「俺たちの病気って、やっぱアレが原因だったのかな? ほら……あの……劣化ウラン弾? あれの放射線が原因だったのかな?」

「いや、私は湾岸戦争は参加してないから知らない。私の病気はたぶん、アフガンでソ連邦が使ってた化学兵器だろう」

「あれってやっぱり毒だったのかな。なんか煙みたいなの飛行機から散布してたよな」

「そりゃ鳥とか虫とか死にまくってたし、毒だったんでショー」


 雑談。

 恐ろしい話を、どこか懐かしそうに語る老人たち。


「たしか魔王様がいま持ってるアモロは、付属品なのデーシたね」

「そんで本体のほうは1600年も行方不明か」

「本体のほう、なんて言ったっけ?」

「たしか……フルパワー(・・・・・)じゃなかったか? ちがうか」


「ちがうだろ、フル……フル……ああ、だめだ。なんでこんなに名前を忘れるんだ」

「私たちがくたばる寸前のジジイだからデース」

「そりゃいい、ゴホ。なんなら全員でひとつの墓に入るか」

「メンツもそろってるし、麻雀セットも墓に入れてほしいね」


 ハハハ。

 ハハハハハ!

 はっはっは。

 



「フルカワは必ず見つける、半年以内に必ずだ!」


  ズドォン!!

   

「アモロ本体は必ず見つける! 必ず見つける!」


 すさまじい音、そして衝撃だった。女子高生の……いや人間ではありえない拳力を叩きこまれたテーブルは大きく凹んでしまった。

 四天王は(ひる)みもしない。

 しかし4人の顔からは笑みが消えていた。

 

 魔王さまの悪いクセ。


 見つけだせ、と命ずればいいのに。

 見つけ()とか言う。

 ……なんでも自分でやろうとする、魔王様の悪いクセ。


「見つけるんだ見つけるんだワー!」

 テーブルに突っ()して泣き始めた。


「オーウ、また始まりマーシた」

「マオさん、女の子になってからホントに喜怒哀楽が激しくなったな」

「魔王様がそれじゃ困りますよ、軍曹」

「アイヤー……補聴器の予備はもうないぞ」


「わーんわんわん! ぐおおおお!」

 もう(うな)り声みたいな泣きかた。


「魔王様、我々なんだってしますから泣き止んでくだサーイ」

「もう死ぬなんて冗談言わないから、ゴホゴホ」

「フルカワ、全力で探しましょう。ね?」


「ぐおおおおん! あにゃーん!」




挿絵(By みてみん)



 マオちゃんはまだ泣いている。落ち着くまでまだしばらくかかりそうだ。だからその間に、アモロのおさらいといこう。



ひとつ、アモロは65万6081人の緩和治療に使われていた。


ふたつ、アモロは機能停止し、それができなくなった。


みっつ、アモロもパーツが欠損している状態だった。


よっつ、行方不明のアモロ本体フルカワを探すのだ、あにゃーん!





挿絵(By みてみん)




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終身刑の魔女より

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いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
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