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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第26章「余命いくばくもないソルジャーを焼き捨てる戦記へ」
234/249

第234話 「ワンモノ」




挿絵(By みてみん)



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


※※※※※※※※※



※※※※




「う、うううう。グスングスン」

 やっと泣き止んだマオちゃん。

 もうたぶん6リットルくらい涙を流したはず、死んでもおかしくない脱水量だ。

「ぐすん、みんなありがとう。聞いてもらって少しだけ気持ちが軽くなったよ。なんか体も軽くなった気分だ」


 ……気分の問題ではなく、実際に体重が減っているだろう。くりかえすが死んでもおかしくない脱水だった。


 おなじくゲッソリした様子の老人たち。

「予備の補聴器持ってきてよかった。ああ俺も歳をとった」

「ゴホ……結局、マオさんの頭の火を止める話ってどこまで進んだんだっけか?」

「なにひとつ進んでまセーン。腹が減りマーシた」

「そういやまだ1品目だったな。先が思いやられる」


 なんだか炊き込みご飯を食べたのが、遠い昔のようだ。


 と、そこへ!



「第2議題! カブトの形が変わってる!」

椀物(わんもの)です。(カモ)のミートローフを和風だしで炊き合わせました」



挿絵(By みてみん)



 さっきのウェイトレスが第2議題とか叫びながら、美味そうなものを持って来た。いいタイミングだ。

 どうやら和洋の前菜をミックスさせたような逸品(イッピン)らしい。配膳し終わるや、ふたたびウェイトレスはふつうに去って行った。またマオちゃんを含む5人だけが残された。



「オウ、美味そうデスね。鴨なんて久しぶりデース」

「どうでもいいが、さっきからあのウェイトレスはなんなんだ?」

「スマン、うちの孫だ。ウェイター(けん)、議事進行役に連れてきた」

「あれが進行……? いやいい、食おう。ゴホ、いいにおいだな」


 お椀のフタが開かれるや、(かぐわ)しいにおいが立ちのぼる。ローストした鴨肉の中心に穴を空け、そこに鴨のミートローフを詰めてある。なんともぜいたくな料理だ。

 

「それよりマオニャン、いい加減に答えてよ。なんでカブトの形が変わってるの?」

 明林(メイリン)老人がジロジロと魔王(カブト)をにらむ。

 どうやら彼はマオちゃんを “ マオニャン ” と呼んでいるらしい。



「それさー、なにもかも穢卑面(エヒメ)のせいなわけ!」


 対して、マオちゃんの態度はひどい。

 椅子をガタガタ揺らしたり、懐石料理なのにコーラを飲んでたり。今までのマオちゃんは、なんのかんの魔王のミステリアスさ(・・・・・・・)みたいなのがあったが、急にふつうの女の子になってしまった。


 どうやらさんざん泣いて落ち着いたからみたいだ。それに旧知の友達4人……と言っても肉体的にははるかに年配の相手だが、それでも心を許せる相手と同席しているからだろうか。なんというか、祖父やおじさんに甘えているような態度。


 どうでもいいがマオちゃんの座るイスは、ただのイスじゃない。あとで説明しよう。とにかくただのイスじゃない。

 ていうか椅子じゃない。


「穢卑面のせいだよ、穢卑面が勇者を左手につけちゃったから。まったく前代未聞だよ、鎧の定位置を誤るなんてバカもいいとこだ。そのせいでなんか魔力の流れ(・・・・・)がおかしくなって、魔王(わたし)の形まで変わっちゃったわけ!」

 コーラをグビグビ。

 鴨のミートローフをパクパク。



「誤るというか、このガイコツ。わざと左右逆に呪われてないか?」

「俺にもそう見える。ほんとうに薄気味悪いな、こいつ」



挿絵(By みてみん)



 マオちゃんのうしろには、巨大なディスプレイが用意されている。そこに映るのは、魔王城の監視カメラの映像だろう。画面いっぱいに映し出された穢卑面(エヒメ)の左手には、たしかに勇者が装備されている。

 しかも背景は火の海―――


 どうやら魔王城の火災にまぎれこんで、勇者と井氷鹿(イヒカ)を盗み出した映像のようだ。

 マオちゃんと老人たちはそれを(なが)め、一様にうなる(・・・)


「見れば見るほど気色悪い仮面だな。これで被呪者本人が死んでるだから、モノホンのゾンビだ」

「しかしやられマーシたね。ほんの5分のあいだに侵入して、誰にも見つからずに逃げるとは……遠視の能力も(あなど)れないデース」


「ゴホ。仮にわざと左右逆に勇者を憑依したのなら、目的はなんだろうな? なにか意味があるのか?」

「さあ……オシャレのつもりじゃない? 奇抜(きばつ)なオシャレ」

 もぐもぐ。


「気持ちはわかる。俺も昔、軍帽を逆向きにかぶってみたことある。上官にタコ殴りにされたな」

「気持ちはわかりマース。私も昔、財布にチェーンとかつけてマーシタ」

「気持ちはわかる、ゴホ。俺も昔、スニーカーの紐だけ左右ちがう色にしてた。カッコいいと思ってたんだろうな」



「黒歴史大会をやめてくれ! (あやま)ちのオシャレの思い出なんかどうでもいいだろう!」

 怒るアル老人。

「軍曹。勇者だの左手だの、もっと科学的な説明をしてください。いったいあなたたちになにが起こってるんですか」


「えー、科学的って言われても。なんか鎧全体にバグが発生したっぽいの。フリーズしたのもあるし、魔王(わたし)みたく形が変わっちゃったのもあるし」

 はー、やれやれ。

「あ、そうだったそうだった! 私のほかにも変形してるのいるんだった、不幸中の幸いだよ」



「よけいマズいから! ゴッホ!」 

「聞くところによると、井氷鹿(イヒカ)も変形したそうだぞ」


「アイヤー、なんちゅうこった。そもそもバグで変形するなんてあるのか? いや、実際に変形してるけど」

「どうも変形というのは語弊(ごへい)がアーリませんか。なんかバージョンアップに近いように思いマース」



「バージョンアップ魔王、ドヤァ」

 自分で言うマオちゃん。



「ゴホ、あのね」

「バージョンアップどころか、機能停止した鎧もあるようだが」

煙羅煙羅(えんらえんら)とか言ったな。あそこの(・・・・)ボールみたいなやつだろ」

「うわもうジャマくさいな……」


 広いダイニングの片すみに目をやる4人。そこには1メートルほどの巨大な球があった。


 煙羅煙羅だ。

 どうでもいいことなので今まで紹介しなかったが、最初からここにあった。もちろん魔王軍によって持ちこまれたからだ。

 そしてもうひとつ……


「軍曹がいま座ってるイスもそうでしょ? ()義肢(ぎし)でしたっけ?」


「うん。めっちゃ座りにくい」

 ギッシギッシ。

 乱暴にイスを(きし)ませてみせるマオちゃん。数十枚の(いた)が球状に丸まった物体。明らかにイスじゃない。

 

 ……なんてことだ。

 ()義肢(ぎし)ではないか。


 マオちゃんが腰かけるのは、うねりくねった巨大ムカデみたいなオブジェ。奇怪な形のベンチかと思ったら、機能停止した「()義肢(ぎし)」だ。

 マオちゃんのお尻に敷かれて、水な義肢はどんな気持ちだろう。


「その椅子、鎧だったんデースか。まーた変わったデザインの家具買ったのか思いマーシた」

「完全に固まっとるみたいだな。まあ、水な義肢はいまどうでもいい」

「ああ、その通り。いまは水な義肢も煙羅煙羅もどうでもいい」

「アモロだよ……どうすんの?」


 ジロ。

 ジロジロ。

 マオちゃんの魔王(カブト)に視線が集まる。いや問題はカブトのほうではなく、そこに隠された3本指のアイテム。

 

 アモロもまた、機能停止してしまっている。


 4人の注目が集まるなか、マオちゃんは―――




「次のお料理出してちょんまげ」

 

 はぐらかす。

 



挿絵(By みてみん)




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終身刑の魔女より

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いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



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