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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第26章「余命いくばくもないソルジャーを焼き捨てる戦記へ」
232/249

第232話 「カイセキ」





挿絵(By みてみん)




挿絵(By みてみん)




挿絵(By みてみん)





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 ひどい。

 ひどいひどいひどい。


 もう描写とかセリフとかいいから、みんなの状況を列挙していく。


 まず魔王城の襲撃が6月8日の昼だった。

 すなわちニニコとシーカが、マオちゃん誘拐に失敗したのも8日。

 トラとフォックスが魔王軍に捕まったのが、9日の早朝。


 いまは10日の正午である。


 

 トラとフォックスは拘束された。

 いまは魔王軍の管理する病院にいる。それも鎮静剤をどっぷり注射されてだ。したがってもう抵抗など出来ない。


 シーカとニニコはふつうに気絶していたので、トラ達とはべつの病院に搬送された。その日のうちにふたりともケガの縫合手術を受け、いまは魔王軍七色隊(ハワードの隊)の監視下にある。

 

 車から転落したジェニファーは、ひどい重体だった。だが奇跡的に致命傷には至らずにすんだ。精密検査を受けたが、脳や臓器に損傷は見られなかったらしい。だが全治5カ月。



 ハムハムは死んだ。

 ……かと思われたが、なんとか一命をとりとめた。撃たれた右足首は切除するしかなかった。でも命は助かった。

 いまはトラ達とべつの病院にいるが、集中治療室から当分出られそうもない。

 


 そしてアイテムたち。


 巨大ボールになった煙羅煙羅(えんらえんら)は、まったく動かなくなってしまった。意識まで失っているのかどうかはわからないが、なんにも喋らず、なんにも反応しない。

 まさに、物。

 ただの置物になってしまった。


 置物はもうひとつ。

 ()義肢(ぎし)もだ。

 メチャクチャになった魔王城の廊下で、水な義肢は彫刻のように固まっていた。巨大な両手を丸めこみ、小さくまとまった姿はまるで……腕しかない胎児のようだった。



 そして魔王軍。


 魔王城……正確には、世界中に108か所ある魔王城のひとつにすぎないが、第47魔王城は火災で使用不能になってしまった。

 いや人的被害のほうがはるかにすさまじい。軽傷者155名、重傷者37名。



 最後に、死者1名。


 ドブ市ドブ横町のコンテナにいた勇者シルフィード。

 彼は魔王軍によって「回収」され、歯科医(・・・)パク・ヒョクの診療所に回された。だからシルフィードは、もう生きていない。


 

 そしてマオちゃんはいま魔王城にいた。


 おっと、第47魔王城ではない。あそこはしばらく復旧工事のため誰も入れない。マオちゃんがいるのは、とあるホテルのレストランだ。


 ここは都市の一区画すべてが魔王軍の所有地だ。おそろしい規模だが、市街地すべてをまとめて第51魔王城と呼んでいる。

 その南東にあるホテルに、マオちゃんはやってきた。




挿絵(By みてみん)



 2日前にジェイのチームに救助され、みんなの前で大泣きしたあと、なんやかんや庶務をこなして丸1日寝た。

 

 そして今日、魔王軍四天王との会合となった。いま、マオちゃんは4人の待つテーブルへと足を運ぶ……

 



※ ※





挿絵(By みてみん)






「やあ、半年ぶりだね。みんな……元気してた?」

 

 かわいいマオちゃん。

 今日は制服ではなく、ナチュラルガーリーなロングのワンピだ。頭のカブトはメラメラと炎を吹き上げている。



 28階の高層ビル最上階、そこはレストランのようだが今日は貸し切りのようだ。がらんとした巨大空間の奥、下界を見下ろすかのような展望窓のそばのテーブルには4人の老人がいる。


 みな70から80歳前後だろうか、おじいさんばかりだ。しかし4人とも眼光は鋭く、後期高齢者とは思えない精悍(せいかん)な顔つきだ。

 精悍な……というか、ものすごく説教したそうな表情だ。4人のうち、いちばん小さな老人がやれやれと口を開く。


「久しぶり、マオニャン(・・・)。なに……その、なに? 魔王(カブト)の形変わってるんだが」

 

 マオちゃんのカブト……魔王を指さす老人。ほかの3人もマオちゃんの頭部に目をやる。そして口々にボヤきはじめた。


「報告を聞いたときは信じられなかったが……本当に変形しとるな、ゴホ」

「……いやな予感しかしないデース」

「それにその頭の火、なんなんですか軍曹(・・)



  ピキ……

   

   メラ……メラメラ。


 

「相変わらず私に向かって、なれなれしい口を()くよね、4人とも。私をマオニャンだの軍曹だのと呼ぶんじゃないって、ずっと言ってるはずだ……!」

 メラ。

 マオちゃんの表情がわかりやすく引きつり、カブトの炎がメラメラと大きく揺れた。

「ていうかさ……みんなずいぶん、無神経にこの炎をイジってくれるね。ずいぶん老害になったもんだよ、4人とも」

 

  ボゥオオッ!


 青炎。

 高さ3メートル近い天井に届きそうなほどの炎が吹きあがり、同時にマオちゃんの体すべてが炎に包まれる。

 いや炎は(うず)を巻くようにマオちゃんの両手に収束していく。


 龍だ!


 炎が、竜の形に収束していく。それはまるで生きているかのようにマオちゃんの両腕を泳ぐ。

 マオちゃんの右腕が真っすぐに、老人たちに向けられた。

 

「ベルダン、イブラヒム、明林(メイリン)、アル……君たちは魔王軍でも特別の存在だ。だからこそ四天王の地位を与えた」

 ボオオオオオン!

 マオちゃんの恐ろしい声に合わせ、炎竜も雄叫びをあげる。

「だから君たちに、いちばん最初に見せてあげる。気になるんだろ? この炎が」


「見るがいい、私の真の力を―――」




挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)




「すべてを焼き尽くせ! 魔王炎獄青竜波(えんごくせいりゅうは)!」



  ドォオオンッ!!

 

   青き龍が放たれた!


 撃ち放たれた炎の竜が、テーブルの4老人を襲う……いや、飲みこんだ!

  ズドォオオオオオオオオオオオオ!

   ゴォオオオオオオオオオオオオオオ!


 すさまじい爆炎と閃光、そして轟音。

 光線となった龍の気功波は、激突と同時にすさまじい炎と化した。太陽の中心がごとき輝きが数秒間続き、


 そして―――






「波ァ―――! はい、おしまい。さあ会議をはじめよう。もういいよ、準備して」


 マオちゃんのかわいい声でコントは終った。


 炎の青竜は、なんかひょろひょろと消えてしまった。

 同時に、どやどやと3人のウェイターが3人部屋に入ってきたではないか。


「失礼いたします」

「失礼いたします」

 ウェイターらによるセッティングが始まる。ディスプレイを用意しつつ、資料の配布が始まった。



挿絵(By みてみん)


 

「ゴホン。はい、面白かった面白かった」

 パチパチ。

「魔王様のすることに、いちいち驚いてたら心臓がもたないデース」

「見たかよ今の。孫が小さいときにハマってたアニメそっくりだ」

「ほんと昔からわけのわからんゴマカシかたしますよね、軍曹は」

 

 老人たちは無事……なんともなってない。いったい炎獄青竜波とはなんだったのか?

 

「さて諸君! のっぴきならない事態になった、非常事態だ!」

 ドン!

 テーブルを叩くマオちゃん。急に真剣……

「波ァ―――! 波ァ―――!!」

 青竜波2連発。



「ゴホ、メンツもそろったし昼食会を始めるか」

「昼食会じゃない、幹部会議な」

「おんなじことデース。いいかげん腹が減ったデース」

「あ、君たち。もういいから料理出してくれ」

 

 ぐだぐだと空腹を訴える4人。

 どうやら、ようやく魔王軍の幹部会議(昼食会?)が始まるようだ。


「なあ、いい加減に5人だけの会議ってムリがないか?」

「俺もそう思う。どうせ会議の様子は録画してんだし、最初から全隊の幹部集めようや」

「アイヤー、ダメだよ。俺らの会議、真剣味というか威厳(いげん)がなさすぎるもの」

「それにうっかり昔の話とかしてしまいそうデース。若手幹部には聞かせられないような話が、私たちには多すぎマース」


「波ァ―――! ちがうな、もっと両手でやるか。波ぁ―――!」

 まださっきの技を練習してるマオちゃん。



 いったい炎獄青竜波とはなんだったのか?




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終身刑の魔女より

 ↑

いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



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