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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第25章「なんにもない   を焼き捨てるカラッポの君へ」
231/249

第231話 「      」



挿絵(By みてみん)



 車内に煙羅煙羅がいない。



「魔王様、これはもしや」

「うん、煙羅煙羅だね」


 マオちゃんの落ち着き払った様子はどうだ。少なからずジェイは巨大球に驚いているらしい。だが、ニニコとシーカのことなど眼中にないようだ。


 ニニコは頭から血を流し、ぐったりとシートに寝そべっている。助手席のシートは後ろに倒され、間一髪、巨大球の下敷きになるのは避けられたらしい。

 あの一瞬でニニコにそんな判断が出来たとは思えない。

 シーカが、いや朽ち灯が助手席の背もたれを倒し、ニニコを圧死から救ってくれた―――のか?


 だがシーカの状態はきわめてマズい。

 運転席は巨大球に潰され、その下敷き……というか座席に挟まれている。どうにか生きているようで、「うぐ」とか「ぐむ」とか(うめ)き声を漏らしている。

 これではまるでヒキガエルではないか。

 これは死ぬ。

 このままでは、マジで巨大球の圧迫で死ぬ。


 なんなんだ、この球。

 運動会の大玉転がし(・・・・・)に使うような巨球。


 これが煙羅煙羅だというのか?


 いったい何が?



「魔王様、これはいったい……」

穢卑面(エヒメ)のせいだよ。この(カブト)の変化もそうだ。ああ…………疲れちゃった。帰ったらちゃんと説明するよ」


 ため息をつきつつ、マオちゃんは周囲の男たちに命じる。


「この2人を急いで病院に搬送して。ぜったいに助けて。それからクレーンかなんか呼んで、この鬼デカボールも回収してよ。私の家に運んでくれたらいいから」


 了解!

 了解しました!

 一団の返事を聞くや、マオちゃんは車内をのぞきこみ、恐ろしい声で警告する。



挿絵(By みてみん)



「聞こえたよね、朽ち灯。シーカくんとニニコちゃんを助けてあげるよ」

 恐ろしい、マオちゃんの声。

「だから、私の仲間たちを食べないでよ。もしそんなことしたら、君がいちばん困ることをしてやるからね」


 

『………………(おお)せのとおりに、魔王様』

 シーカの左手で、朽ち灯は(うな)る。

 はじめてだ、こんなに大人しい……いや無抵抗な朽ち灯は。



「魔王様。さ、お車に」

「うん。じゃあみんな、あとお願いね」


 ジェイに(うなが)され、マオちゃんは大型バンに歩み出した。ボロボロの制服、あちこちジェニファーの返り血がついている、しかもこの世のものとは思えない青い炎のカブト……

 恐ろしいマオちゃん。

 美しいマオちゃん。


 そのとき、ジェイのスマホが鳴った。


 ピロ♪

 ピロ♪

 ピロ♪ 

 ピ……


 ディスプレイを確認するなり、ジェイの表情が凍りついた。そして、ギリギリギリギリ!! 巨大な4本のキバ……いや犬歯を(きし)ませる。

 まるで激高した類人猿のごとき、鬼の形相。


 ぴた。

 マオちゃんが足を止める。

「ジェイ、なんかあったの?」


 1秒、2秒、3秒……沈黙がつづく。



「ギリギリギリ! ギリ…………おそれながら魔王様、もうひとつご報告事項が入りました」

 ジェイの表情は一瞬で変わった。鬼の様相から一転、すぐに落ち着きを取り戻している。


 ―――これが人間の芸当だろうか。

 この男も化物だ。


「バーベキューファイアほか1名が、アルビー兄妹の護送車を襲撃。その……シルフィード・ウィンドナイトを人質にして逃走中とのことです」



「ふうん」

 ぶわッ!

 魔王(カブト)の青炎が大きく揺れた。



「……カイトとアイシャは、生きてるんだろうね?」

「はい。両名とも健在でございます」


「よかった。けどカイトを倒すなんてすごいね。まあ、焼き籠手が相手じゃどうしようもないか」

「御意」



 ※ 第210話 「レイクサイド」を参照。


 ※ 参照ついでに書くが、カイトを倒したのはトラである。



「ふうん」

 1秒、2秒、3秒……沈黙がつづく。

「そんで?」


「はい。別働の部隊が追跡中であります。早急に補足いたしますゆえ、まずは魔王様には一刻も早くお戻りを」


「……ジェイ」

「はい」


 

 ぶわあ!!

 魔王(カブト)の青炎が揺れる。いや、マオちゃんの全身を包むほどの豪火! まるでオーラ……

 熱くない! 

 まぶしくもない! 

 月光のような青い火。


「おお……」

「うわ……」

 その場にいた誰もが恐れ(おのの)き、身動きすらできずにいる。

 おそろしい。

 おそろしい、魔王様。


 もしも意識があったなら、ニニコとシーカはどんな反応を見せただろう。ニニコは恐ろしくて泣いていたかもしれない。

 もしも煙羅煙羅がボールになっていなければ、どんな反応を見せただろう。馬鹿のひとつ覚えのように、マオちゃんをホメちぎっていただろうか。


「そっか。そっかそっかそっか」

 うんうんと(うなづ)くマオちゃん。その顔はまったく笑っていない。だが怒ってもいない。

 また泣いている……ぽろぽろ。マオちゃんは大粒の涙を流す。


「殺さないでね、とくにシルフィードくんは。私が殺すから」


 青の炎は、悲しみも怒りも焼き尽くすかのようにマオちゃんを包みこんだ。





挿絵(By みてみん)






 さて。


 このあと、ニニコとシーカは魔王軍の病院に搬送された。

 そして先の章で紹介したとおり、トラとフォックスは現在も逃走中である。で、あるが……数時間後には穢卑面(エヒメ)に襲われ、なんとか撃退するものの結局は魔王軍に捕まることになる。

 ここまでは前章で書いた。

 そのあとは……どうなってしまうんだろう。


 みんな、このあとどうなってしまうんだろう。マオちゃんがモノホンの魔王なら、全員拷問の(すえ)に殺されてしまうのだろう。


 マオちゃん誘拐作戦は、大大大大大失敗に終わった。

 すべてはムダだった。

 これでは、なんのために逃げたのかわからないではないか。魔王軍とマオちゃんを完全に怒らせただけで終ってしまった。

 

 そして鎧も。

 なにがなんだかわからないが、想像を絶するような変化が起こっているらしい。マオちゃんさえ泣き出すほどの、恐ろしい変化。 

 

 前章で、井氷鹿(イヒカ)の形状が変化したのを覚えておられるだろうか。今章では煙羅煙羅がでっかいボール状になり、魔王(カブト)も変化してしまった。

 ジェイが言うには、()義肢(ぎし)も動かなくなっちゃったとか。

 バグだ。

 まるでなんらかのバグが起こってるみたいだ。

 

 なんでこう、なにをやっても裏目に裏目に裏目に出てしまう。こんな人生もうイヤだ。





 ……なによりヤバイこと、忘れてない?










挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)






…………

……


『私ことニニコ・スプリングチケットは以上の経緯(いきさつ)から、魔王とその配下1名を誘拐し逃走中なり。魔王城の所在地は前述のとおりなり』


『加えてお伝えせねばならないのが、貴君らと因縁深いレインショットが、魔王軍に通じていたかもしれない可能性ありとの推測なり。知らんけど』


『ルディ神父のご不幸に心よりお悔やみを申し上げつつ、されど神父の呪いにも関わる事態ゆえに、どうかいますぐ救出にきてほしいなりけり』


……

…………








挿絵(By みてみん)






挿絵(By みてみん)





 なんにもないページを焼き捨てるカラッポの君へ告ぐ。



 たったいま、ニニコの送ったメールは地球の反対側に……ルディの教会に届いたんだ。

 











挿絵(By みてみん)




どうも、フルカワです。


これでこの章は終りたいと思います。

すいません、今章4話しかありませんでしたね。


しかし穢卑面のヤラカシ(勇者を左手につけたことでバグ発生!)で、煙羅煙羅、水な義肢、アモロと「パーツ足りない組」は機能停止してしまいました。



マオちゃんのカブトも変形しました。


マオちゃんの頭の火は、鎧のエネルギーです。

なんの意味もなくエネルギーを放出し続けてますよ。



コスモが燃えています。


だから次章より、鎧を「クロス」と呼ぶことにします。



鎧のエネルギーが完全にカラッポになる前に、なにかしら手を打たなければならない……ってのが次章のテーマになってきます。

いよいよ全員の利害が一致してきそうで、そんな上手くいきそうもありませんね。



じゃあ、次章いってみましょう!



行ってみましょう!





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終身刑の魔女より

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いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[一言] 穢卑面が勇者を左手につけたことでのバグだったとは。 いや、それは勇者が悪いんじゃないのか(ぇ マオちゃん恐ろしや。 次章はマオちゃん無双なのか!?
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