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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第25章「なんにもない   を焼き捨てるカラッポの君へ」
230/249

第230話 「      」



挿絵(By みてみん)



「ジェニファーくん……うう、ジェニファーくん」

 泣く。

 マオちゃんは泣き続ける。

 カブトの青き炎がゆらめいた。



 と―――



 キュキュッ!

 キキィイ!

 ブロロロロロ……!


 4台のバンがやって来た。

 テレビ局の大型中継車みたいなバンだ。1台はそのまま通りすぎ、2台は事故ったSUVを囲むように、最後尾の1台はマオちゃんのそばに停車する。



挿絵(By みてみん)



 2台のバンからバタバタと降りてきた10数人の大男たち。ただちに事故車を取り囲むや、消火剤をぶっかける。

 そして、バリバリバリ!!

 電動ノコギリでドアを切り取りはじめた。


 早い……なんという手際(てぎわ)だ。


 その後ろでは、8丁もの自動小銃が車に向けられている。バンの屋根からもだ、見たこともないような巨大な機関銃が運転席に狙いを定めている。あ、あんなもんで撃たれたらあとかたも無くなる。


 が、ニニコもシーカも車から降りてくる気配はない。すっかり助手席側のドアが取り払われたが、襲撃者たちはザワザワと不思議そうに取り囲むばかりだ。


 その様子を、マオちゃんは座りこんだまま遠巻きに見ているだけだった。いや、ようやく声をしぼり出した。

 

「ジェイ、えらいことになっちゃった」



「ご無事で何よりです、魔王様。遅くなりまことに申し訳ございません」


 いつのまに。

 マオちゃんのうしろに、ツナギを着た男が立っている。彼がジェイだろうか。最後尾のバンから降りてきたらしい。振りかえり、同じくバンから降りてきた若者に、ジェイは指示を出す。


「要救護者1名。ジェニファー・ライトを車内に搬送しろ。いや病院に搬送しろ」


 命じられた若者2人はマオちゃんに駆け寄ると、ジェニファーを丁重にタンカに乗せた。軽々と抱えるや、彼らは早歩きでバンに引き返す。

 代わりに数人の男女が機材を(かつ)いで降りてきたが、ドアが閉じられると同時にバンは動き出した。

 ブロロロロ……!

 運転手はマオちゃんに一礼をすると、もと来た道を走り去っていく。


 この間わずか30秒ちょい……なんという統制された集団だろう。



「ジェニファーくん、大丈夫かな」

 悲痛な声。

 うわずった、涙()じりの声。

「すべて私のせいだ。なにが魔王だ、なにが……」



「魔王様、まずはお手を……さ、ほどきますのでご辛抱(しんぼう)を」


 シュル。

 シュル。

 マオちゃんを縛るストラップを、ジェイはいとも簡単にほどいてしまった。朽ち灯が鬼のような力で締めあげたはずの結び目を、いとも簡単に。


「ありがとう……う、うううわあああ!」

 マオちゃんは泣き止まない。

 自由になったその手で顔を覆い、泣く。泣く。


「恐れながら魔王様。緊急の事態なれば、どうかお気を確かにお聞きください。たったいま入りました情報でございます」

 (うやうや)しくジェイは話す。

 ……いや違う。

 とても言いづらそうな表情だ。


「このようなご心痛のときに申し上げるべきではないのですが……魔王城に、バーベキューファイア一味とは “ 別の侵入者 ” を許してしまいましたようです」



「ううう。わかってる、波動(・・)を感じたから」

 泣く。

 ぐすん、ぐすん。

穢卑面(エヒメ)だろ? 穢卑面のやつ、私の城にまんまと……何人死んだの?」

 


「死者ゼロ名であります。詳細をご説明いたします」

 スマホを取り出し、ジェイは画面の情報を読み上げる。


「バーベキューファイア一味により、第47魔王城は中規模(・・・)潰滅(・・)。そして……申し訳ございません。この混乱のスキを突かれ “ 穢卑面ならびに()(もり)の被呪者 ” の侵入を許す事態となった模様です」



「死者、ゼロなの? 誰も死んでないの? うええええん!」

 また泣くマオちゃん……


御意(ぎょい)、ゼロ名であります。重傷者多数ながら、命に別条のある者は確認されておりません」

 あくまで事務的に話すジェイ。

 いや、とてもとても言いにくい報告が続くのだろう。彼の(ひたい)に、冷や汗がにじんでいる。声もうわずってきた。

 必死に事務的な態度を保っているのが伝わってくる。


「続けさせていただきます。侵入者には、勇者および井氷鹿(イヒカ)を盗まれる事態となったとあります。くわえて()義肢(ぎし)でございますが……魔王城1階で、彫刻のように固まっている状態で発見されました」



「ぐすん、やっぱりか。どうやら “ 欠損(・・) ” してる鎧は、みんな機能停止してるみたいだね。アモロも機能停止しちゃった。きっと煙羅煙羅もだ」

 涙。

 涙をそっと(ぬぐ)うが、ぽろぽろ、ぽろぽろ、とまらない。


 

挿絵(By みてみん)



「うう、許せない。こんなの許せない、ううう」

「……申し訳ございません。私が魔王城で迎撃しておれば、命に代えましても阻止いたしましたものを……」

 


「黙れ」

 マオちゃんのドスの効いた声。

「ジェイ、君は私を助けるために追ってきてくれたんじゃないのか? それを城で待機してればよかったなんて、私を(かろ)んじる発言だ」


「……ご無礼(つかまつ)りました」

 深々、頭を下げるジェイ。

 

「グス、グス。ゴメン言い過ぎた、続けて」

「はい。現在、穢卑面(エヒメ)を追跡するため部隊を編制中とのこと。指揮はドラゴニック・ジャンゴ主査であります」


「ジャンゴなら安心だ。でも深追いしなくていいって伝えてよ。居場所を特定でき次第、私が直接行ってケジメつけさすから」

 炎。

 魔王(カブト)に灯る青い炎が、さらに冷たい色に変わる。

「許さない、穢卑面」



 ひやり……

 ジェイの(ひたい)に汗が浮き出る。

 

 この何気なくつぶやいたみたいな、魔王さまの「ゆるさない」。

 恐ろしい。

 ここまで真実味のある殺意は、おそらく人間では出せまい。



  ―――と。



「魔王様!」

 SUV車を囲む連中のひとりが叫ぶ。

「搭乗者2名を確保! し、しかし……」



「うん、いま行く」


 のろのろと、マオちゃんはようやく立ち上がった。

 トボ、トボ。

 事故車を取り囲む一団に、ゆっくりと近づいていく。


「みんな、ご苦労。下がっていいよ」

 歩み寄る。

 スクラップ同然の車に、無警戒にマオちゃんは近づいていく。


 ―――マオちゃんのどこが魔王だ。


 ぽろぽろと涙をこぼす彼女は、人間の女の子にしか見えなかった。だからこそ、その絶望と怒りが伝わってくる。

 恐ろしいマオちゃん、おそろしい魔王。





挿絵(By みてみん)






挿絵(By みてみん)




挿絵(By みてみん)







挿絵(By みてみん)









挿絵(By みてみん)





「聞こえないの! みんな、どいて!」

 


 ビク。

 ビクッ!

 マオちゃんの大声に、男ら16人は息を飲んだ。


 魔王様を事故車に……いや、こんな正体不明の物体(・・・・・・・・・・)に近づけてはならない……だが恐ろしくて意見などできない。命じられるがまま、彼らは車から距離を取る。


 全員が恐怖した。

 魔王様のカブトが変わっている。しかも真っ青な炎を(とも)している。い、一体なにが…… 

 

 彼らの間を通り抜けるようにマオちゃんは進み、その後ろからジェイがついてきた。



「う、うう」

「うぐ……」

 車内から聞こえるニニコとシーカのうめき声。

 生きている。

 生きているが……


 


  なんだ、これは?


   なんという有様だ。


 

 直径1メートル弱の、玉。

 なにがなんだかわからない―――なぜ車内に巨大な石の球がある。


 なぜ? 

 なぜ車にこんなものがあるのか。


 どこかから落ちて来たものではない。完全に車内に収まった球、その圧力で車体はボンと膨らんでしまっている。

 ニニコとシーカは、球によって座席に押しつぶされているではないか。


 クルマの中に突然、この球が現れたとしか思えない。

 まるで風船が膨らんだかのように……


 待ってくれ。


 車内に煙羅煙羅がいない。



「魔王様、これはもしや」

「うん、煙羅煙羅だね」



挿絵(By みてみん)



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終身刑の魔女より

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いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[一言] マオちゃんの熱い決意に心を打たれていた所に エアバックになった煙羅煙羅でフイタw
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