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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第24章「跡形もないスクラップを焼き捨てる愛の終点へ」
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第226話 「ロデオ」



挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)





 扉が降ろされる。

 ブクブク。

 ぶくぶくぶく……バタン。


 水中で、扉と扉が合わさる。1ミリの隙間(スキマ)もなく、ぴったりと―――悪魔が封じこめられる。



   ガコ……ン。

  


 留め金がかけられた。



「あばよ、ルディ」


 つぶやく。

 トラは身震いした。


 なんだか急に体温が下がったような気がする。無理もない、首まで水に()かりっぱなしなのだ。全身ズブ濡れで、内臓の奥まで冷え切ってしまった。


 はやく岸に上がればいいのだが、動けない。

 扉の取っ手を握ったまま、手を離すことが出来ない。なにしろ中には4つもアイテムがあるのだ。またぞろ不思議な力で、脱出してこないとも限らない。


 ……それもあるが。


 なんだか、ルディにとどめを刺してしまったような気がするのだ。不安と罪の意識で、手を離せない。



挿絵(By みてみん)



「いや離せよ」

 

「ふんぎゃッ!」

 ザブン!

 ひっくり返るトラ。川の中に倒れこみ、ばしゃばしゃと暴れる。

「あっぷあっぷ!」


 

「や、や、やったじゃねえか、ブルブル」


 いつの間に。

 フォックスがやって来た。歯をガチガチと鳴らし、寒さに震えている。そりゃ、半裸でこんな氷漬けの川に入ってきたら……いや大したものだ。


 なんとかトラは体勢を立て直し、ざばと首から上を水面に出した。ぴゅっと口から水を出す。またズブ濡れ……


「ゲホッ、ゴホッ、お、遅いんだよ来んのがよ! 死ぬかと思ったぞ!」

「ピ、ピ、ピンチだと思ったから助けに来てやったんじゃねえか。お前が穢卑面(エヒメ)といっしょに荷台に入ったときは(あせ)ったぞ、ブルブル」

 チャプチャプ。


「入ったんじゃねえ、スベって流されちまったんだ。気がついたら穢卑面(エヒメ)と仲良くハコヅメだ。ヤバかったぜ」

「と、とにかく無事でよかったよ。お前が出てきてホッとしたぜ……ルディのやつ、死んだのか?」

 

 死。

 フォックスの無神経さよ、簡単にルディが死んだかを聞いてくる。


 トラは、ざぶざぶと波打つ配送車に目をやった。横転し、水に半分以上も浸かる2トン車の不気味なことよ。

 荷台に死体と鎧があると思うと、余計に気味が悪い。


「……とうとう殺人やっちまった。よりによってルディを殺しちまった」

 (へこ)むトラ。


「お前が殺したわけじゃねえだろ。こりゃ死人を埋葬したみたいなもんだ」

 (なぐさ)めるフォックス。

「アタシも村のみんなを火葬したぞ、それと一緒(いっしょ)さ」


「いっしょか。そうか……待てよ、それ一緒かあ? ふぇ……ヘェックショ!」

「一緒一緒! へ……ヘッキシ! お、おいもう岸に上がろうぜ」


 クシャミ2連発。

 体が冷えてきた。もう岸に上がらないと本当にヤバい。


「寒い寒い!」

 ばしゃばしゃ、フォックスはバタ足で岸へ向かう。荷台など気にする様子もない。


 対してトラは、何度も荷台を振りかえる。 

 2トン車って、こんな小さかったっけ? 大部分が水に沈んでいると、余計に小さく見える。

「ぶるっ……! 凍りそうだぜ……」


 ざぶざぶ、ざぶ。

 フラつきながらも岸に向かって歩く。また振りかえる……もう水面に浮上する気力もない。

「寒みい……」

 いま体温は何℃まで下がっているのだろう。全身が凍りついて、もう痛いくらいだ。

 ざぶ、ざぶざぶ。

 

 ざばぁ。

 ざばあっ!


「ひーっくしゅ! さ、寒い……」

「フォ、フォ、フォックス、火、火、火……!」


 

 ようやく岸に上がった2人だったが、もう身動きすらできないほどの消耗と低体温だ。なんか2人とも身長が縮んだように見える。物理的に縮こまってしまっている。


「火、火、フォックス、火……!」

「わ、わ、わかってんよ、こ、この木を、木、木……!」


 ボオッ!

 岸に打ち上げられていた1メートルほどの流木。フォックスが触れたとたん、腐ったそれはバチバチと燃えはじめた。

 あ、あ、あったかい……


 やっと、やっとトラとフォックスの顔がほころぶ(・・・・)。まだ体を震わせているが、やっと(だん)をとることが出来た。


「はあ~、あったけえ……」

「やっぱ火はいいなあ、燃えてんの見てっとホッとすんぜ。おいトラ、そっちに落っこてる枝集めてくれよ……ってオイ、その手! 血!」


 ガシ!

 フォックスがトラの右手を乱暴につかんだ。血まみれの腕を。

 

「ぎゃあ痛てて! なにすんだ離せ!」

 叫ぶトラ。

 穴だらけの腕を(つか)まれたのだ、痛いなんてもんじゃない。だが……フォックスの手を振りほどこうともしない。


「お前、手ェ動かねえのか?」

 フォックスの声が(つま)る。

「右手、動かねえのかよ」


「ぐっ」


 顔が近い。

 炎に照らされたフォックスの美しい顔よ、濡れた髪に火の光がキラキラと反射する。幻想的な女、いや女の体。

 目の前と言える距離に、ほぼ()き出しの大きな胸。その奥に、なだらかな腹が息をするたびに(なま)めかしく動く。息……フォックスの吐く息が肌に当たる。どこを見てもエロい。


 もう右手は痛み以外の感覚がない。

 籠手につかまれているはずなのに、その感触がない。フォックスの言うとおり、右手はさっきから指1本動かない。


「手ェ、動かねえのか」

「……うん」



 1秒。

 

 2秒。


 男女は砂利(ジャリ)だらけの川岸で身を寄せあったまま固まる……2秒だけ。



「ひゃあ、な、なにを!」

「うるせえ、服をぬげ!」

 ビリビリビリ!

 フォックスがトラにのしかかった(・・・・・・)。シャツを強引に()ぎ取るや、びりびりと包帯状に破り裂いてしまう。


「うおおお痛ええええ! や、やめてえ!」

「やかましい、黙ってアタシの好きにさせやがれ!」

 上半身裸の男。

 上半身半裸の女。

 (ちか)ってこれは看護である。それが証拠に、トラの傷ついた右手を縛りあげていく。フォックスは的確に……かどうかはわからないが、右腕3か所をギュウギュウに(くく)りしめて出血を止めた。

 どうやら傷ついたのは静脈だけだったようだ。動脈だったらすでに失血死していただろう。



挿絵(By みてみん)



「ひい―――、どけ―――!」

「ガタガタうるせえ! 大人しくしろ!」

 言い忘れたがトラは両足も刺されている。その傷ついた足に、フォックスはどっかりと乗っかっている。

「痛い痛い痛い! 死んでまう!」

「アッ! そうだったテメー、足もだったな! 見せろ!」


「ワオー!」

「ワオーじゃねえ!」

 取っ組み合いさながらにフォックスはトラを襲い……じゃない、懸命に止血する。シャツだけでは足りず、その辺に落ちてたビニールロープも使って(しば)る。

「ど、どけ! どかねえと()れんぞ!」

「どくか! アタシが挿れてやる!」



 ……もう、ムードもへったくれも。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 数分後。


「もぐもぐ。この新発売のパン美味い。ホラ食えるか? アーン」

「アーン。もぐもぐ……うん、美味いな」

 

 岸に漂着した山のような荷、その中から密封されている菓子パンなどを拾い集め、2人はガッつく。片手の使えないトラのために、フォックスはひと口にちぎって食べさせてあげる。

 はいアーン、もぐもぐ。ゲップ。


 ようやく満腹になった。

 正直こんなのんきに食事している場合ではないが、さすがにもう動けない。見上げると、分断された高速道路のスキマから見事な星空が見えた。


「やーれやれだ。どうするよ、これから。また車奪うしかねえけど、高速に上がってもムダだろうな」


 勇者剣でブッた斬られたそれは、まるで建設途中の高架道みたいだ。たとえトラの長靴で高速道に上がったとして、通る車などあるわけがない。最初のバス事故で、警察が通行封鎖をしているのは確実だ。

 まごまごしてると、ここにも道路公団のパトロールがやってくるだろう……そうなれば魔王軍もやって来るにちがいない。


「さーて、マジにどうすっかな……おいトラ! そんな見んなよ」

 両手で胸を覆い隠すフォックス。

 そんな今ごろ……さっきまで()じらう様子もなかったくせに。でもさすがに、胸を凝視されるのは抵抗があるようだ。

「ていうか、アタシのシャツどこやったんだよ、ポンチョもだ」

 

「カンベンしてくれよ、そんなもんどっか行っちまったよ」

 一方、トラの照れることよ。

 半裸のフォックスを見たいが、見るなと言われて視線をそらす。激痛と空腹で目がまわりそうだったが、止血し食事を終えると、少し落ち着いたようだ。そうなるとフォックスの体にとにかく目が行く。


「見んなって!」

「見てねえし!」

 チラッチラッ。


「なら、好きなだけ見ろよ」

「……へ?」

 ゴクリ。

「ウソに決まってんだろスケベ」

「なほ……ここここのアマ!」

 

 コント。

 砂利(じゃり)だらけの川岸で、呪われた男女は漫才を始めた。誰も見ていないのをいいことに……何度も言うが、こんなことしてる場合じゃない。


 どうする?

 車を奪取するのは、さすがにもう無理だろう。


 どうする?

 スマホを失ってしまった。したがってニニコとシーカに助けを求めることもできない。


 どうする?

 警察がここに来ないはずがない。ということは、魔王軍にかぎつけられるのも時間の問題だ。


 

「行けるとこまで行くか? 言っとくけど高速には戻れねえぞ。じきにサツが殺到しちまうだろうしな」

「……この際、その手で行くか? さすがに俺も覚悟決めたぜ」


「警察にわざと捕まるってか? まさかアタシ達が指名手配犯だって忘れてんじゃねえだろうな」

「じゃなくてさ、前にもやっただろ。高速道路の裏側にへばりついて(・・・・・・)歩いてくんだよ。どっかでスキを見て、またカージャックすりゃよくね?」


「……お前、その足で大丈夫なのかよ」

「死ぬかもしれん。その前に抱きしめていい?」


「いいぜ、どっからでも来い」

「ここここコラ! 籠手を向けんのをやめろ!」

 

 

 コント。

 逃走計画ができたことで、やっと談笑する余裕ができたようだ。



 ―――そして終わりを告げる。



 ババババババババババババババ!


  バラバラバラバラバラ!


   バッバッバッバッバッバッバッバッ!




挿絵(By みてみん)





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終身刑の魔女より

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いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[一言] おおぅ、イチャイチャしやがって そしてやってきたヘリは敵か味方か…
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