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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第24章「跡形もないスクラップを焼き捨てる愛の終点へ」
224/249

第224話 「ソーダフロート」



挿絵(By みてみん)



 2×2×2メートルほどの、局所的な波。だが速い……衝撃波のように穢卑面(エヒメ)に向かう。


 しかし。


『ケケケエ、面白い! いろいろ思いつきおるな!』

 ガガンッ!

 今度は井氷鹿(イヒカ)のアンテナが真下に伸びた。すでに凍った川面をどうしようというのか。

 いや、凍結の能力ではない。


 バネ。

 アンテナ全体に巻きつくスプリングが、ぐいと縮む。次の瞬間、どしんと氷を叩いて穢卑面(エヒメ)は飛んだ。

 高い……フォックスの波を簡単に飛びこえる。


 波はジャンプした穢卑面(エヒメ)のはるか下を通過し、あろうことかトラを直撃した。

 ズドォオオオオオオオオオ!


「ぐあああああああ! あっぷっぷ、ブクブク……!」

 数百リットルもの水圧を食らい、トラは後ろに倒れこむ。両足を刺す氷槍など、2本とも砕けてしまった。


『ケケーッケッケッケ! 残念だったな』

 ザシャッ!

 着地、いや着氷した穢卑面(エヒメ)の高笑い。

 ゆっくり、ゆっくりと歩き出した。


 パキパキ、バキバキ。

 穢卑面(エヒメ)が足を進めるたび、氷はゆっくりと広がっていく。



 川岸のフォックスは……逃げない。

 なにを考えているのか、ぴくりとも動かない。


 どうする気だろうか? 

 ()籠手(ごて)を使って、穢卑面(エヒメ)を燃やすだろうか。


 冗談じゃない、それができれば苦労しない。

 呪いにかかったものを殺せば、鎧が解放されてしまうではないか。


 ルディの肉体が死ねば、穢卑面(エヒメ)を含む鎧はすべて解放される。そうすれば次に呪われるのはフォックスだ。

 


『フォックス、お前がいまなにを考えているか当ててやろうか。人間の考えなどお見通しだ』

 ざしゅ。

 ざしゅ。

『我が井氷鹿(イヒカ)を使い、岸まで跳躍しないか……だろう? ケケケ! その手に乗ると思ったか!』

 ざしゅ。

 ざしゅ。

『空中ではお前の攻撃を避けれんからな。殺してくれるのなら願ったりだが、歩行不能なヤケドを負わされてはかなわん。確実に近づいて、お前を呪ってやるぞ』



「そうかよ」

 フォックスは逃げない。

 逃げてもムダだと思っているのか? あるいはトラを助けるチャンスをうかがっているのか。



「ま、待てコラ!」

 うずくまるトラが右手を伸ばす。


 だが、その手首を氷柱(ツララ)が! さっきと同じだ、剣のごとき氷が突き出し、今度はトラの手首を(つらぬ)いた。



挿絵(By みてみん)



 ドズッ!

 魔王城でメガネ女に刺し抜かれた傷。同じ場所に氷が刺さった。


「ぎゃあああああああああ―――!」

 絶叫。

 うずくまる……



『お前は寝ていろ、すべて終わったら起こしてやる……さてフォックス……待ってろ、いまそっちに行ってやるからな』


 穢卑面(エヒメ)は何をするつもりなのか。

 フォックスを呪う、それはわかった。


 だがフォックスの意識があったのでは意味がない。

 それではかつてのルディと同じだ。


 穢卑面(エヒメ)が操れるのは、脳死もしくは植物状態の人間だけ。

 意識明瞭の人間を呪っても、その体を自在に操ることは出来ない。


 だからこそ、井氷鹿(イヒカ)


 ①フォックスのどこでもいいから動脈を切る。

 ②意識を失うまで失血させる。

 ③その傷を井氷鹿(イヒカ)の氷でふさぐ。


 ④()(もり)の槍で、ルディの首をはねる。

 ⑤ケケケ!!

 ⑥ルディの首をはねるのに、咲き銛を使ってやる!


 ⑦意識を失ったフォックスに憑依する。

 ⑧川に潜り、酸欠で脳死させる。

 ⑨ケケケ! 脳死人間の一丁あがりだ!



『ケケケケエ! ケケッケケッケ!』

 

 笑う悪魔。

 (みにく)い仮面の、おそろしい計画。このまま、穢卑面(エヒメ)思惑(おもわく)どおりになってしまうのか。

 

『ケ―――ッケケッケッケッケ、さあ撃ってこい! 我を殺してくれえええええ!』



「やれやれ、ひでえ夜だ」


 ジャキン。


 フォックスが籠手を構えた。

 これ以上ない、というほど安堵(あんど)の表情で笑う。


「ホント、お前らは人間みたいだな」


 ボゥ……ゴゥオオオオオオオオオオ!!

 すさまじい炎が籠手から吹き上がる。

 大きい。

 高さ5メートルはあろう火柱だ。


「人間をなめんじゃねえぞ、後悔しやがれ。アタシ達をナメんじゃねえ」


 なんという熱、そして明るさ。

 月明かりなど完全に吹き飛ばすような……まるで昼! グッと握られた()籠手(ごて)の拳に、炎が収束していく。フォックス必殺の火炎弾―――

 

 いやダメだ!

 穢卑面(エヒメ)を殺してはいけない。そんなことをしては、今度はフォックスが穢卑面(エヒメ)に呪われてしまう。


 ―――ちがう。

 いつもの火炎弾じゃない―――


 籠手はソフトボール大の石を握っているではないか。炎熱に焼かれ、石は真っ赤に焼ける。

 真っ赤……いや、もう、光の玉。


「ロケットランチャーだ、避けてみな」

 オーバースローの投法。

 大きく振りかぶった籠手から、大火炎とともに光弾が投げ放たれた。


 ドンッ!!

 ズドォオオオオオオオオオオオオ!!

 


挿絵(By みてみん)



 火炎岩は、ズドンと穢卑面(エヒメ)の足もとに叩きこまれた。

 まるで隕石!

 まるでレーザービーム!

 火炎石は、ブ(あつ)い氷の足場を貫いた。その亀裂を広げるように、炎はミシミシと侵入していく。


 ゴゴゴゴゴ!

 ビキビキビキビキ……!

 

『う、おおおおおおおおおおお!?』

 

 振動。

 揺れる。すさまじい揺れ……どんどん氷はひび割れていく。まるで氷山が砕けていくようだ。

 川底に結着されていたであろうバスケコートほどもある氷島が、どんどん崩落していく。川から作られた魔の氷が、魔の炎で川に帰っていく。



挿絵(By みてみん)



 ドドドドドドォゥ……!

 (かたむ)く。

 氷の島が傾いていく。

 

『お、お、おおおおお!?』

 穢卑面(エヒメ)がたまらずヒザをついた。

 

 氷の島は急角度で傾いていく。

 どっちに?

 決まってる。


 重いほう(・・・・)にだ。

 

 

「さあ、チークタイムだぜ」


 トラ。

 トラが立っている。

 ギィィイイイイイイイイイ!!

 長靴の重さで、氷はシーソーのように傾いた。10度、20度、30度……どんどん傾いていく。だがトラは、がっしりと急斜面に貼りついていた。

 両の足でだ!

 

『おおおおおおおおお! おおおおおおお!』

 滑り落ちる穢卑面(エヒメ)

 下り坂と化した氷面を、穢卑面(エヒメ)はなすすべもなく滑り落ちていく。すかさず槍を伸ばした!


『おのれぁあああああ!』

 ズドン!

 ズドズドォ!

 氷に突き刺さるピッケル、いや槍。

 

 急停止。

 斜面の中ほどで穢卑面(エヒメ)の落下は止まった。


 

 と思ったのも一瞬のこと。


 ガシィっ!


「どこ行くんだよ、逃がさねえぞ」


 トラが凍った斜面を登ってきた。がっしりと右足を穢卑面(エヒメ)の体に―――()(もり)に貼りつけた。

 吸着。

 いや溶接されたかのようだ。ビクともしない!



挿絵(By みてみん)



『は、はなせ貴様!』

「ああ、いま離すよ。ついて来い」


 ズル。 

 ズルズルズルズル!!

 滑る。

 また滑る。


『お、おオオオオオオオオ!?』

 

 トラは氷側の足を自由にした。

 穢卑面(エヒメ)を道連れに、トラは氷の坂を滑り落ちていく。猛スピードで……川に落ちていく。

 ズボッ!

 ズボォッ!

 氷に刺した槍などすべて抜けてしまった。トラの右手はおびただしい血に染まり、したたるそれは、どろどろと坂を流れ落ちる。


 その血を追い越すほどの速さで、2人は滑り落ちた。

 

 滑る。

 川に向かって滑り落ちる。


 道連れ。

 氷点下の川面へと、2人まとめて滑落(かつらく)―――



  ちょっと待て!



 氷島の真下には、配送車のコンテナ!

 あのトラックの荷台が口を開けていた。


 ドドドオオオオオオオオオオ!

 ザバアアアアアアア!


 大音響を立て、氷山は崩落した。


「ぬおおおおおおおお! あっぷあっぷ!」

『ぐおおおおおお! あ、あっぷあっぷ!』


 ゴボゴボゴボ!

 大波のすさまじい水圧は、人間の抵抗など許さない。氷のブロックごと、トラと穢卑面(エヒメ)は荷台に飲みこまれた。



挿絵(By みてみん)



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終身刑の魔女より

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いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[一言] トラックの荷台に…え、出荷?
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