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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第24章「跡形もないスクラップを焼き捨てる愛の終点へ」
221/249

第221話 「ワイルドコイル・ザ・スプリング」



挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

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「もしもし! お前な! やっぱ! 刑務所入ったほうが! いいんじゃねえか!」


 スマホを手に、ガードレールを蹴りまくるトラ。 

 ドガン!

 ドガッ、バキィ! 

「1日に! どんだけ! 罪を! 重ねるんだオルァッ!! もしもし!?」


 バキッ!

 ガランガラン!

 長靴を何十回と蹴りこまれ、(のぼ)りと(くだ)りの車線を分ける壁を取り払う。

 約2メートルほど……ちょうど、トラックが(・・・・・)通れるくらい(・・・・・・)の幅だ。


 ブロロロ……

 ―――やっとトラックがやって来た。カーラジオの音楽をガンガンに鳴らし、死ぬほどやかましい。どうしてこう、この女は犯罪中に限って目立つことばかりしたがるのか。




挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)




 スマホを手に、運転席から身を乗り出すフォックス。たったいま自動車を盗んできたとは思えないほど、屈託(くったく)のない笑顔だ。


 やれやれと首を振りながらも、トラは親指を立てる。

「ヘイ、タクシー」

 


 ブロロロロ……ブロロロロ。

 手をあげたトラを無視し、車はガードレールの穴を通り抜けた。ようやく本来の車線に戻れた。

 そしてそのまま行ってしまう。

 ブロロロロ。


 いやいや。


「た、タクシー! ヘイヘイ!」

 ズシンズシン。

 あわてて後を追うトラ。

「フォックス! ちょ、ふざけんなコラ!」


 ギィ……数メートル走って停車した。


 ズシンズシン!

 追いついたトラが運転席に()め寄る。


「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ!」

 目をむいて抗議(こうぎ)するが、言葉にならない。

「ゼェゼェ! ゼェゼェ!」


「ゴメンゴメン! あははは、ゴメンて」

 腹をかかえて笑うフォックス。

「さあ早く乗れよ、サツが来ちまうぜ。アハハハハ!」


「ハァハァ! ハァハァハァ!」

 息も絶え絶えに、トラは助手席に乗りこんだ。しょうもない冗談のせいで瀕死(ひんし)だ。

「ゼェゼェ! ハァハァ! ゼェハァゼェハァハァ!」

 もう加湿器……


 ギシィ!

 トラが乗るなり、車は大きく左に(かたむ)く―――



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

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「ハァ、ハァ、ハァ!」

「ひーひひひひ! あはははは!」


 2人を乗せ、コンビニの配送車は進む。それにしても、まだトラは息が戻らない。それにしても、まだフォックスは笑いが治まらない。


「ハァ、ハァ、ハァ! ハァ、ハァ、ハァ!」

「みーひひひひ! ぎーひひっひ!」


 ふつうなら、このあとの行動を相談するべきだろう。だがこの2人ときたら、まったく。あ、いや、ようやくまともに会話し始めた。


「はー、はー……死ぬかと思ったぜ。状況わかってんのか! ふざけんな!」

「はーはー……ああ、おかしかった。悪かったよ、ちょっとフザけただけだろ、悪かったよ」


「シーカの野郎、まだメール送ってこねえ。ニニコのやつ、“ ネバテク ” のことちゃんと教えたんだろうな」

「さすがにまだ返信はできねえだろ。シーカはシーカで、スマホ調達しなきゃなんねえだろうしよ」




 ※ ネバテク……メールアプリのひとつ。


   第194話 「ネバーランドテクノロジー」 を参照。




 車はどんどん進む。

 しかし……どこに行けばいいのだろう。


「籠手よ籠手よ、籠手さん。シーカはどーこだ」

『あっち……』


 ビシ。

 ()籠手(ごて)はトラックの進行方向の、すこし左を指さした。


「オーケー、次のインターで降りるぞ」

「なんでだよ、行けるとこまで行こうぜ」


 ブロロロ……バスン!

 ブロロ……!

 トラックの遅いことよ、時速50キロくらいしか出ていない。なんかプスンプスンと揺れ始めた。


「聞いたろ、いまの音。ってなわけでエンコ確実の車は捨てて、あとは……どうすっかな。アタシ流に、出たとこ勝負で行くか」

「神様……俺をお助けください」


()(もり)じゃねえんだ、いちいち(いの)ってんじゃねえよ。それにしてもビビったな。まさかここで穢卑面(エヒメ)が来るとは思わなかったぜ」

「さすがに目を疑ったぜ。アイテム4つだぞ、勝てるわけがねえ」


 ブロロロ……バスン!

 ブロロ……!


「まあ、さすがにもう追ってこねえだろ。ちょ~っとだけ、ルディと()(もり)に悪いことしたな」

「とは言え、ああでもしなきゃ穢卑面(エヒメ)から逃げらんなかったろうぜ。今ごろどうなっちまってんのかな……」


 ブロロロ……バスン!

 ブロロ……!


「考えんなよ。気にしたってしょうがねえ」

「……言われなくっても、もうやめだ。いまは自分のことで精いっぱいだぜ」


 ブロロロ……バスン!

 バスン、バスン!

 バスン!


 いよいよ車の動きがおかしくなってきた。よりによって橋の上で。


 配送車はいま、大きな橋のうえを蛇行している。大きな川にかかる高架橋―――高い。下まで数十メートルはあろう。


「どうすんだよ、パンクですよコレ。ハンドル()かねえ」

「もう……俺のせいだって言いたいんだろ。カンベンしてくれよ」


 スピードが落ちてきた。

 時速は45キロ……ふらふら……40キロ。





  次の瞬間。




   次の瞬間だった。




 ズバン。


 高速道路が切れた。



  いや切られた。



 格子状に、縦に横に、いやメチャクチャに。

 河川橋が切り裂かれる。


 ズバァアアアアアアアアアアアアアア!

 ズバズバズバズバン、ズバズバズバズバズバズバズバズバン!

 

「うおおおおおおお!?」

「うわあああああああああああ!」

 

 トラとフォックスは落下する、配送車ごと。

 川に向かって転落する。

 切り刻まれた、100の高速道路(へん)とともに。



挿絵(By みてみん)



 ズドォオオオオオオオオオオ!!

 水柱。

 水柱。

 水柱。

 川の深さは1メートルから4メートルといったところか、崩壊した橋とトラックが降りそそぎ、雷鳴のような轟音が続く。数秒も、数十秒も。


 ドオオオオオオオオオオオ……!

 ズドォオオオオオオオオ!


 車は?

 トラとフォックスの乗った配送車は?


 ひどい姿になっていた。


 上下さかさまになった状態で、車体の半分が水に()かっている。運転席も上半分が水没しているではないか。仰向(あおむ)けになり、すべてのタイヤを天に向けるトラックの情けない姿はどうだ。


 そんなことより、立ちこめる湯気のすさまじいことよ。

 湯気―――そして水ぼこり。

 真っ白な闇、なにも見えない。


 視界が効かないはず……なのに。



  ドシン!

 


 何者かがやって来た。

 裏返しのトラックの上に、飛び乗った者がいた。飛び乗る……例えではない! 本当に、どこからかともなく飛来した。


 穢卑面(エヒメ)が―――来た。

 

 ひゅるんひゅるん。

 宙に振り乱れる勇者剣の、おそろしい姿よ。新体操のリボンのように……と書きたいところだが、そんな美しいものじゃない。

 ウルミンという武器を知っているだろうか。刀身が薄い鉄板でできた剣だ。


 薄い、と言ってもカミソリとかそんなレベルの刃ではない。長さ1メートルを超える、(ムチ)のごとく柔らかい剣だ。

 まさに勇者はこれだ。

 あろうことか30メートルを超えて揺らめく刀身は、端から端まで燃えている。炎の鞭、いや剣!



『ケケケ、これは何事だ? なにが起きているのだ?』

 ブズブズ、ぶすぶす。

 穢卑面(エヒメ)の左手はもう黒焦(くろこ)げだ。炭化し、異臭を放っている―――焼け崩れてしまいそうだ。


 ルディの腕が炭になってしまう。

 だが、穢卑面(エヒメ)はそんなこと知ったこっちゃない。人間の体などいくらでも替えが効く。

 そんなことより井氷鹿(イヒカ)

 井氷鹿(イヒカ)はいったい、どうしたというのだ!?


『これは……バネか!? バネになっている!』



挿絵(By みてみん)



 穢卑面が叫んだとおり、井氷鹿(イヒカ)のアンテナが変形している。

 トラックのサスペンションのようなバネ。

 バイクのスプリングのようなバネ。

 クリップのような、ねじりバネ。

 バネというバネを結集したような構造に変わっている。


『なぜだ? なんだか知らんがおかしいぞ』

『変なことが出来るようになっている』

井氷鹿(イヒカ)がバネになって飛べたぞ。ここまでジャンプして来れた……どういうことだ?』

『なんだ? なぜこんなことが……』


『ま、どうでもいいか』


 ザバン!!

 ジュウウウウウウウウウウ!!


 勢いよく水に飛びこむ穢卑面(エヒメ)。左手の炎は一瞬で消えたが、立ちこめる水蒸気はさらに濃さを増す。真っ白……数メートル先も見えない。

 

 しゅるん、しゅるん!

 ぶっ壊れたメジャーのように、勇者は穢卑面の左手に戻ってきた。クシャクシャと巻きついていく。覆い隠すように、いや補強するかのように、左手に勇者が巻きついた。

 

『ふむ……勇者が動かん。左腕の神経が完全に死んだな』


 じゃぶ、じゃぶ。

 胸まで水に浸かった穢卑面(エヒメ)は、じゃぶじゃぶと歩き始めた。ゆるやかな川の流れに逆らうように……水中ウォーキングで向かうのは、配送車の後方だ。


 上下逆さのトラック、そのコンテナに大きな損傷は見られない。どうやら水が落下の衝撃を(やわ)らげたのが幸いしたようだ。

 だが荷台のドアが開いている。

 観音開(かんのんびら)きの扉が半分ほど開いている。そこからパン、袋菓子などが入った番重(トレー)が外に流れていく。逆に、荷台もほとんど水没しているだろう。


 だが、(きり)

 周辺は真っ白な霧に覆われ、なにも見えない。すでに20個以上は流れ出た番重(トレー)も、もう数個しか見えないではないか。2メートルも先は、真っ白な闇だ。


 しかし穢卑面(エヒメ)にはなんの関係もない。

 じゃぶ、じゃぶ。

 見えている。

 穢卑面(エヒメ)にはコンテナの中が見えている。ゆっくりと、じゃぶじゃぶと扉に近づいていく。



挿絵(By みてみん)



『この体はもう限界だ。まもなく死ぬ……つぎの(ニエ)はもう決まっている』


『聞こえるか、フォックス。おめでとう、お前が我の新しい体だ』


『ケケケケケ! ケケケケェ!』



 悪魔。

 じゃぶじゃぶと悪魔は近づいてくる。



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終身刑の魔女より

 ↑

いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[一言] 穢卑面、フォックスの体を求めていたのか。 フォックスいなさそうな予感がプンプンするぜ
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