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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第24章「跡形もないスクラップを焼き捨てる愛の終点へ」
220/249

第220話 「スペシャルカップ 150cc」



挿絵(By みてみん)



『おのれッ……おのれえええええええ!』


 バスを襲う振動はすさまじい。だが穢卑面(エヒメ)の目にはトラしか見えていない。

 殺す殺す!

 ぶわぁ!

 左手の勇者剣が……いや上腕を覆う鎧すべてが、ブラインドカーテンのように(ほつ)れる。

『ブッた斬ってやる! くたばれ!』

  

 トラまでの距離はどのくらいだろう。勇者の射程は、最大47メートル。ぎりぎり届く。


 穢卑面(エヒメ)は、最初からトラを殺す気はなかった。トラが死ねば、足枷(あしかせ)が解放されてしまう。


 その結果、こっちが足枷(あしかせ)に呪われてしまったら?


 動くことさえ出来なくなってしまうではないか。

 だからトラを殺す気などなかった。


 いまは違う!


 足枷(あしかせ)が解放されても余裕で逃げられる。こっちは猛スピードで走るバスの上なのだ。まして、トラも遠ざかっている。

 いまなら殺せる! 

 おそらくタンクローリーの運転手が足枷(あしかせ)に呪われることになるだろうが、知ったことか。


 トラを殺す。

 首をハネ飛ばしてやる!

 

 ギュルギュル、しゅばァ!

 勇者剣が紙テープのごとく、投げ(ナワ)のごとく、空中に散らかる1本の帯のごとくトラに(おど)りかかった!

 

 

  だが―――



   ボゥオッッ!!


 

 穢卑面(エヒメ)の左手が燃えた!



『な、なに!?』

 すさまじい熱。

 左手が燃えている。勇者に呪われているはずの左腕が。燃えている!

『し、しまった! フォックス……!』


 穢卑面(エヒメ)の左手に勇者がない。

 鉄壁のはずの左腕は()き出しになっていた。当たり前だ、勇者をほどいてしまったのだから。

 そこを着火(・・)された!


 油断……フォックスが出した炎は、文字通りの導火線だった!



挿絵(By みてみん)



狐火(きつねび)だぜ、化け物」

 フォックスの、恐ろしい声。

 悪だくみが上手くいった人間の表情とは思えない。(みにく)く顔をゆがめ、すごい目で(にら)む。

「ムカつくぜ……アタシに死体を()かせやがって」


 

 ゴゴンッ!!

 車輪を失ったバスは、とてつもない火花を散らしながら路面を(すべ)る。巨大な車体を削りながら、左へ左へとスピンし、ついにフェンスに激突した。


 ドガァアアアアアアアア!!

 スチールの防護(さく)を破壊しながらも、バスは止まらない。遠心力、慣性、もはや衝突実験!


『しまああああああああああああ!』


 穢卑面(エヒメ)が飛ぶ。

 バスから振り落とされた……だけで済むはずがない。壁に激突した勢いで、10トンはあろうバスが()ねる。

 穢卑面(エヒメ)はフェンスを飛びこえ、高速道路から投げ出された。燃える左手を天に伸ばし、穢卑面は絶叫しながら落下する。



挿絵(By みてみん)



『人間め! 人間めぇエエエエエエエエエエ!!』


 雄叫(おたけ)び。

 おそろしい雄叫びをあげて、悪魔は転落していった。高速道路の下はどうなっているのだろう。


 

   ……そんなの人間の知ったことか。


 

「アタシ達のそばで死なれたら困るんだよ。地獄に行って燃えちまいな」

 吐き捨てるフォックス。

 横転したバスを遠目に、やれやれと髪をかきあげる。

「ハッ! バスガス爆発にならずにすんでラッキーだな。いいかげん最悪の1日だぜ」


 と―――ギィイイ!

 

 フォックスの乗ったトラックがゆっくりと停車した。道路の左いっぱいに寄せて停まるや、運転席から女が降りてくる。彼女がドライバーのようだ。


 なになに!?

 ちょっと何!?

 叫びながら、運転手は高速の(はし)()けていく。


 今の今まで、デスレースをしていたことに気づいていなかったらしい。じつに呑気(のんき)なものだ。だがさすがにバスの異変には気づき、運転手を救助に行ったのだろう。

 ()き人。

 会社のトラックを放り出して、救助に向かったのだろう。



 すとん。

 道路に飛び降りたフォックスは、無人になった運転席に乗りこんだ。ほとんど当たり前のように。

 今日、2度目の自動車窃盗。とんでもない女だ。


 ブルンッ。

 エンジンをかけるや、せまい2車線の道をいっぱいに使って車体を反転する。



挿絵(By みてみん)



 キュル。

 キュル、ギュルン!

 ブロロロロロロォォォォオオオ!!


 急発進……ぎゃ、逆走!

 

「どけコラ! はじき飛ばしちまうぞ!」

 パパー!

 ブァパパパパパー!

 クラクション連打。

 もはや正気の行動とは思えない。フォックスは盗んだトラックで、高速道路を逆走し始めた。

「どいてくれ、アタシは正気じゃねえぞ!」

 パッパッパー!


「もしもし、バスが炎上し……ア―――ッ! わ、私のトラック……!」

 持ち主だった(・・・)運転手が叫ぶ。

 彼女は割れた窓からバス内の様子を探りつつ、警察に通報していた。勇敢な行動、それをなんと気の毒に……車を盗まれてしまった。


「か、返せ―――! もしもし!? ト、トラック盗まれました!」

 スマホを手に、彼女は叫びまくる。

 気の毒に。


 1車線をまるまる(ふさ)いで横たわるバスを、逆走するトラックは慎重に避ける。避けるなり、グオンと猛スピードで走り去っていった。

 

 

挿絵(By みてみん)



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終身刑の魔女より

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いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[一言] 本日二度目のGTA! 高速道路…逆走…フォックス免許返納か? これで決着…なのか!?
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