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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第24章「跡形もないスクラップを焼き捨てる愛の終点へ」
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第219話 「マーチ」



挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)




「避けてみな」


 ボゥッ!

 火球を放った! テニスボール大の炎が砲弾のように穢卑面(エヒメ)に飛ぶ。



  直撃―――しない!



 シュバッ、シュバッ!!

 咲き銛の背から……左のトゲが4本、右のトゲが4本、大きく伸びた。まるで巨大なクモ! 槍は穢卑面の背後に伸び、バスの屋根にどすんどすんと突き刺さる。

『ケケケ、避けると思ったか? お見通しだわ』


 ズバン!!

 左手を背後に向けて振るった! 勇者剣が帯状にほどけ、コンテナの屋根を切り裂く。


 速い……レーザービームのごとく、屋根板を切り抜いた。



挿絵(By みてみん)



 盾!

 タタミ4枚分ほどの鉄板が、ぐるんと運転席を覆い隠す。8本の槍が鉄板を刺したまま、バスの正面を隠してしまった。

 


 ボンッ!!

  

 ドンッ!

 ドゥン!!

 ズドン!!


 火球が叩きこまれた鉄板が、すさまじい炎を巻きあげた。だがバスのスピードは少しも落ちない。巨大な炎の壁が恐ろしい速さで迫ってくる。


「ぎゃあ見えない、見えない、見えない!」

 パニックの運転手。

 目の前がいきなり壁にふさがれ、アクセルから足も離せない。死ぬ。死ぬ。死ぬ。

「見えない、見えない、見えない!」


 ギャギャギャ!

 ドガッ!

 ドガァッ!


 右にハンドルを切ってしまった。


 中央分離帯の壁に、バスはガツンガツンとぶつかる。火花―――高さ1メートルの壁が無ければ、反対車線に飛び出していただろう。

 ドガァ!

 バギンッ!

 30メートル間隔に立ち並ぶ照明灯2本にぶつかった。車体が大きくふらつく!

 

「ぎゃあ、ぎゃあ!」

 あわててハンドルを戻す運転手。

 だがその手に……


 ドズン!!

 運転席の屋根を突き破り、ハンドルにも槍が突き刺さった。ドライバーの手の甲を貫通して。

「うぎゃあ―――!」


 くい。

 くいくい。

 槍が器用にハンドルを操るたび、運転手が悲鳴をあげる。

「手が、手が! やぶける、ちぎれるギャア―――!」


 

『これだから人間は使えん……視界をふさがれたくらいでオタオタしおって』

 やれやれと首を振る穢卑面(エヒメ)

『ケケ……しかし車の運転というのはなかなか面白い。そうら、スピードを上げるぞ』

 

 ぐい!

 右足用の槍を押しこんだ。


 ……悪魔め。


 グオン!!

 加速!

 トラックとバスの距離が縮まっていく。すさまじい速さで。


「こりゃひでえ。火を怖いと思ったのは初めてだぜ」

 ジャキン。

 フォックスは5指を高速バスに向けた。バスに、というか……フォックスからは炎の壁が迫ってきているようにしか見えない。

 それがどうした。

 フォックスは、5指をバスに向けた!


 ブゥワッ!!

 火!

 それも流れるような火。ドロドロと糸を引くような……水面に流した油のような火。長い帯のような火が後方に流れていく。


 バスからは、その火は見えないはずだ。前方視野だとか死角だとかいう話ではない。鉄板の盾で視界は(ふさ)がれ、前を走るトラックはもちろん、フォックスの様子など見えるはずもない。 


 ……本来であればな。

 穢卑面(エヒメ)の能力にはなんの関係もないことだが。


『なんだ、あの薄い火は? なんのマネだ?』



挿絵(By みてみん)



 らんらんと目を光らせる穢卑面(エヒメ)

 見えている。

 千里眼の能力で、鉄板など目隠しにもならない。穢卑面(エヒメ)には、フォックスの様子がはっきり見えていた。

 

 だが、なにをしているのかわからない。

 なんだ、あの火は?


『なんだ、あの火は……? いや、ちょっと待てよ。トラがいない』

 穢卑面の目が光る。

 

 いつの間に。

 いつの間にかトラの姿がない。


 どこへ行った? 

 どこへ―――


『おのれ、どこへ行きおった? どこへ……ケケケ! ケッケッケ!!』

 笑う。

 肩を上下させて、人間みたいに笑う。

『なるほどなるほど。フォックスの火は、我の注意をひく(おとり)か』


 穢卑面(エヒメ)は笑う。

 前のトラック……コンテナの扉が半開きになっているではないか。どうやら行方不明のトラは、荷台の中にいるらしい。

 なぜ?

 何をしようとしているのか―――


 穢卑面には丸見えだ!


『ケケケ、人間風情(ふぜい)がどんな策を思いついたのかな? どうれ、見てやるか……大わらわ(・・・・)するマヌケな姿をな』

 

 遠視。

 穢卑面の千里眼は、いかなる物体も透かして見える。トラックの荷台など問題にもならない。


 荷台の中は、弁当、パン、惣菜などの番重(トレイ)がぎっしりと積まれている。それこそスキマなどまったくない。およそ何百人分の食事にあたるのだろうか。これが半日で売れる量だと考えると、人間の食欲とは大したものと言うほかない。


 ……ちょっと待て。

 

『ちょっと待て。トラはどこだ?』

 穢卑面(エヒメ)はギラギラと目を輝かせる。

 だが……

『いない。あれ?』


 トラがいない。

 いったいどこへ―――



  瞬間!


   見つけた!!



『しま……貴様!』


 トラを見つけた。

 (わな)だった!

 荷台のドアは罠だった。


 トラはすでに下車していた。

 中央分離帯の上に飛び降りていた。そして、すでに蹴りを放っていた。分離帯にそびえたつ照明灯の鉄柱に!

 


挿絵(By みてみん)



「んぅるあああアアア! あああアアアア!」

 ズガン!

 ズガンッ……ギィィ!

 2度の蹴りによって鉄柱はへし曲がり、あろうことか車道へ倒れこんできた。


 ドシィンッ!

 車道に横たわる照明の柱。いやもう、ただの障害物。


『ブレーキだ!』

 叫ぶ穢卑面(エヒメ)

 だが止まるはずがない。

 高速バスが猛スピードで、鉄柱の上を通りこえた!


 ドカン!

 ドガ、ドガン!

 大きく揺れる車体! 何度も上下し、何度も左右する。タイヤがすべてバーストした……それどころじゃない!



挿絵(By みてみん)



『うおおおおお!』

 衝撃で盾が……バスを守るはずだった盾が、衝撃で落下した。バスは鉄柱だけでなく、鉄板をも()いてしまう。いや、前輪に巻きこんでしまった。


『き、貴様! おのれァあああああああ!』


 穢卑面はトラに勇者を伸ばそうとしたが、もう遅い!


 トラは去っていく。

 あの一瞬で、反対車線のタンクローリーに飛び乗ったのだ。逆方向へ去っていくバスを笑顔で見送っている。あろうことか中指を立てて。

「あばよ、化物! くたばっちまえ!」



挿絵(By みてみん)



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終身刑の魔女より

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いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[一言] おお、絵の気合の入り方がすごい! まさかトラが穢卑面に勝てるとは!
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