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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第24章「跡形もないスクラップを焼き捨てる愛の終点へ」
218/249

第218話 「オペレーション オン」



挿絵(By みてみん)



『さあフォックス。焼き籠手をこちらにもらおうか』

 高笑い。

『トラ、お前は消えて構わんぞ。足枷(あしかせ)はいらんからな』


『ケケケケ! チークタイムだ、ケケケケ』


 じゃり。

 完全に凍結したドブ川に立つ穢卑面(エヒメ)―――火のような目で、堤防の2人を見上げる。


 なんという姿だ。

 左手には勇者が、そして体は()(もり)井氷鹿(イヒカ)に憑依されている。

 

 魔王城から盗み出した、のか?

 

『好きなほうを選べ、フォックス。おとなしく右腕を切断されるか、首も右腕も切断されるかだ。ケケケ!』


 ガキン。

 ジャキン。

 咲き銛の槍を器用に伸ばし、堤防へ登ってきた。

『ケケケ、さあ手術開始だ……おや?』


 いない。

 2人がいない。穢卑面(エヒメ)は周囲を見回すでもなく、ぼんやりと上を見あげた。

 

 なんとトラはフォックスをおんぶし、高速道路の高架橋を登っている。2本の足でだ。なんかヒーとかワーとか叫んでいるのが聞こえる。



挿絵(By みてみん)



『おやおや、逃げ足の速いことだ……追いかけっことは懐かしい。ルディが修道院のガキとやっているのに付き合わされたな。ケケケ』


 

 と―――カシャァ!


 背後でシャッター音がした。

 穢卑面(エヒメ)はやはり振り返るでもなく、ただぼんやりと立ったままだ。

 

 おい、あれ見ろよ。

 たまげたぜ、仮面レイダーのコスプレか?

 ざわざわ。

 ざわざわ。

 カシャァ!

 

 穢卑面(エヒメ)のまわりをガラの悪そうなのが取り巻きはじめた。わざわざスマホまで取り出して撮影している者もいる。SNSにでもアップするつもりだろうか。


『本当なら殺してやるものを……運のいい奴らだ』

 ジャキ。

 しゅる、しゅる、しゅる。 

 左腕の勇者がほどけていく。包帯のように、リボンのように、1本のムチのように、宙を踊る。しゅるしゅるしゅる。

『5人殺せば咲き銛が解放されてしまう。ケケ……こんなゴミどものために残りポイントを浪費できん』

 しゅるしゅる。

 しゅるしゅるしゅる。


『残念だが、スマホと指を切るだけで許してやる』




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

※※※※※※※※※




 高速道路―――夜ともあってそんなに交通量はない。だからこそだろうか、通る車の飛ばすこと飛ばすこと。どの車も100キロ近く出している。


 そのうちの1台。 

 大手コンビニの配送車の天井に、トラとフォックスはいた。



 風圧がものすごい。

 トラに必死でしがみつくフォックス。対向車線を走る車の運転手はみな、トラックの屋根で抱き合う男女を見て、仰天していた。

 2車線&2車線の高速道路はどこまでも続く。次のインターまでは16キロ……そんなにあんの!?

 

「おいおい、やべえぞコレ! よりによってこのタイミングで来るかオイ!」

「最悪だ、詰め合わせセットで来やがったぞ! お中元(ちゅうげん)かよ!」

 ワーワー。

 ヒーヒー。


「なんてこった、追ってきてるか? いや追ってきてるに決まってんぞ」

「待って。あいつのことはなんて呼びゃいいの? ルディでいいの? 穢卑面でいいの?」

 ワーワー。

 ヒーヒー。


「穢卑面だ穢卑面! もう、その……あれは穢卑面!」

「話はここまでだ、来やがったぜ……!」



挿絵(By みてみん)



 ぞっ。

 後方をにらむトラ。

 

 遠くから猛スピードで迫ってくるバスがある。高速バスのようだ。早い……おそらく120キロ以上で向かってきている。その運転席の上にヤツ(・・)はいた。


 すさまじい風にルディの……いや穢卑面の髪はふり乱れ、そのシルエットはもう人間にすら見えない。

 ずるりと伸びる1本の槍が、バスの運転席の屋根を貫いている。風圧で飛ばされないように……それもあるだろうが、もっと恐ろしい理由。

 恐ろしい。 


『遅い……もっと飛ばせ』

 ぐりぐり。

 ぐりぐりぐり。

『アクセルから足を離すなよ。左足のようになるぞ』


 グオン!

 バスはさらに加速する。


「ぎゃああああアあ! ああァ―――あ―――!!」

 運転手は叫ぶ。

 激痛に耐えかねて……こんな痛み、耐えられるはずがない。座席はもう血の海だ。ドライバーの右足には槍が食いこみ、ぐいぐいと押されているらしい。大腿骨(だいたいこつ)を直接、ぐいぐいと。

「アぎゃあああぁああアあああ!」



挿絵(By みてみん)



 必死にハンドルを操作する30代半ばの男。まばたきも忘れ、死に物狂いで叫ぶ。自分になにが起きているのか、状況を理解できるはずもない。

 だが左足でブレーキを踏めばスピードを落とせるのでは?


 できないのだ。

 すでに左足を刺され、太ももの筋を断ち切られているからだ。


 サイドブレーキのレバーも、シフトレバーも、キーも折られている。おそらく今から客先に向かうところだったのだろう、車内には彼のほか誰もいない。助ける者は誰もいない。

 加速するしかない。

 加速するしかない。

 

 トラたちの車両まで、あと数十メートルに迫る。



『ケケケケ! おっと……そう来たか』

 不敵に笑う穢卑面(エヒメ)

『いいとも、撃ってこい』



 ドドドド……!

 約12キロほどの直線道。徐々に距離が縮まる2台の車。


 前方を行くトラックの屋根で、フォックスのマントがはためく。屋根にヒザをつき、キャッチャーのような体勢を取った。



挿絵(By みてみん)



「オーナー! めちゃくちゃ怖いんですけど!」

 叫ぶトラ。

 

「じっとしてろ、動いたら怒るぞ!」

 フォックスも叫ぶ。

 トラの足に、ぎゅっと左手でしがみつく姿の小さいことよ。穢卑面(エヒメ)()籠手(ごて)を広げた。

「避けてみな」


 ボゥッ!

 火球を放った!



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終身刑の魔女より

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いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[一言] この穢卑面のデザインカッコいいなぁ 高速道路の戦いとは燃えますね。 いや、穢卑面好きだわ
感想一覧
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