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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第22章「とてつもないパワーを焼き捨てる脱力劇へ」
209/249

第209話 「アクアレッド」




挿絵(By みてみん)





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


※※※※※※※※※※※※※※※※※※


※※※※※※※※








挿絵(By みてみん)





挿絵(By みてみん)



「ぶはあッ! はあ、はあ……」


 水中から、トラが浮かび上がってきた。はげしく息を乱し、ゲボゲボと水を吐き出す。よく生きてたものだ。

「はあ、はあ……」


 湖。

 広大な湖。トラは水面に立ち、あたりを見渡した。ひろい……岸まで数百メートルはありそうだ。しかし圧巻なのは上だ。

 ものすごい断崖。いや石垣だ。40メートルもあろう石垣のうえに魔王城が見える。あ、あんなところから落ちたのか。いまごろゾッとしてきた。





 ……いや。


 いや、ちょっと待て。どこに立ってるだと?





「ふう……あ?」

 ため息をつくトラだったが、なにかおかしいことに気づく。いや戦慄(せんりつ)する。

「な、な、なんじゃこりゃ……?」


 水面に立っている。

 なんとトラは、水の上に立っているではないか。2本の足で……ウソだろ!? 

「お、お、俺は……死んだんか?」

 固まる。

 湖面に立ったまま、トラは固まる。



「ヘイ、死んでねえよ。アタシもお前もな……ゲホッ!」

 おなじく水面に顔を出すフォックス。

 よかった、生きてた。


 トラとちがい、胸から下は水中だ。浮き輪につかまった状態とでも言おうか、焼き籠手は発泡スチロールくらいの浮力を得たらしい。フォックスを浮き上がらせてなお、籠手は半分以上、水から浮き出ている。


「足首見てみろよトラ。お前の長靴、そんなの(・・・・)無かったハズだぜ。ゴホッ、ゴホッ!」


「……え? あ! あ、あ、ああ……なんてこった」

 水の上でうずくまるトラ。

 長靴の足首に、なにか見慣れぬものを発見した。突起状の部品になにか(・・・)がある。キーホルダーのように、分銅みたいなのが垂れ下がっている。両長靴に1個ずつだ。

「……いらねー、こんなの」


「アタシのも見ろよ。邪魔くせえなぁ、コレ」

 ちゃぷ。

 フォックスが(かたむ)けて見せた籠手。2本の筒のような部品が、(あら)たに加わっているではないか。

「これ……水な義肢、だよなあ」



挿絵(By みてみん)



 複雑な心境だった。

 マリィのアイテムに呪われるのは、なんだか形見を受け取ったような気分だ。フォックスにとっては。


 トラはちがう。

 まさか、まさか2つのアイテムに呪われるなんて……!


「あ、あああ、ああああああ!! 来るんじゃなかったぜえええええ!」

 叫ぶ。

「ホント! なんで! なんでこうなるんだよ!」



挿絵(By みてみん)



「シー! 黙れ!」

 怒るフォックス。


「俺の旅の目的は! 長靴を脱ぐことだボケ! 最初っから、ずっとずーっとだ! 一度もそっから脱線したことなんかなかったぞ!」

 バンバンと水をたたくトラ。

 もう泣いてるのか水浴びをしているのかわからない。

「みんなが俺の邪魔をしやがる! なんで邪魔すんだよ! フォックスは呪いが解けなくなってもいいとか言い出すし! やっと見つけたアモロでも呪いは解けねえ! もう俺の呪いは解けねえんだ! おおおおおお!」

 じゃぶじゃぶ。


「落ちつけっての。犬じゃねえんだ、水を掘ってもなんにも出てこねえぞ」

 

「こ、こ、これが落ちついてられるか! いったい俺は、なにと戦ってんだよ! なんだって魔王の軍団なんぞを敵にまわすハメになってんだわあ―――!」

 湖に、大の男は泣く。

 ズブズブ……なんかちょっと沈んできた。



「ヘイヘイ! 沈んでる!」

 あわてて止めるフォックス。止めるっていうか……止められない。トラはどんどん沈んでいく。

「いや解けるだろ、呪い。シーカにパクられたパーツは、お前の長靴に戻ったんだぜ。今のお前なら、1億歩だって歩けるだろ」


「ウソだウソだウソだ! もうこのパターンわかったわ! どうせ水な義肢の部品をそろえてからでなきゃ、長靴のカウントも始まらねえに決まってる! 俺はもうおしまいだうわあ―――!」


 泣きじゃくる。

 トラはもう、ヒザまで水につかってしまった。緊張の糸が切れたためだろう、わんわん泣きじゃくる。補足しておくが21歳の男です。



「悪いほうにばっか考えるんじゃねえよ。おしまいかどうか、いま(うらな)ってやる。籠手よ籠手よ、籠手さん。魔王はどーこだ」



『あっち』

 じゃば……ビシ!


 焼き籠手は勢いよく、湖の向こうを指さした。城とはまったく見当違いの方向。フォックスが満面の笑みを浮かべた。

 邪悪な笑み……ガッツポーズ!

「よぉおおし、よしよしよし! 籠手さん籠手さん、ニニコはどーこだ。ついでにシーカも」


 ビシ。

 籠手は動かない。さっきと同じ方向を指さしたままだ。


 いや、動いた。

 ゆっくりと城から遠ざかるように移動しているらしい。


「グッド、グッドグッドグッド!! どうやら魔王の誘拐に成功したみてえだぜ。やっぱ神様は見ておいでだな」



「神なんかいない! ああああ、いないあああああああ!」

 泣き叫ぶトラ。

 

「咲き銛が聞いたら怒るぜ。あ、そうだ。あいつにゃ700万ナラーの貸しがあったんだっけ。やっぱ教会に戻るっきゃねえな」

 笑う。

 にひにひとフォックスは笑う。

「ああ……こんな開放的な気分は初めてだな。生きてるってのは最高だ。きっとダウナー系のヤクでもこうはいかねえぜ。ふう……」


 きらきら。

 湖面がまぶしくきらめく。まぶしい―――


「こりゃゴキゲンな展開だ。魔王を人質になんでもできるぜ。まずはハムハムの無事を保証させるだろ。でもって、アタシの犯罪歴を抹消させる。いっそ死んだことにして、新しい戸籍を用意させるとかできねえかな」

 ぷかぷか。

「そうだよ、それいいな! 死んじまえば、もうサツに追われずにすむわけだ。生まれ変わった気分で放火屋やれるってわけだ。トラとニニコと3人でよ」


「もう死にたい! 俺も死にたい、わあ~!」

 ぱちゃぱちゃ。



挿絵(By みてみん)



「くそったれ、焼き籠手はアタシのもんだ。絶対、連中になんか渡さねえぞ。アタシが死んだら魔王の好きにすりゃいいさ。それまではアタシのものだ。アタシの……」

 じゃぶ。

 うっとり、籠手に(ほお)ずりするフォックス。

「トラももう、死ぬような思いする必要ねえぞ。あとはアタシがうまく魔王軍と交渉してやるからよ。ああクソ、要求リストを作んなきゃ始まらねえよ」

 

「なんなんだよ俺の人生は! こんなマンガみてえな人生もうたくさんだ! 最悪のマンガだ、打ち切りマンガみてえな人生だわあー!」

 ぱっちゃぱっちゃ。


「もうなに言ってんだか……マンガがどうしたってんだよ」

 ちゃぷちゃぷ。


「俺の人生は敵ばっかだった! なのに、なのに……ラスボスがなんなのかわからねえ! 最終的になにを倒せばいいんだよ! ゴールラインがわかんねえから、なにを目的に生きりゃいいのかわかんねえんだようわあ―――!!」

 ぱっちゃぱっちゃ。

「もしほんとに神がいるってんなら! ラスボスがなんなのかはっきりさせてくれ! どうすりゃハッピーエンドになんのか教えてくれうわあ―――!!」

 ちゃぷちゃぷ。


「あのなあトラ……マンガじゃねえんだぞ?」

 ためいき。

「マンガみたく、倒して終わりのラスボスなんぞいるわきゃねえだろ。大人になれよ、いいかげん」

 

「頼むからもうこんな人生、打ちきってくれ! 俺はもう死ぬ! 溺死する! さようなら……ああ…………いや、なんで沈まねえんだよ!」

 

 今度はまったく沈まないトラ。

 どうやらコントロールの効かない浮力らしい。水面で地団太(じだんだ)を踏む。バッチャバッチャ。



「俺の敵はいったいなんなんだよォ―――! どこにいやがるんだ、出て来やがれおあああああああ―――!!」

 

「しょうがねえな、これが終わったらいいことしてやるから。ホラおいで、逃げるぞ。歩けるな? ついて来い」


 スイ、スイ。

 フォックスは泳ぎ始めた。トラのズボンを引っぱって、岸まで連れて行ってあげる。声の限り、(はげ)まし続ける。

「がんばれ、ハムハムは城の中でひとり耐えてんだぞ! アタシ達は魔王をつれて逃げなきゃなんねえんだ。なあに、ニニコがきっと上手くやってるさ」

 

 驚くべきことにトラは歩く。水の上を……幼児のように泣きながら。まさに水な義肢の能力そのものではないか。おそろしい能力を得てしまった。


 ノルマの1億歩は、いまどのくらい消化しているのだろうか。あるいはトラが言うように、水な義肢の呪いを解くまでカウントは始まらないのだろうか。大丈夫だと信じたい。


「はあ、はあ。もうダメだ……ちょっと休憩」

 15メートルくらい泳いで、フォックスは力尽(ちからつ)きた。ぷかぷかと浮く姿は、まるでラッコではないか。

 籠手は " 水な義肢 " を得て、どう変わったのだろうか。恐ろしいことにならねばいいが。



挿絵(By みてみん)



「もうこのまま死ぬ―――!」

 ずぶずぶ。 

 トラは首まで沈んでしまった。


 天空にそびえる魔王城からは、まだ黒煙が立ちのぼっている。


 あ、いま……ウウウウウウ!!

 サイレンが聞こえてきた。どうやら消防車と救急車が到着したらしい。これでもう大丈夫。火は消えるだろう。


 魔王なき魔王城は、はたしてこのあとどうなってしまう?

 魔王なき魔王軍は、はたしてこのあとどうなってしまう?


 ……魔王をさらった愚か者たちは、はたしてこのあとどうなってしまう?


 その愚か者を逃がすため、魔王城に残った者はどうなってしまう?


 恐ろしく長い半日だった。

 呪いが解けなかった者たちよ、新たな呪いを得た者たちよ。お疲れさま、そして聞いてくれ。



 ようやく本編がはじまるぞ。















挿絵(By みてみん)





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終身刑の魔女より

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いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[一言] 足枷を浮かせるって、どんな浮力だ!? と、つい突っ込んでしまいましたよ。 >トラの叫び 何となく、作者様の活動報告のノリが思い出されます。 >ようやく本編がはじまるぞ。 本編!?
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