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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第22章「とてつもないパワーを焼き捨てる脱力劇へ」
207/249

第207話 「ハピネス」



挿絵(By みてみん)



 シーカと朽ち灯が、またひとつとなった。


『クク……完全復活だ』

 シーカの手に、朽ち灯はふたたび籠手となった。

「さい、こう」

 感無量のシーカ。


『さあ、もうこんな城に用はない。脱出するならさっさとしろ……と言いたいところだが。その前に、水な義肢をなんとかせねばな。食うても美味くなさそうだが』

 恐ろしいことを言う籠手。

『お……ほう? ニニコもやるではないか。すこし見直したわ』


 めずらしくニニコを()める朽ち灯。

 ニニコは……


 匍匐(ほふく)前進し、アントニオの背後に忍び寄っていた。太ももから伸ばした触手の1本が、スルスルと地面を()う。

 盗む気だ。

 そっと彼のポケットから車のキーを……盗まない。

 

 触手の動きがピタリと止まる。

 ニニコはキーを盗まない。

 なぜ?


 なぜもへったくれもあるもんか!

 ニニコを()めるな!!



「……私、なんで煙羅煙羅に使われてるの? ニニコ、あんたそれでも人間なの? 恥を知りなさい」

 ひとりごと。

 そして、バシンッ! 

 せっかく伸ばした触手を戻し、自分の顔面をはり飛ばした。


「なに考えてるのニニコ。化け物と戦ってる人から盗むなんて、人間のすることじゃないわ」

 ヒリヒリ。

 ()れたほっぺたなど知ったことか、ぎゅっと拳をにぎりしめる。

 


『アアアアアアア! 誰でもいいから殺させろァアアア!!』

 吠えまくる()義肢(ぎし)

 身勝手な、そして(みにく)いバケモノ。

『水、水さえあればこんなことにはあああああああ!!』

 

 ブウン!!

 大振りの一撃がアントニオを襲う!


「ぬおッ……がはぁ!」

 バギィ!!

 アームに跳ね飛ばされ、アントニオは地面に叩きつけられた。頭から落下……何度もバウンドし、ニニコのそばに横たわった。

「ぐぶぅ! うぐ……」



挿絵(By みてみん)



「だ、大丈夫? しっかりして……しっかりして!」


 車のキーなどもう知ったこっちゃない!

 ニニコは彼を助けに向かった。アントニオの(アゴ)は砕け、口からは血があふれる。とめどなく、あふれる。

 このままでは窒息死してしまう。


「い、いけない……ン、ンン! ヂュウ、ヂュウ……ベッ!」

 ニニコがアントニオの口内を吸う。

 ぢゅう、ぢゅう。

 何度も何度も、血を吸っては吐き出す。

「ぢゅうう。ぢゅうう、ブベッ! はあ、はあ……ぢゅうう。ぢゅうう、ブベッ!」


「がはっ! ごほごほ……」

 気づいた。

 アントニオは息を吹き返してくれた。

「はあ、はあ。はあ、はあ……ごふッ! はあ、はあ……!」 

 

「よかった。ゲップ、ちょ……ちょっと飲んじゃったわ」

 ホッとしながら吐き気をもよおす。

 ニニコの場合、()白闇(しろやみ)の能力があるから、血を飲んだくらいじゃ病気にならないと思うけど。



 それよりその背後では―――



『があああ! げ、限界だ! ()りつかねば、はやく憑りつかねば……女! 誰でもいい、女アアアア!』

 暴れる()義肢(ぎし)

 ドカンドカンと地面を殴りはじめたではないか、まるで痛みに耐えているように。


『女! 女!! 女女女女女女女女女女女女女女女女女女!』

『女……そこにいたか、女! 我に来いぃいいいいいいいいいい!』


 ……おぞましい怪物。

 怪物がジェニファーを見つけてしまった。左のアームが、ぐんと伸びる。

 ヘビ。

 まるでヘビ。



「あ、あ、キャア―――!」

 悲鳴。


「ジェ、ジェニ、あぶな!」

 ドン!

 シーカがジェニファーを突き飛ばした。いや守った。朽ち灯を開いて迎え撃つ……だが質量がぜんぜんちがう! 

 朽ち灯もろとも左腕をつかみ取られた。

「う・お!!」


 腕がもげる、いや引きちぎられる!


「シーカさん……きゃあ!」

『女ああああああああああああ!』


 もう1本のアームが暴れまわる。今度こそジェニファーを……いや、ジェニファーを遠いと見た()義肢(ぎし)は、ニニコにアームを伸ばした。


「ぎゃあ!」

 飛びあがるニニコ。もうだめだ、避けられない!


 ガシィ!

 捕まった!

『女、女だああああああああああ!』



挿絵(By みてみん)



「ぐは……!」

 

 ニニコ、じゃない!

 捕まったのはハワード隊の女……マスクをした女! 


 アントニオがやられたとき、彼のもとに駆けつけたのはニニコだけではなかった。彼女も救護に向かい、そしてニニコをかばった。

「ぐああああああああああああ! あ、あ……」

 細い体が、水な義肢の怪力で持ち上がる。マスク女の腹はめりめりと(ゆが)んだ。

「ぎゃああああ―――!」


『女……いい! いい……!』

 


「こ、このバケモノ! やめろ、やめなさい!」

 血まみれのニニコ。

 全触手を解放し、水な義肢に立ち向かった。恐怖など……怖いに決まっている! それが、それがどうした!

「こいつめこいつめ! 離せ、離しなさい!」

 

「シーカさん!」

「クララ!」

 水な義肢に捕まったシーカと……以下、女をクララと記載する。シーカとクララを助けんと、すべての人間が立ち向かった。


 人間を、人間をなめるな!



「この野郎! クララを離せ!」

「乗っかれ、乗っかるんだ!」

 水な義肢の表面を(おお)いつくす人間たち。


 原始的な戦闘だった。

 考古、マンモスを狩る光景とはこんな感じだったのだろうか。群と巨の戦い。



挿絵(By みてみん)



『邪魔だアアアアアアアアアア!』

 ブンッ!!

 

 ドガガガガガガ!!


「ぐえ!」

「ガハァ!」

「おげっ!」

 シーカを捕らえたまま、大蛇のように暴れ狂うアーム! 全員をなぎ倒す!


「が・あああああああああああ!」

 何度も地面に叩きつけられたシーカは、全身をヤスリがけ(・・・・・)されたも同然だ。だが水な義肢は、興味なしとばかりにシーカを放り捨てた。

 血ダルマになったシーカは、無残に地面に転がされる。

「が、は……」


『おいシーカ! 無様な……弱虫め。復活してそうそうこれか』

 左手でボヤく朽ち灯。

『フン、水な義肢め。調子に乗りおって……だがあの調子だと、あと10分足らずで活動限界だな。いいザマだわ』



『ああああああ! 限界だああああああ!!』

 水な義肢の絶叫がとどろく。

 もう止めるものはいない、誰にも止められない。 

『女、呪う、呪う、呪うぅぅうう!!』


「ぐは……あっあっ……」

 クララの悲鳴。

 手足をつかまれた彼女は、水な義肢に()しかかられるように地面に押さえつけられた。

 

『背がある。背……肩、首……ははははあああああ……』

 もはや強姦魔。

 がちゃ、がちゃとアームがバラけていく。クララの白い腕を押さえ、足をつかみあげ、とうとう水な義肢は彼女に憑りつき始めた。

 がちゃがちゃがちゃ。


『背がある……4242隻の船を沈めろ……』

 がちゃ、がちゃ、がちゃ。

『ひひひひ、ひひひひひひひ』


「が、は」

 クララの顔はマスクで半分が隠れている。だがその苦痛に満ちた様は、誰の目にも明らかだ。さっきまで水な義肢を引きはがそうと必死に抵抗していたが、ついに大人しくなった。

 最後の力をふりしぼり、マスクをずらして。

 クララは……


「あ……あ……アッアッア」

 笑った。

 (とが)った歯が並ぶ大きな口。

「アッアッアッ、う、うれしい、アッアッアッアッ」


『うれしかろう! 嬉しいだろう!』

 ザラザラザラ。

 


「アッアッアッ。私を呪ってもアッアッ、意味ないんだよアッアッアッ。魔王様がすぐにアッアッアッ、呪いを解いちまうから、アッアッア」

『……は?』


「今度はアッアッ、鉄の箱にでもアッアッ、封印してやるアッアッア。砂漠にでも埋めてやるアッアッ。テレビもネットもないアッアッ、明かりもない棺桶に封印して埋葬だアッアッア」

『……は……は、は!」


「何千万年何億万年、アッアッ、人類が死に絶えたあともお前は、アッアッ、ひとりきりで地の底だアッアッ」

『……』


「私は人間に生まれてアッアッ、よかったアッアッ。永遠なんてアッアッ、おっかないものにアッアッアッ、(おび)えずにすむアッアッ」

『……ひ』


「アッアッ。私はアッアッ、悲惨な人生を送ってるやつにアッアッ、幸せを見せびらかすときアッアッ、アッアッ、アッアッア」

『ひ、ひ』


「アッアッア。激烈な快感を覚えるんだ……イく、イっちまうの」



挿絵(By みてみん)



 なんという、なんという顔……うっとりと幸福に満ちたクララの顔。その口からとろりとこぼれた舌は、先っぽが2つに割れているではないか。

 しかも、タトゥーとピアスまで入っている。

 ヘビ。

 まるでヘビ。



『ひ、ひ、ヒイイイ!!! うわああああ―――!!』

 水な義肢は、よほど恐ろしかったのだろう。クララを放り捨てて逃げ出した。なにがそんなに恐ろしかったのだろうか。

 舌が?

 いや……まさかそんな。 

 

『化物だあ――――――ひぃいいいいいいいいい』


 水な義肢は逃げる。

 両アームをめちゃくちゃに動かし、犬かきをするように逃げていく。あわれな、あわれな虫のように。

『助けてくれ! 助けてくれえ―――!!』

 ゴロゴロゴロ。

 転がる。転がりながら、魔王城のなかへと逃げていった。壁の穴をくぐり、黒煙のくすぶる食堂へと消えていった。


 どこへ逃げようというのだろう?

 きっと地下に向かったに違いない。安息の、あの封印室へ。



挿絵(By みてみん)



 水な義肢の脅威は去った。

 だがその代償はどうだ……立っている者はもういない。いちばんの重傷者はアントニオだろう。重傷どころのケガではない。

 だが、ほかのみんなも同じようなものだ。とくにクララは……クララはもう、助からないかもしれない。

「ギャハハ! 私が追っ払ってやったんだぜ、ギャハハ!」

 笑い死ぬかもしれない。



『見事だったぞ人間ども! さあ立ちあがれ、我こそはという者はここに集え!』


 短い手足をふりふり、SUVの屋根で煙羅煙羅はスピーチをはじめた。

 ていうか、いつのまに車へ?

 マオちゃんはどこいった。 


『魔王さまに忠勇を誓う者たちよ、ここに参れ! さあ名乗り出よ!』

 プシュー!

 プシュ!

 煙を噴き出しまくる。




 マオちゃんは? 


 マオちゃんは……車のカーゴスペースで爆睡していた。


 ハイドランジアの吸いすぎによる意識障害だろう。むしろ、よくここまで起きていたものだ。バックドアを怪力でブチ開けるや、ごろんと車内にもぐりこんで寝ちまった。


「スヤ……グーグー」


 おやすみ、マオちゃん。



挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)










挿絵(By みてみん)



sbnbさんからいただきました、フォックスだコレ!


リボンと言ったらニニコなんですが、フォックスも似合いますね。

いや、俺の絵で描いても違和感しかないんでしょうけど。


( ˘ω˘ ) 露出度が高いなあ……


右手の防御力100に対して、他が4くらいしかないぜ。

sbnbさん、ありがとう!



チャッカマン・オフロード、この章もあと2回で終幕です。

もうちょっとだけお付き合いのほどお願い申し上げます。




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終身刑の魔女より

 ↑

いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[一言] クララはいいキャラしてますね~ 水な義肢がビビり過ぎなのが面白いw
[一言] クララと言えば「クララが立った!」ですね! とは言え、このクララさんはあんまり立ち上がって欲しくない感じ(汗)。 こちらではご無沙汰です。 200話はちょっとびっくりしました。 ただ、今自…
[良い点] 壮絶なる死闘の果てに・・・ 嘗ての悪夢は消えていった。 二度と背負い込む必要のない暗黒へと。 凄まじいぃいいいぃ~ッ! [気になる点] クララの顔に絶句。 [一言] 復活にかける水な義…
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