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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第22章「とてつもないパワーを焼き捨てる脱力劇へ」
206/249

第206話 「ウィズ ユゥ」



挿絵(By みてみん)



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



挿絵(By みてみん)




 魔王城の裏。

 ニニコ達がどうしてたか、覚えてる? 

 

 脱出用の車を要求していたところだ。 

 キーを渡すの渡さないので、シーカとアントニオは対峙していた。


「マオちゃん、あのモヒカンにキーを渡すように言って! このままじゃラチが明かないわ!」

 いよいよ癇癪(かんしゃく)をおこすニニコ。

 アントニオに怒るよう、マオちゃんに怒る。


「そりゃケッサクだ! パンナコッタだって!」

 なにを言うとんねん。 

 腹をかかえて笑うマオちゃん。ハイドランジアの効果が絶好調のようだ。



 たまりかねたのか、シーカが動いた。もちろんまだジェニファーを捕まえたままだ。彼女を人質にしたまま、一歩前に踏み出す。

「あ、あ、あの男に・近づいてくれ・ジェニファー」

「は、はい」


 ジェニファーの喉元(のどもと)には、朽ち灯の1個が浮いている。そして背中にも、朽ち灯ブロックを突きつけられていた。そんなジェニファーだが、抵抗する意思があまりないように見える。

 それもそのはず、なんというか彼女にとってこの状況は……小さいころからの(あこが)れそのものと言っていい。

 ワイルド系のイケメンにさらわれ、逃避行(とうひこう)するロマンスとでも言おうか。シーカに誘拐されることは、ジェニファーにとってこの上ないドラマチックな状況と言えた。病気だ。

 

 アントニオが叫ぶ。

「おい動くな! ジェニファーを離せ、俺が代わると言っただろ!」


 ジェニファーは……

「かまいません副部長! 私が、私が最後まで魔王さまにお(とも)します! おかまいなく」


 なんという勇敢なセリフ。他の隊員らは感嘆の声をあげた。


「ジェニファー、お前というやつは……見なおしたぞ」

「君こそ真の戦士だ! 社会人の(かがみ)だ!」

「かならず助けに行くからな! 魔王様をまかせたぞ!」

 


挿絵(By みてみん)



 マスク女だけが疑いの目を向ける。

「ジェニファー。なんかお前、ちょっと楽しんでないか? 私にシラは切れねえぞ」


「ちょっと全員黙れ! ジェニファー、バカなこと言ってんじゃない!」

 怒るアントニオ。

 ふつうに人質に行ってしまわれては、時間稼ぎ作戦が台無しだ。

「行かせねえぞォオオオ!」

 車に駆け寄り、アントニオは運転席のドアを開けた。そしてクラクション!


 パパー!! 

 パッパッパー!!

 魔王城にいるすべてのものよ、ここに集まってくれ! パパパパパ―――!



「ふ、ふ、ふざけんな! 人質が見えない・のか!」

 怒るシーカ。


「やめて下さい、副部長!」

「ちょ……みんな取り押さえるんだ!」

「ミゲル、足を持て! 車から引きはがせ!」


 他の隊員がいっせいに掴みかかる。 

 大男3人に取り押さえられるアントニオ―――


「は、離せ! わからねえのか、これは作戦……このクソ無能ども!」

 パパパパパー!!

 クラクション連打。


 なんかもう、ドタバタ劇さながらの裏庭。



『くははは……感じる。感じるぞ』

 笑う朽ち灯。

 ザラザラと飛びながら、不気味な声をもらす。

『面白い。まさかこんなところにいるとはな』

『ひどくおかんむり(・・・・・)のようだ。クハハ』






   次の瞬間。





 ドガガガガガガガガガガガガ!!

 ガガガガガガガガガガガ!!

 ズガンズガンガガガガガガガガガガガガ!!


 轟音。

 魔王城の空に、すさまじい轟音が鳴り響いた!

 

「ギャ……!」

「ヒィ」

「うわ……!」

「ふ、伏せろぉ!!」

 ニニコと言わずアントニオと言わず、その場にいた全員がうずくまる。銃声……これが銃声!?

 百万発の(かみなり)が落ちたみたいな爆裂音が続く。


「ま、マオちゃん、伏せて!」

 ニニコがマオちゃんのスカートを引っぱる。だがボロボロのスカートがちぎれただけで、マオちゃんは空を(なが)めて微笑(ほほえ)むばかりだ。


「あはァ、この音はジャベリン12.7ミリ弾だね。タラララッって音がいい」

 (おど)る。

 ワルツのようにマオちゃんは踊る。首に巻きついた触手が、さらに巻きついていく。


 1分。

 いや2分も銃声は続いた。そして―――



 ドシャアアアアアアアアアアアアン!!


 今度こそ雷! 

 いやちがう、巨大ななにかが降ってきた!




挿絵(By みてみん)



『おのれああああああああああああああああ!!』

 ガシャアアアアアン!

 裏庭になにかが降ってきた。これは……ドラゴン!? 


 ちがう!

 鎧だ!


『殺してやるぅあああああああああああああああああああ!!』

 まるでヘビ。

 まるで腕の化け物!

 全身に、どういうわけか(かわら)を貼りつけた鎧が降ってきた。ドカンと地面に叩きつけられるなり、大暴れを始めたではないか。


 ハワード隊はもうパニック。誰もが悲鳴をあげて距離を取る。


「うぎゃあ! こ、こりゃ……()義肢(ぎし)! ()義肢(ぎし)だ!」

「な、なんでこんなとこに! どっから降ってくんだよ、ぎゃあ!」



「な、な、なんだ・ありゃ……!」

「み、水な義肢!? 鎧のひとつですよ!」

 シーカにしがみつくジェニファー。

 

『クハハ。我のいちばんキライなやつのご登場だ』

『1548年ぶりだが、あいかわらず笑えるな』

『大嫌いだ』

 ザラザラザラ……!


「全員逃げろ、呪われるぞ逃げろ逃げろ!! くそ、化け物が! 俺が相手だ、こっちを見やがれ! 見ろオラアアアアアアアアアア!」

 アントニオは地面に捨てたトランク銃を拾いあげた。すかさずぶっ放す!

 ガガガガガン!!

 ガガガガガガァ!


 あれ?

 銃に貼りついていた煙羅ブロックは、どこへ行ったのか?



『指……我の指が……!』

 ギャギャギャンッ!

 9ミリ弾など()義肢(ぎし)には通用しない。弾丸の雨を浴びて、ビクともしないではないか。

 というか、この場にいる人間など見えてもいない。魔王にも朽ち灯にも煙羅煙羅にも気づいていない。

 ひたすら指の欠損を嘆きまくる。

 自業自得だというのに。

『おのれ……我がこんな屈辱を……おおおおおおおのれえええええ!』

 

 めちゃくちゃにアームを振りまわす。

 地面と言わず、魔王城の壁と言わず、つぎつぎと殴りまくる()義肢(ぎし)。もはや嵐だ。


 アントニオの銃撃はやまない。

 ズガガガガガガガガガ!!



「キャー、キャーキャー!」

 あまりの恐ろしさに、ニニコはうずくまる。怖い、怖い!


『なにをしているニニコ。さっさと立て。魔王様をお守りせんか、ウスノロめ』

 口の悪い煙羅煙羅。

『我は魔王さまを車にお連れする。お前は銃を撃っているあの男から、車のキーを奪え。さっきズボンの右ポケットにしまうのが見えた。さっさとしろ』



「か、勝手に決めないで! いつもいつも好き勝手に命令して、いったい何様なの!」

 ニニコは泣く。

 顔をくしゃくしゃにして泣きわめく。

「なんで私ばっかりひどい目に合わせるの! 煙羅煙羅はいっつも私だけ守ってくれない! どうして!? 私がアンタになにかした!?」

 

『ふざけるな、我のネジを食っただろうが! お前のせいで散々だわ!』

 短い手足を振りまわし、煙羅煙羅は怒る。

 プシュー!

 頭から蒸気を吹き出した。

 

 

 …………?


 !?






挿絵(By みてみん)




「煙羅……え?」

 ぽかんと眺めるニニコ。

 そして絶叫!

「きゃあ! 戻ってる!?」



 煙羅煙羅!!

 煙羅煙羅がもとの……ゆるキャラになっている!!


 

「あはあ、シーカ君の魔力が戻ったのかにゃ?」

 マオちゃんは、煙羅ロボを抱きあげた。


『お待たせいたしました魔王様。さ……お車のご用意が整いましてございます。参りましょう』

「うん」

 

()義肢(ぎし)め、派手に暴れおって。魔王様の御前でなんという有様だ、面汚(ツラよご)しめ』

「へ? 水な義肢なら地下に封印してあるけど。あ、あれ? じゃあ、なんであそこにいるんだろ? まあいいや、ちょ、なにかが首に……なにこれ邪魔だ」


 首の触手を振りほどき、マオちゃんは車へと歩き出した。



挿絵(By みてみん)



「……」

 ぼうぜんと見守るニニコ。

 まだ腕の化け物が暴れているというのに、なんだかすこし怖くなくなった。それより事態に頭が追いつかない。

 

『ニニコ! なにをしておるか!』

 マオちゃんの腕に抱かれたまま、煙羅煙羅は怒る。

『さっさとキーを奪え! 上手くいけば、魔王様への数々(かずかず)の無礼は不問にしてやる。さあ行け!』


「ビクッ……! う、うん!」

 ニニコは走り出した。 

 アントニオは機関銃を手に、ひとりで()義肢(ぎし)と戦っている。背後に回りこみ、キーを()り取るのだ!

 両親が死んでからずっとずっと、人の物を()って生きてきた。そのおかげでいま生きているし、トラたちに出会えたことになる。

 だから、だから……


「やってやる。やるのよニニコ、私なら出来るわ」

 自分を(ふる)い立たせた。



 そしてシーカ。

 半分しかない左手を、(ほこ)らしげに伸ばす。



「朽ち灯。また頼む」


 ……これがシーカの言葉か?

 まったくツっかえることなく言った。


「自分で・わかったよ。ま、ま、魔力とかいうのが・も、戻るのが」

 ツっかえまくる。



『クハハ、またお前で楽しめるな』

『お前は楽しい。楽しませてくれよる』

『……しかたない、また使ってやるとするか』

 ザアアアアアアアア。

 ザラザラ。

 カチャン、カチャン、カチャン。 

 朽ち灯が左手に結集していく。籠手のかたちを()していく。


 結集、した。

 シーカと朽ち灯が、またひとつとなった。


『クク……完全復活だ』

 シーカの手に、朽ち灯はふたたび籠手となった。


「さい、こう」

 感無量のシーカ。



挿絵(By みてみん)



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終身刑の魔女より

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いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[一言] □/『だがまあ、お前にしては頑張ったな』 ツンデレか(笑) 朽ち灯帰ってきたー
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