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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第22章「とてつもないパワーを焼き捨てる脱力劇へ」
204/249

第204話 「エアリアル」



挿絵(By みてみん)



『ゴキブリどもめ、逃がさんぞ!』

 ()義肢(ぎし)の目がどこにあるのかはわからない。だが2人の位置はわかるらしい。正確に追いかけてくる!


「う、上へ行け! ヤバいヤバイヤバイ!」

「ハア、ハア! も、もう死ぬ……!」

 ズシン、ズシン。

 がんばれトラ。


 真下は湖。

 下には逃げられない。水な義肢が「水」を纏ったら、いよいよ逃げられない。いやそれ以前に、落っこちたら最後だ。


 ズシン、ズシン!!

 外壁を砕きながら、トラは必死に壁を登る。フォックスを背負ったまま、すごい根性だ。とにかく()義肢(ぎし)から離れなければ。

「ハア! ハア! ゼーゼー!」 


「う、う、腕が、腕が(しび)れ……」

 忘れていたが、フォックスは腕を大ケガしていたんだった。だんだんズリ落ちていく。死ぬ死ぬ!

「トラ、さっさとなんとかしてくれ!」

 悲鳴。


 なんとかと言われても。

 このまま屋上まで上がるしかない。いや、壁のあちこちには窓がある。水な義肢から距離をとって、ふたたび城内に逃げこんだほうが安全だ。

 いやいや!

 距離を取るんだったら、安全圏まで行ってから下に降りるほうが確実だ! 



  しかし、魔王城は許さない。



 バリィイイイイイン!!

 ガシャアア!!

「見つけたぞ、バーベキューファイア!」

 

 トラの1メートル前方……つまり真上! まさにいま飛びこもうと思ってた窓が砕け、さっきの黒フードのひとりが身を乗り出した。ガラス片の雨がトラに降りそそぐ。

「痛てて、痛てて!」

「うわあ出やがった!」


 黒フードは全身からブスブスと煙を放っている。さっきフォックスが放った火炎攻撃のせいに違いない。彼は斧を使ってガラスを粉砕したようだ。

 その斧を、トラに向かって振り上げたではないか! こんな近くから投げつけられたら避けられっこない!

「くらいやがれ!」


 斧が飛んでくる……よりも早く!


「お前が食らえ! とおおおお!」

「えっ、うわあ!」

 斧を投げられるより早く、トラはフォックスを背負い投げた。華麗な一本背負いだ!

「ぎゃあ!」

 絞め殺されるアヒルのごとき奇声を発し、フォックスは宙を舞う。


 重力的に見れば、下から真上に前転したことになる。人類初の偉業……なんて言ってる場合じゃない。遠心力たっぷりに加速したフォックスのカカトが、黒フードの顔面を襲った!

 ズガァッ!

 

「ぐぶぁ!」

 叩き殺されるアヒルのごとき声をあげ、男は真うしろに蹴り倒された。


「どわ―――、落ちる落ちる!」

 今度こそ宙ぶらりんのフォックス。トラの両腕にしがみつき、必死で足をバタつかせる。

「ななななにしやがんだ! さっさと引っぱりあげろ!」


「ゼーゼー! す、少しは俺の役に立て! ゼー、ゼー!」

 息も絶え絶えのトラ。

 ドシンドシンと窓に向かう。とにかく城の中へ……


 ダメだった。



「ウラァ!」

 窓からまた別の黒フードが! ややこしいので黒フード2号としよう。黒フード2号が、トラめがけて斧を振り下ろした。

 ガキン!!

 長靴に直撃! 足枷(あしかせ)でなければ、足首が切断されていただろう。

 

「うぎゃあ! なにしやがる、こいつめこいつめ!」

「バカ、やめろ……ぎゃあぎゃあ!」

 トラのすごい技が出た。

 ブウン、ブウン! 

 ムチを振るうごとく、フォックスをメチャクチャに振りまわす。黒フード2号はたまらず城の中へ身をひそめた。

「いまだ、逃げろ!」

「ギャア――――――!」


 ズシンズシンズシン!

 完全に目をまわしたフォックスを抱え、トラは屋上へと逃げる、逃げる!



挿絵(By みてみん)



「逃がすかコラァ!」

「追え、追うんだ!」

 黒フード2号と3号が窓の外に出た。あろうことか両手の斧を外壁に叩きつけ、それをくり返しながら垂直の壁を登ってくる。

 ズガンズガンズガン! 

 まるでニンジャだ。


「おおおおおお!?」 

 トラはもう、足がちぎれそうだ。なんでこんな次から次に、化け物級の使い手が現れる!?

「のああああああああ!! し、死んでたまるか……とああああ!」


 ズギャッ、


  ズギャッ、



   ズギャア!


 

 駆け上がった。

 ついに屋根にたどり着いた。


 ガシャ、ガシャ、ガシャア!


 (かわら)、瓦、瓦! 

 何百万枚あるのだろう、瓦!

 山なりになった斜面を踏み越えると、(たいら)なてっぺんにたどりついた。陸上競技場ほどもある、広大な魔王城の屋上―――なんという広さだ。


 な、なんという景色……空がいちだんと近くなった気がする。たたきつけられるほど風が強い。

 

 魔王城周辺の全景が見渡せる。

 森のなかを通ってきたから、どこか人里離れた場所かと思った。ちがう、数キロ先には巨大な町が見える。遠くに海も見える。

 周囲は自然公園のようになっているらしい。丘は堀にぐるりとかこまれ、魔王城の区画だけが島のように孤立しているようだ。

 

 どう考えてもここから逃げるには、来るときに渡った橋を通るほかない。できるのか、そんなこと。あんな長い橋を通過するのは、撃ち殺してくれと言ってるようなものだ。どうするどうする―――


 そんな場合じゃない!



「ハア、ハア!」

 ズシャズシャ。

 天辺(てっぺん)……本当に何もない、だだっ広すぎる。400メートルくらい離れたところに別棟の屋根が見えるが、それ以外はなにもない。

 空。

 空しかない! 


 ここから全体像を見たことで、魔王城の構造が初めて理解できた。漢字の「(さんじゅう)」のようになっていたのだ。正確にはもう少し複雑な形だが、とにかくトラ達は「丗」の最後尾に立っている。


 トラはフォックスを背負ったまま、屋根の反対側を目指す。ふらふらのフォックスが落っこちないように、しっかりとしっかりと彼女の下半身を支えた。お、降りるんだ、どこか安全な場所に降りるんだ。

「き、気絶しそうだぜ……うわッ!」

「ぎゃあ! うわあ!」


「捕らえたぜぇ!」

 最悪!

 ニンジャ2号、3号も屋根に駆けあがってきた。しかもトラ達から、それぞれ離れた位置にだ。右に2号、左に3号……どっちがどっちでもいい、挟まれた!



挿絵(By みてみん)



 同時に両斧を投げつける2号3号。

 ブンッ!

 ブゥン!!

 前後から4つの斧が飛んでくる。さらに左右のニンジャはナイフを抜き、タイミングをずらして投げ放った! たとえ斧をかわしてもナイフの餌食(えじき)だ。遮蔽(しゃへい)物もないのに、こんなの(かわ)せるか!


 いや、遮蔽物はある!

 ガキン!

 ガァン!

 ガキン! ギンッ! ()籠手(ごて)群がザアと集まり、2人の(たて)となった。


「ひい!」

「ひ―――!」

 トラもフォックスも、頭を抱えてうずくまる。だが2人にケガはない。間一髪、防御が間に合った。


 ……焼き籠手がトラまで守った? 

 フォックスはわかるが、トラまで? 

 (はじ)き飛ばされた斧とナイフが、屋根の斜面をすべって落下していった。


「なっ!」

「く、くそ!」

 ニンジャは、すかさずベルトからナイフを抜き取る。いや、ナイフではない。その(さや)だ。

 ただの鞘ではないらしい。先端が缶切りのようになっていて、側面はヤスリのような凹凸(おうとつ)が並んでいる。

 いや、ジャックナイフだ! サヤ自体が、アーミーナイフのような折りたたみ構造になっている。

「サガット! 女をやれ!」

「あいよ、兄弟!」

 ナイフを手に、前後から襲いかかった。



「広がれ、()籠手(ごて)!」

 叫ぶフォックス。

 たがブロックはぜんぜん動かない。

 はて? みたいな感じでウロウロと浮くばかりだ。


「ぎゃあ何やってんだ広がれよ! アタシを中心に5メートルくらいの円になってホイール状に回転しろ! バリアみたいになれ!」

 めっちゃ詳細に命令。


 ザアアアアアアアア! 

 ブロックは理解したらしく、言葉どおりに回転をはじめた。マオちゃんが煙羅煙羅にそうさせたように、()籠手(ごて)も台風となって(あるじ)を守る。だがニンジャたちは、うかうかとこんなものにやられるほど素人ではない。


「ぬおっ!」

「しゃらくせえ!」

 ジャンプ!

 高い……なんという跳躍(ちょうやく)力、()籠手(ごて)のバリアを飛びこえた。



「うぎゃあ!」

「ひゃあ!」

 背中合わせのトラとフォックス。もう目の前に刃先が迫る、迎撃せねば死ぬ―――ってときに!



挿絵(By みてみん)



『見つけたぞおおおおおおおおおおお!!』


 ズガア!!

 水な義肢に追いつかれた! 

 絶叫!

 とてつもない声に、魔王城の屋根が端から端まで振動した。


 屋根に駆け上がるなり、いきなりアームが4人に襲いかかる。屋根を()ぎ取るかのようなラリアットだ。天井の一部がズドンと吹っ飛んだ。

「ぎゃあ!」

「ぐあ……!」

 空中高く放りあげられたニンジャ2号、3号。この高度から転落して助かるだろうか? いや、敵の心配してる場合じゃない。


 トラとフォックスは?

 いた。

 ズッシズッシとまだ逃げている。2人とも四つんばいのところを見ると、腰が抜けたらしい。

「このボケ、あっち行け!」

「落ちやがれ、くらえくらえ!」

 ショックで幼児退行したみたいな2人。(かわら)を拾っては、水な義肢に投げつける。

 ガシャン。

 カシャン。


 もちろん()義肢(ぎし)は、瓦などものともしない。


『フハハ……楽に死なれてはつまらんからな。どうだ、どちらから死ぬ? どちらが先に死ぬか選ばせてやるぞ』

 ガシャ。

 ガシャッ!

 瓦を踏み砕きながら、ゆっくりと近づいてくる。

『これだ。愛するものをかばい、自分を先に殺してくれと懇願(こんがん)しあう姿の美しいことよ……愛を(ほうむ)るのはこたえられん』



 ……(けだもの)

 化け物、いや悪魔と呼ぶ価値もない。



 トラとフォックスは―――


「お、俺だけは助けてくれ! そ、そうだ、フォックスに憑りつけよ! この女はアイテムが好きなんだ!」

「てめえふざけんな! よく女をいけにえに出来るな! ア、アタシはイヤだ、イヤだ!」


 おたがいを差し出しはじめた。

 ……(けだもの)

 悪と呼ぶ価値もない。わめきながら2人は(あと)ずさる。どこに行こうというのか、ここより高いところなどないのに。


 

『……よくも期待を裏切ってくれたな。つまらん、本当につまらん。ここまで殺し甲斐(・・・・)がないとはな……』

 おそろしい声。

 あきれ果てた、と言わんばかりの恐ろしい声がとどろく。

『もういい、せめて我の最大奥義で死ね。むごたらしく(つぶ)れる姿でも見ないことには、気が晴れんわ』


 ガシ!

 右のアームをガッシリと屋根に突きたてた()義肢(ぎし)。アームは後ろに伸び、本体が離れていく。そして左のアームも、ぐんぐんと空に向かって伸びていくではないか。

 一直線。

 一直線になる。

 こ、これはまさか……助走!? 一気に縮むことで渾身(こんしん)のパンチを撃とうとしている!?



挿絵(By みてみん)



「ぎゃあ! やめてくれ!」

「おわあ、()籠手(ごて)! ブロックブロック!」

 泣き叫ぶ2人。

 もうアカン。



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終身刑の魔女より

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いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



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