第10話 「エピローグ…ノン! ディスイズ プロローグ!」
翌日―――
「おい聞いたか、リット組合の事務所が全焼したの」
ざわざわ。
「組長が自分で火ィつけたんだろ? でも自分じゃねぇって言ってるらしいぜ」
「バーベキューファイアに燃やされたとか言ってるそうだ」
がやがや。
「そりゃ否認するさ。余罪もざっくざく出てきてんだろ?」
ははは。
「なんでもすげぇデブでよ。10トントラックで連行されたそうだ」
「はは、まさか……うん? おい、向こうの岸にいるのトラじゃねえか? おいおい、長靴履いてないぜ。サンダル履いてやがる」
「え? どれ……似てるけど違うよ。あいつが長靴を脱げるはずねえし。第一、女の子と一緒だぜ?」
ははは……
……
…
※ ※
「世話になったなトラ、んじゃ」
「ああ、気ィつけてな。バーベ……フォックス」
ドッドッドッと大型のオートバイにまたがり、フォックスが別れを告げる。
おなじ呪いをかけられた2人の、最後の挨拶。
昨日と同じ場所……あれから24時間も経っていない。
だが2人の別れは、ただの別れではない。
新たな人生の門出である。
「ほれ、これプレゼント」
「え……なにこれ?」
フォックスが体をひねって、バイクのリアボックスから紙袋を取り出した。
「スニーカーだよ、約束の」
「約束……? アッ、思い出した。ま、マジ!? ほんとに? う……うれしい……」
「ホラ早く」
「あ、ありがとう! ど、どんなだろ……」
トラの口元がゆるむ。
なんだよなんだよ、かわいいじゃないかこの女。
女の子にモノをもらうなんて人生初めてだ。
呪いが解けるとは、こんなにも、こんなにも……言いつくせない!
ど、どんなんだろうスニーカー。
ガサゴソ。
「あっ!!」
トラが驚いて声を上げた。
中に入っていたのは、まぎれもなくスニーカー。
しかし……
「こ、これは……!」
赤ちゃん用。
サイズが10センチくらいしかない。クマちゃんの刺繍が入った、小っちゃいカワイイやつだ。
「な、なんじゃこりゃあああああああああああ!」
「あっはっは! 大切にしてね!」
ブォンとアクセルを回し、バイクはスッ飛んで行った。
「しばくぞコラァ!」
ペタペタペタペタ!
サンダルでバイクを追うトラ。信じがたい速さ……と鬼のような形相。
「バカにすんな! アぁ――――――!」
「速や! 人間かお前!」
逃げるフォックス。
追うトラ。
すごいスピードだ。
「待て――――――! ハア! ハア!」
「捕まえてごらんなさ―――い」
走る、はしる。
かくして2人は呪いから開放された。
2人の人生は、ようやく始まったばかり―――
え?
長靴と籠手の正体ですか?
えー、むかーしむかし……
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昔々 ある国に 無敵の鎧がありました。
その名を「 重たい鎧 」と言います。
なんでも切れる刀。
世界一かたいカブト。
火を吹く籠手。
しかし鎧はだれにも扱えませんでした。
足があまりにも重かったのです。
「だったら足の部分は いらない」
人々の手により 鎧は13個に分けられました。
そして世界中に散らばったのです。
しかし鎧の意思は 執念は、
死んでいませんでした。
彼らの望み それは、
『 再び ひとつに…… 』
鎧は人間に取り憑き、ノルマを課しました。
人間を移動の手段に使うために。
次に鎧を着るのは あなたかもしれません。
決して途中でノルマを投げ出さぬよう……
童話「 おもたいよろい 」より
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同日、深夜。
「ハア、ハア、とうとう捕まえたぞゴラぁ! 」
町から50キロ離れた山道で、フォックスはトラに捕まった。
ガソリンの無くなったバイクは、道の真んなかに転がされて、プスンプスンと煙を吐いている。
乱暴に担がれたフォックスが、トラの腕で暴れる。
じたばた。
「俺がお前を燃やしてやる! キツネ色になるまであぶってやる!」
「ギャーどこ触ってんだテメ! わかっ、ゴメ! やめて!」
フォックスを担いで町に引き返すトラ。
やめろ離せと喚くフォックス。
「警察に突き出してやる! 1000万年服役させてやる! ワーワー!」
「やだやだアタシは自由だ! やだやだ! ワーワー!」
男女の絶叫が山中にとどろく。
かくして―――
かくして呪われた鎧の物語は、幕を開けた。
1600年かかって、ようやく幕を開けた。




