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男爵令嬢エステルは鶴の王子に溺愛される  作者: 倉本縞


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41.一件落着……?

 誰か助けてくれ、というわたしの切なる願いを神様が聞き届けてくれたのかどうかは知らないが、その時、王宮の警備兵がやっと中庭に到着した。

「何事ですか!」

 警備兵が荒らされた中庭を見て、鋭く言った。


「わ、わたしはそこの不法侵入者にさらわれそうになりました! 婚約者であるグルィディ公爵閣下が、それを止めようと戦ってくださったのです!」

 遅いよ! と泣きそうになりながら、わたしは警備兵たちに訴えた。


 さっさと捕まえろ、とユラン殿下を指し示したが、殿下があまりにも堂々としているので、警備兵たちは戸惑ったように目を見交わしている。ひょっとしたらズメイ王国王族の顔を知っているのかもしれない。

「……その、そちらの方が、グルィディ公爵閣下に攻撃を? 失礼ですが、そちらの方はズメイ国の王族では……?」

「いや、それはそうなんですけど、公爵閣下は羽根に怪我を……」

 言いかけて、そう言えばなぜか怪我が消えてしまったんだ、と思い出し、わたしは口をつぐんだ。


 どうしよう、なんて説明すれば、と困っていると、

「……ハーデス男爵令嬢の言う通りだ。俺はズメイ王国の元王子、ユラン・ベル・リス・ズメイである。王妃殿下付き侍女を脅し、ハーデス男爵令嬢をさらおうとした」


 なんとユラン殿下自身が、自分の犯行を自供した。

……しかし、やっぱり堂々としている。どう見ても犯罪者の態度ではない。


 警備兵たちはますます困惑した表情になった。

「ズメイ王国の王子が男爵令嬢を……?」

「元、だ。俺はすでに王籍を剥奪されている」

 腰に手を当て、ふんぞり返って偉そうに告げるユラン殿下。なんでそんなに偉そうなんだろう……。


「エステル」

 ふいにユラン殿下がわたしを振り返った。

「俺は、ようやく己の望みがわかった。……俺は前世を悔いながら、おまえへの執着を断ち切れずにいた。鶴の王子がおまえの婚約者となったと聞いた時、ふたたびおまえを殺すしか道はないのかと思ったが……、おまえの言葉で目が覚めた」

ユラン殿下は、ニッと笑った。その赤い瞳が嬉しそうにわたしを見つめている。


「俺はおまえの下僕となり、生涯をおまえのために尽くそう!」


「……え……」

 ユラン殿下の笑みは何かを吹っ切ったように清々しく、その美形度を上げていたが、なんか……、なんか言ってる内容おかしくない?


「ふざけるなこの犯罪者が! おまえなど二度とエステルに近づけるものか!」

 隣でクレイン様がキレて怒鳴っているが、ユラン殿下はフンを鼻で笑うと警備兵に「牢はどこだ? 案内せよ」と横柄に命令した。


 警備兵は、戸惑いながらも「あ、牢ですか? こちらですが……」とうやうやしくユラン殿下を案内している。

 よくわからないけど、早くその危険人物を連れていってくれ! と思っていたら、ユラン殿下がちらりとわたしを見た。


「エステル、待っていろ。出牢したらすぐ、おまえのもとに駆けつけ、おまえの下僕となろう」


 そう告げるユラン殿下の顔は晴れ晴れとして幸せそうで、言葉の内容さえ考えなければ、良かったですねえと言いたいところだけど……。


「……いや、なんで下僕……」

 わたしは呆然とつぶやいた。


「厄介なことになったな。蛇族はしつこいぞ」

 隣でクレイン様が忌々しそうに呟いている。


 ふう、とクレイン様はため息をつくと、わたしの腰に手を回した。

「……とにかく、そなたが無事でよかった。いかにズメイ王国の王族とはいえ、あやつはアヴェス王国の大使館を襲撃したうえ、ファイラス王国の王宮内に無断侵入したのだ。しばらくは牢で大人しくしているだろう」

「そ、そうですね……」

 しばらく、か。一定期間が過ぎて出牢したら……、いや、いま考えるのはよそう、うん。


「エステル」

 クレイン様が真剣な表情でわたしを見下ろし、言った。

「そなたには話すのが遅くなってしまったが……、二十年前の事件について、私の推測も含めてだが、そなたに説明しておこう」


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