表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男爵令嬢エステルは鶴の王子に溺愛される  作者: 倉本縞


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/47

38.蛇族と鶴族


 どうしよう、とわたしが考え込んでいると、

「エステル!」


 中庭に駆け込んできた人物に気づき、わたしは安堵のあまりその場に座り込みそうになった。


「エステル!」


 クレイン様。月の光のような銀髪をなびかせてこちらに駆け寄ってくる姿は、まるで物語の王子様のように美しくかっこよかった。

「クレイン様」

 思わずそちらに一歩、足を踏み出したが、


「おまえは俺の妻だ!」

 ユラン殿下に肩をつかまれ、わたしは強引に殿下の背後に隠されてしまった。


「きさま、エステルを放せ!」

「うるさい、エステルは俺の妻となる人間だ!」

 ユラン殿下の言葉に、クレイン様が「なんだと」と柳眉を逆立てた。


「よくもそのような世迷言を。……きさま、私が何も知らないとでも思っているのか! 前世、きさまはエステルと結婚の約束を交わしたわけでもなんでもない! ただ一方的にエステルに想いをかけ、後を追い回しただけではないか!」

 わたしは驚いてクレイン様とユラン殿下を交互に見た。


 え。……それじゃわたし、別にユラン殿下と結婚の約束したわけじゃなかったの? 一方的にって、わたし前世でもストーカーされてたわけ?


「うるさい!」

 ユラン殿下は大声で怒鳴った。


「おまえなど、後から俺とエステルの間に入ってきた邪魔者のくせに! 余計なことを言うな!」

「邪魔者はそちらのほうだ」


 クレイン様はユラン殿下を見据え、怒気をはらんだ声で言った。

「エステルはおまえの妻などではない、わが伴侶だ。おまえは一方的にエステルに片思いをしているだけだが、私とエステルは互いに愛し合っている」


「黙れ!」

 ユラン殿下は激昂し、右手を振り上げた。

次の瞬間、何か黒い塊がクレイン様目がけて飛んでいったが、クレイン様はすんでのところでそれを避けた。


「クレイン様!」

 クレイン様はバサッと翼を現し、宙に舞い上がった。白く大きな翼が月の光を浴びて輝き、こんな時なのにわたしはその美しさに見惚れてしまった。


「きさま、ファイラス王宮内で蛇族の力を使うつもりか」

「だとしたら何だ。蛇族にとって、伴侶以上に大切なものはない。王宮がどうなろうと俺の知ったことか」

 ユラン殿下は吐き捨てるように言うと、ふたたび右手を振り上げ、空中に浮かぶクレイン様へと黒い塊を投げつけた。


「クレイン様!」

 クレイン様は翼をはためかせ、ユラン殿下の放った黒い塊をはね返した。しかし、ユラン殿下の力のほうがわずかに勝ったのか、空中でややバランスを崩した。


「ハッ」

 ユラン殿下が嘲笑した。

「鶴族の王子と聞いたが、俺の半分の力もないのではないか? 殺されたくなくば、大人しく退くがいい」

「退くのはおまえのほうだ」

 クレイン様は翼で風を起こしたが、ユラン殿下はうるさげに手を振り、風の方向を捻じ曲げた。


「これで終わりか? 鶴は天人族の頂点に立つと聞くが、大した力を持たんようだな」

 ユラン殿下はクレイ様へ続けざまに黒い塊を投げつけた。

クレイン様はそれを避けきれず、翼に黒い塊の直撃を受けた。


「クレイン様!」

 わたしは悲鳴を上げた。


クレイン様は、羽を傷つけられた蝶のように中空に不安定な軌道を描き、王宮の中庭に墜落してしまった。


「エステル、行くぞ」

「放して!」

 ユラン殿下に肩をつかまれ、わたしはもがいた。


 クレイン様は中庭の噴水近くに落ちたまま、身動き一つしない。

 どうしよう。

 クレイン様!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ