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男爵令嬢エステルは鶴の王子に溺愛される  作者: 倉本縞


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29.癒しの時間終了

 クレイン様は、「本当に大丈夫なのか?」と何度も心配そうにわたしに確認したが、わたしは笑顔でうなずいた。

「はい、クレイン様にお会いできて、寂しさも吹き飛びました! ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」

「エステル……」


 クレイン様は眉尻を下げ、心配そうな表情をしている。それへ、

「あ、それとクレイン様、これを」

 わたしは神官から預かった書類をクレイン様へ渡した。


「先日、王宮の神殿でお預かりしたものです。なんでも二十年前の神殿焼失について調べたものだとか」

「ああ、その件か」

 クレイン様はうなずき、書類を受け取った。


「あの……、二十年前ってわたしとクレイン様が出会った頃ですよね? なにか関係があるのですか?」

「うむ……」

 クレイン様は考え込むように顎に手をあてた。


「もしかしたら、そなたは前世、神殿の関係者だったのかもしれぬと思ってな」

「神殿の関係者?」

 わたしは首をかしげた。なぜそんな推論に。


「いろいろ理由はあるが、私がそなたを見つけられなかったのは、そなたが神殿に匿われていたからではないかと思い至ったのだ。……神殿がそなたを秘匿していたのならば、私の力も及ばぬゆえ」

 ええー、それは考えすぎなんじゃ。

 神殿が外界からの干渉をはね退けてまで匿うなんて、政争に巻き込まれた王族とか不世出の聖女とか、それくらいだと思うけど。


「まあ、この事件がそなたと関係があるかどうかは、まだわからぬ。深く調べるのは蛇の始末を終えてからだ」

「そのことですけど、クレイン様、くれぐれも無理はなさらないでくださいね」

 わたしは心配になって言った。


「今は体調も万全ではないとのことですし、そんな状態で蛇族と戦うなんて、絶対にやめてください」

「エステル」

 クレイン様は、それはそれは嬉しそうな表情で微笑んだ。まぶしい。後光が差してるうえ、背後に花が咲き乱れて見えるんですけど。


「むろん、そなたに逆らったりせぬとも。すべてそなたの望み通りにする。……だから、明日も明後日も私の心配をしてくれ。私のことを考えてくれ」

「クレイン様ってば」

 わたしは思わず笑ってしまったが、クレイン様は大真面目だった。


「……わかりました。毎日、クレイン様のことを心配して、毎日、クレイン様のことを想っています」

「エステル!」

 クレイン様はぎゅうっとわたしを抱きしめ、感極まったように言った。


「ああ、私はなんという幸せ者なのだろう。伴侶を愛し、愛され、婿入りすることもできる。……こんなに幸せでよいのか、怖いくらいだ」

 いくらなんでもそれは言い過ぎです。


 クレイン様はキーラ様がわたしを呼びにくるまで、ずっとわたしを抱きしめていた。

「……グルィディ公爵閣下、申し上げにくいのですが王妃殿下がエステル嬢をお呼びですので」

 キーラ様が気まずそうな表情で言った。申し訳ありません。

「そうか」

 クレイン様はわたしを見下ろし、ため息をついた。


「そなたと共にいる時は飛ぶように過ぎてしまう。名残惜しいが仕方ない」

「クレイン様」

「もう少しの間だけ、待っていてくれ。なんの憂いもなく過ごせるよう、環境を整えて迎えにくるゆえ」

「はい、お待ちしております」


 キーラ様に連れられて中庭を去ってゆくわたしを、クレイン様は立ち尽くしたまま見送ってくれた。

 わたしも何度も振り返り、クレイン様に手を振った。


 うう、このままクレイン様と一緒に帰りたい……。


 王妃殿下の私室に戻ると、

「あら、ずいぶんとごゆっくりでしたわね」

「王妃殿下付きの侍女となって日も浅いのに、勤めを放り出して遊んでばかりだなんて、これだから下賤の者は」


 さっそくナタリー様とケイト様が嫌味を投げてきた。


 う、うう……。

 頑張れ、耐えるんだ、わたし。

 クレイン様にこれ以上、負担をかけるわけにはいかないんだから。


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